博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『興亡の世界史02 スキタイと匈奴 遊牧の文明』

2007年07月20日 | 世界史書籍
林俊雄『興亡の世界史02 スキタイと匈奴 遊牧の文明』(講談社、2007年6月)

第05巻の『シルクロードと唐帝国』と似たような感じになっているのかと思いきや、こちらはヘロドトスの『歴史』や司馬遷の『史記』といった文献史料に見えるスキタイ・匈奴像と、考古学による成果から見えてきたスキタイ・匈奴像を丁寧にまとめていて、随分とそつの無いつくりになっています。

興味深かったのは旧ソ連で発見された、匈奴の支配領域での農耕集落跡の住民をめぐる話です。遺跡から発掘された土器や農具、鏡などが中国のものと類似しているといったことから、この遺跡の住民は漢から逃亡してきた農民であると見るのが自然なのですが、旧ソ連では定住化した匈奴が住民であったという説が有力であったとのことです。そういった説が有力となった背景として、1960年代以降に領土問題を含めて中ソ関係が悪化したことから、古代においてもソ連領内にあたる地域に中国人の集落が存在したと認めることが政治的に不都合であると見なされたからではないかと、著者は推測しています。

やはりいつの時代のどんなテーマであろうと、政治的な影響は免れないものなんでしょうか……

本書ではまた匈奴・フン族同族説についても検討を加えていますが、これについては考古学の成果によってもまだまだ証拠が不充分であるようです……
コメント
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