博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2019年3月に読んだ本

2019年04月01日 | 読書メーター
立憲君主制の現在: 日本人は「象徴天皇」を維持できるか (新潮選書)立憲君主制の現在: 日本人は「象徴天皇」を維持できるか (新潮選書)感想
前半でイギリスの立憲君主制の成立史を、後半で各国の君主制の様相を解説。特に後半部を面白く読んだ。ナチスへの抵抗の象徴となったノルウェーのホーコン7世と、ナチスに降伏したことで大戦後に国王に復帰できなかったベルギーのレオポルド3世など、各国の君主制あるいは君主個人への毀誉褒貶を見ていると、継承の安定とともに、危機に際して国民が納得する形で良識を示し続けることができるかどうかが日本の象徴天皇の生き残りの鍵ではないかと思った。
読了日:03月03日 著者:君塚 直隆

近現代日本史との対話【戦中・戦後―現在編】: 戦中・戦後―現在編 (集英社新書)近現代日本史との対話【戦中・戦後―現在編】: 戦中・戦後―現在編 (集英社新書)感想
今巻は日中戦争から現在までをカバー。ベルリン五輪で金メダルを獲得した孫基禎の評価をめぐり、朝鮮は本書の位置づけるシステムBⅠ(統制経済・総動員体制)に対してシステムAの理念(民族)でもって対抗したとか、終戦直後の東久邇宮稔彦首相の唱えた「一億総懺悔」について、この一億は台湾・朝鮮などの植民地人も含めた数であり、東久邇宮が敗戦という事態をまるで理解していなかったといった、植民地あるいはマイノリティをめぐる議論が読ませる。
読了日:03月05日 著者:成田 龍一

天皇はいかに受け継がれたか: 天皇の身体と皇位継承天皇はいかに受け継がれたか: 天皇の身体と皇位継承感想
各時代の皇位継承と、参考事例として海外の君位継承についてまとめた論集。藤田覚論考の、短命の天皇が相次ぐなど、意外に近世の皇位継承が順調に行われず、それが女帝後桜町天皇の即位につながったということや、皇位継承から改元までは1~2年の間が空くのがままあったという指摘を興味深く読んだ。また河西秀哉論考が戦後の退位論を追っているのも面白い。
読了日:03月07日 著者:

目録学の誕生――劉向が生んだ書物文化 (京大人文研東方学叢書)目録学の誕生――劉向が生んだ書物文化 (京大人文研東方学叢書)感想
劉向らの校書事業とその影響を中心に議論する。校書について、当時の学術の状況や時代背景だけでなく、劉向の家系にも注目して論じているのが面白い。第8章で言及されている、劉向校定本の影響力の大きさは承知しつつも、その影響が及ばなかった範囲はあるという話はどこか頭の片隅に置いておくべき問題だと思った。
読了日:03月10日 著者:古勝 隆一

378年 失われた古代帝国の秩序 (歴史の転換期)378年 失われた古代帝国の秩序 (歴史の転換期)感想
ローマ的秩序がなお保たれているようでいて、気がつけばゲルマン的秩序、あるいはビザンツ的秩序に置き換わっている東西ローマと重なり合うようで重なり合わない漢帝国以後の中国。前巻と合わせて、中国史の古代・中世をヨーロッパのそれと歩調を合わせようとした宮崎市定の発想がどの程度妥当なのかを読者に探らせるような内容となっている。
読了日:03月13日 著者:

「日本スゴイ」のディストピア 戦時下自画自賛の系譜 (朝日文庫)「日本スゴイ」のディストピア 戦時下自画自賛の系譜 (朝日文庫)感想
「日本人に生まれてよかった」「××を食べるから日本はスゴイ」など、現在メデイアに氾濫する「日本スゴイ」言説が戦前戦中に既に存在しており、かつブラック労働を礼賛する、学校の掃除に精神性を見出すなどの現代日本の病巣が戦前戦中から受け継がれてきた日本の「伝統」「美徳」であることを示す。本書で示される戦前戦中の精神とのつながりを思うと、一部の人が好んで吹聴する戦後の連合国側による宣伝工作だの洗脳だのとは一体何だったのかという気がしてくる。
読了日:03月14日 著者:早川タダノリ

漢字の字形-甲骨文字から篆書、楷書へ漢字の字形-甲骨文字から篆書、楷書へ感想
漢字の時代的な字形の変化を中心に見る漢字本(あるいは字源本)。楷書の段階の異体字にも、古文字にその起源をたどれるものが以外に多いという印象。ただ、第七章に関しては字形の変化を「字源説の変化」ととらえてかなり踏み込んだ解説をしているが、単に字形の訛変ということで解説した方がよかったのではないかと思う。
読了日:03月20日 著者:落合 淳思

古代日中関係史-倭の五王から遣唐使以降まで (中公新書 2533)古代日中関係史-倭の五王から遣唐使以降まで (中公新書 2533)感想
中国に対して対等の立場を求めたとされる聖徳太子の遣隋使派遣だが、実際のところは日本側が対等の立場を求めたわけではなく、冊封を求めなかったのは同時代の朝鮮半島諸国も同様であったという議論や、また中国側から派遣された使者も朝命の伝達を優先し、諸外国の王にへりくだった礼をとることもあったという指摘、日本では中国への朝貢が直系の君主が代替わりの際に行うものになっていたという話を面白く読んだ。近年従来の冊封体制論の修正を迫る論著の刊行が相次いでいるが、本書もそのひとつと位置づけられる。
読了日:03月22日 著者:河上 麻由子

社会学史 (講談社現代新書)社会学史 (講談社現代新書)感想
社会学前史として位置づけられる社会契約論から、デュルケーム、ヴェーバー、パーソンズ、フーコー等々、社会学の研究史を総覧できるものとなっている。総花的ではあるが文脈がないわけではなく、また読者の関心の持ちようによってそれぞれの文脈を作れるようになっている。私はその理論が実際の社会に大きな影響を与えたロック、「天使の立場」としての傍観者に満足できず、世界に変化をもたらしたいという秘められた野心があったというヴェーバーなどの姿から、傍観者に徹するか社会の変革者になるかのジレンマの歴史として本書を読んだ。
読了日:03月31日 著者:大澤 真幸


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