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博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『興亡の世界史09 モンゴル帝国と長いその後』

2008年03月27日 | 世界史書籍
杉山正明『興亡の世界史09 モンゴル帝国と長いその後』(講談社、2008年2月)

杉山先生は数多く概説書を書かれている割には今まで毎回新ネタを盛り込んでくれており、その点に好感を持ってました。で、今回はタイトルの『モンゴル帝国と長いその後』のうち「長いその後」の方に期待していたのですが、案に相違して本書の比重は「モンゴル帝国」の方に置かれており、おまけに期待していたほどの新しいネタが盛り込まれておらず、少々残念な感じがします。

そんな中で少々目を引いたのが、チンギス・カン家の「婿どの」となった世界の王侯の話です。ティムールは強大な勢力を築いた後も自らがカンやカアンの地位につくことはなく、チンギス・カンの末裔を傀儡のカンとして戴き、チンギス・カン家の女性を妻とすることで実権と権威の双方を得た。ロシアのイヴァン4世や清朝の皇室もこれと同様にチンギス・カン家の「駙馬」となることで権威を得ることが出来た支配者であり、高麗の王室などもやはりこうしたチンギス・カン家の「駙馬」として位置づけられることができる。

ここまでは良いとして、杉山氏はこのようなチンギス・カン家と駙馬家との関係が、日本の天皇と将軍、鎌倉時代の将軍と執権、あるいはモンゴル帝国やティムールとほぼ同時代の室町時代の将軍と管領との関係になぞらえることができるとし、更に、というか、「管領」っていう用語・概念そのものがモンゴル時代の大陸からの直輸入だよねとツッコミを入れているのが興味深いところです。前に取り上げた小島毅『足利義満 消された日本国王』といい、最近東洋学の立場から室町時代史にツッコミを入れるというのが流行っているんでしょうか(^^;)

あとは特に本書の第二章で『集史』の内容を紹介しているわけですが、こうなるとやはり手軽な形で『集史』を読んでみたくなってきます。しかし『集史』の訳本をつくる……というのは難事業のようなので、せめて新書とか選書でその概要や読みどころを解説した本を出してくれないかと思うのですが……