旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

17年の長きに渡り、ネット上で連載された
旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』のアーカイブサイトです!

イーラー・ガニ・さんしん

2018-02-10 00:10:00 | ノンジャンル
 人は音や見るものに反応する。それは個人差があろうが、とかく敏感に反応する。
 私の場合、それは何か。三線(さんしん)の音。文字を見ても、つい注目してしまう。一種の職業病と言えなくもない。報道人に憧れてその道を選択したのは新聞であり、放送であった。新聞社を経て、ラジオの世界に飛び込んでから、もう半世紀を超えた。
 琉球新報社在籍2年。琉球放送に移籍。丁度、琉球放送がテレビ放送を開始した1959年10月1日のこと。全国でも数少ないラジオ・テレビ兼営の同局。まずは目指す報道に身を置いたが、それも束の間「ラジオ制作部員を命ずる」の辞令1枚でラジオ番組、それもおきんわ芸能担当を命じられ今日に至っている。もっとも、ラジオをやりながら週1本のテレビのバラエティー番組のディレクターを7年経験してはいるが・・・・。
 それ以来、ラジオの沖縄芸能を担当するとなれば、毎日(さんしんの音)を聴くようになる。それが骨身に沁みて、今では、時、所を問わず(さんしんの音)に敏感に反応するようになってしまった。

 過日。
 芸能とは遠くはなれた生物に関する学術的記事に(サンシン)の文字を出会い、すぐに反応。興味を深くした。「イーラーサンシン」。それがどう繋がるのか。(イーラーは海月・水母・くらげの沖縄方言の総称)。記事はこう伝えている。

 琉球大学熱帯生物圏研究センターは、琉球列島で新種のクラゲを発見した。新種のクラゲは「コモチカギノテクラゲモドキ」属の仲間で、新種の発見は118年ぶりという。
 新種クラゲを発見した同海底研究施設のボスドク研究員、戸篠研究員は「触手が三線を弾く指の形にも見えるので、コモチカギノテクラゲのあとに(サンシン)を加えて正式に学術名として学会に発表するという。
 新種「コモチカギノテクラゲ・サンシン」は、傘の直径が約5ミリの小型種。傘は透明で口や触手がオレンジ色や蛍光色。夜行性で砂浜や藻場など岸近くに生息。
 戸篠研究員らは1999年から2003年にかけて宜野湾マリーナ、慶良間列島の阿嘉島、八重山石垣のフサギビーチで採取された標本から新種の可能性があると推測。2014年から2017年に改めて約50個体を名護市屋我地港から採集、DNA分析やクラゲになる前のポリプの状態などを観察して新種と確認した。
 仲間であるコモチカギノテクラゲは九州から東北までほぼ日本全域に生息。触手の先端がカギのようになっているが、新種の触手や数や生殖巣の形などに違いがあるという。
 生物学、いや、学術的な事柄に接すると頭痛を誘発する私だが、新種のイーラーに(サンシン)の名がついたことに、いたく感動を覚えるのは、3月4日の「ゆかる日まさる日さんしんの日」が控えているせいだろうか。
 その「さんしんの日」。今年、第26回を迎えて、読谷村立文化センター鳳ホールをメイン会場に9時間15分の公開生放送を実施する。

 生物と三線。八重山西表には「やぐじゃーま節」がある。(やぐじゃーま)は、蟹の1種の呼称。首里王府の圧政に苦労した島びとを蟹の生態に擬人化して歌われている。いわく。
 西表島古見(こみ)村のウサイ浜に棲むヤクジャーマ蟹は、ツメを上下に振り、古典曲「作田節=ちくてんぶし」を弾いているようだ。そのヤクジャーマ蟹の周辺には、蟹の1種シラカチャがいて、ヤクジャーマにならって連れ弾きしている。
 ここまでは島の長閑な風景だが、あとは深刻。漁師が登場するが、それは権力者・役人の擬人化。蟹は島びとを指している。
 力のないヤグジャーマシラカチャよりも強いガサミ蟹に生まれ、強い子を産みたい。若夏になれば水温み、強い漁師(役人)が漁火をかざして、われわれ弱い蟹を獲りに来る。右から左からも漁火をパチパチと飛び散らしながらやって来る。捕えられたらどうなる!ツメをプチュル・パダラ(擬音)をもぎ折られる。この悲惨な運命をどう変えればいいのか。何を頼りにこの身の安全を図ればいいのか。ともかく、マングローブ群を成す植物・ヒルギの陰に隠れよう。
 三線はこの島で生きる人たちの生きざまを克明に見聞きしてきたと言えよう。
 
 ♪楽や苦しみん 誰が知ゆが浮世 三筋三線どぅ 頼いさらみ
 《らくや くるしみん たがしゆが うちゆ みすじ さんしんどぅ たゆいさらみ

 歌意=楽や苦しみをこの浮世で誰が知ろう。三筋の糸をかけた三線のみが私の心の拠り所・・・。

 カンヒザクラは咲き、ソーミナー(めじろ)は「おらが春」を謳歌しているが、外は寒があたりを包んでいる。けれども、もう少しの辛抱。3月4日「さんしんの日」の歌三線が春を連れてやってくる。


最新の画像もっと見る