連載NO.385
琉歌百景○35〔昔節その③ 首里節=しゅゐぶし。すゐぶし〕
♪籬籠まてぃ居りば くくてぃるさあむぬ うす風とぅ連りてぃ 忍でぃ入らな
<ましくまてぃ WUりば くくてぃるさ あむぬ うすかじとぅ ちりてぃ しぬでぃ いらな>
*ませ【籬】。辞書には、➀〔まがき。ませがき〕。②「芝居小屋の枡の仕切り」とあるが、この1首の場合、江戸城大奥にあたる首里城の大内原<うーちばる>を示す。城人<ぐしくんちゅ>、城女童<ぐしくみやらび>と称する女官が4、50人詰めていた。大内原は男子禁制だが、その中の女官の宿直<とのい>の若侍に対する“想い”を大胆に詠んでいる。
歌意=籬内〈ましうち〉、つまり大内原に籠もってばかりいると〔くくてぃるさ=心落ちつかない様〕、気が滅入り心侘しい。うす風=と共に宿直の彼のもとへ忍んでいこう。
曲節に乗せる場合、この後に「里が番所=さとぅが ばんどぅくる」が付く。忍んで行く先は、思いびとが宿直をしている部屋であることが明らかになる。
また「うすかじ」については「そよ吹く風」とする説と「後風=うしかじ」「押風=うすかじ」とする説などの解釈が研究者の間にある。チラシは「仲順節=ちゅんじゅん ぶし」。
*琉球百景○36〔仲順節〕
♪別りてぃん互げに 御縁あてぃからや 糸に貫く花ぬ 散りてぃ退ちゅみ
〈わかりてぃん たげに ぐゐん あてぃからや いとぅにぬく はなぬ ちりてぃ ぬちゅみ〉
歌意=逢瀬のあとに今、しばしの別れがあったにしても、糸に貫きとめた愛という花は永遠に散ることはない。
貫くと退くを巧みにかけている。貫花〈ぬちばな〉は、春の花々を30個40個と複数を赤い糸に貫きつなげて、いわばハワイのレイのように作り、女童が愛する男に贈る〔愛の交歓〕の習慣。
沖縄本島中部に位置する中城村に「仲順」の地名がある。お盆に演じられる念仏踊り、通称エイサー唄に「仲順流り」はあっても“別りてぃん互げに・・・・”の「仲順節」そのものはない。しかし、平敷屋朝敏〈ふぃしちゃ ちょうびん=1700・11・30~1734・6・24〉の筆になる組踊「手水ぬ縁=てぃみじぬ ゐん」の主人公波平山戸〈はんじゃ やまとぅ〉と、深い愛を誓った女性真玉津〈まだまち〉の、しばしの別れの場の音曲として歌われることからして、歌詞、曲ともに平敷屋朝敏の創作と言われる。ただ、なぜ平敷屋は地理的に「手水ぬ縁」の内容とは関わりのない「仲順節」という節名にしたかは明らかではない。曲節は、すでにあったのを用いたとも考えられる。
*琉歌百景○37〔昔節五節その④ 諸屯節=しゅどぅん ぶし〕
♪枕並らびたる 夢ぬちりなさよ 月や西下がてぃ 恋し夜半
〈まくら ならびたる ゆみぬ ちりなさよ ちちや イリさがてぃ くいし やふぁん〉
歌意=愛しい人と枕を並べている夢を見ていたのに、風の音に驚いたかしてハッと目覚めた。時はと言えば、就寝のおりは中天にあった月が西に傾いている冬の夜半。なんとつれない夢を見たことか。冬の夜のひとり寝は、ことさら侘しい。
夜具になるのは己ひとりの温もり。しかし、それがふたりの温もりに思えてならない。そうなると思慕の念はますます増幅。ついには、冬の夜を悶々と明かしたに違いない。
作者は、赤嶺親方〈あかんみ うぇーかた〉。彼は女性の身になってこの1首を詠んでいる。男のひとり寝よりも、女のそれと解釈した方が恋歌としての情感は深みを増すと思うのだがいかが。チラシは「芋ぬ葉節=んむぬふぁ ぶし」
*琉球百景○38〔芋ぬ葉節〕
♪芋ぬ葉ぬ露や 真玉ゆか美らさ 赤糸あぐ巻ちに 貫ちゃいはきら
〈んむぬふぁぬ ちゆや まだまゆか ちゅらさ あかちゅ あぐまちに ぬちゃゐ はきら〉
歌意=陽が昇りきらない内に、芋の葉についた丸い朝露はキラキラと白く輝いて、真玉〈宝石。宝玉〉よりも清らかで美しい。ひとつひとつ赤糸に数珠繋ぎにし、あぐ巻ち〈首飾り〉を作り、あの人に差し上げたい。
蓮の花や芭蕉の葉ではなく、芋の葉にしたのは甘藷の茎が赤みがかっているのを知っていて作者は、赤い糸や飾り紐に貫いた首飾りを連想したのではなかろうか。芋の葉に浮く露なぞはつい見逃しがちだが、身近にある何気ない情景に歌心をそそられた感性、観察力は、実にすばらしい。
なお「諸屯節」の「しゅどぅん、しょどん」は、奄美大島の地名で「潮殿」の表記もあり、次の1首がある。
*琉歌百景○39
♪諸屯女童ぬ 雪ぬ色ぬ歯口 何時か夜ん暮りてぃ 御口吸わな
〈しゅどぅん みやらびぬ ゆちぬるぬ はぐち いちか ゆんくりてぃ みくちすわな〉
*雪の色と書いて「ゆちぬる」と発音。白い歯並びは古今、女性のチャームポイントのひとつ。*御口吸わな=口を吸う。口づけの意。
歌意=諸屯の乙女たちの雪のように白い歯は、なんとも魅力的。やがて日が暮れたならば誘い出して、口づけを交わしながら愛を語りたい。
〈次週につづく)
次号は2009年4月2日発刊です!
上原直彦さん宛てのメールはこちら⇒ltd@campus-r.com
琉歌百景○35〔昔節その③ 首里節=しゅゐぶし。すゐぶし〕
♪籬籠まてぃ居りば くくてぃるさあむぬ うす風とぅ連りてぃ 忍でぃ入らな
<ましくまてぃ WUりば くくてぃるさ あむぬ うすかじとぅ ちりてぃ しぬでぃ いらな>
*ませ【籬】。辞書には、➀〔まがき。ませがき〕。②「芝居小屋の枡の仕切り」とあるが、この1首の場合、江戸城大奥にあたる首里城の大内原<うーちばる>を示す。城人<ぐしくんちゅ>、城女童<ぐしくみやらび>と称する女官が4、50人詰めていた。大内原は男子禁制だが、その中の女官の宿直<とのい>の若侍に対する“想い”を大胆に詠んでいる。
歌意=籬内〈ましうち〉、つまり大内原に籠もってばかりいると〔くくてぃるさ=心落ちつかない様〕、気が滅入り心侘しい。うす風=と共に宿直の彼のもとへ忍んでいこう。
曲節に乗せる場合、この後に「里が番所=さとぅが ばんどぅくる」が付く。忍んで行く先は、思いびとが宿直をしている部屋であることが明らかになる。
また「うすかじ」については「そよ吹く風」とする説と「後風=うしかじ」「押風=うすかじ」とする説などの解釈が研究者の間にある。チラシは「仲順節=ちゅんじゅん ぶし」。
*琉球百景○36〔仲順節〕
♪別りてぃん互げに 御縁あてぃからや 糸に貫く花ぬ 散りてぃ退ちゅみ
〈わかりてぃん たげに ぐゐん あてぃからや いとぅにぬく はなぬ ちりてぃ ぬちゅみ〉
歌意=逢瀬のあとに今、しばしの別れがあったにしても、糸に貫きとめた愛という花は永遠に散ることはない。
貫くと退くを巧みにかけている。貫花〈ぬちばな〉は、春の花々を30個40個と複数を赤い糸に貫きつなげて、いわばハワイのレイのように作り、女童が愛する男に贈る〔愛の交歓〕の習慣。
沖縄本島中部に位置する中城村に「仲順」の地名がある。お盆に演じられる念仏踊り、通称エイサー唄に「仲順流り」はあっても“別りてぃん互げに・・・・”の「仲順節」そのものはない。しかし、平敷屋朝敏〈ふぃしちゃ ちょうびん=1700・11・30~1734・6・24〉の筆になる組踊「手水ぬ縁=てぃみじぬ ゐん」の主人公波平山戸〈はんじゃ やまとぅ〉と、深い愛を誓った女性真玉津〈まだまち〉の、しばしの別れの場の音曲として歌われることからして、歌詞、曲ともに平敷屋朝敏の創作と言われる。ただ、なぜ平敷屋は地理的に「手水ぬ縁」の内容とは関わりのない「仲順節」という節名にしたかは明らかではない。曲節は、すでにあったのを用いたとも考えられる。
*琉歌百景○37〔昔節五節その④ 諸屯節=しゅどぅん ぶし〕
♪枕並らびたる 夢ぬちりなさよ 月や西下がてぃ 恋し夜半
〈まくら ならびたる ゆみぬ ちりなさよ ちちや イリさがてぃ くいし やふぁん〉
歌意=愛しい人と枕を並べている夢を見ていたのに、風の音に驚いたかしてハッと目覚めた。時はと言えば、就寝のおりは中天にあった月が西に傾いている冬の夜半。なんとつれない夢を見たことか。冬の夜のひとり寝は、ことさら侘しい。
夜具になるのは己ひとりの温もり。しかし、それがふたりの温もりに思えてならない。そうなると思慕の念はますます増幅。ついには、冬の夜を悶々と明かしたに違いない。
作者は、赤嶺親方〈あかんみ うぇーかた〉。彼は女性の身になってこの1首を詠んでいる。男のひとり寝よりも、女のそれと解釈した方が恋歌としての情感は深みを増すと思うのだがいかが。チラシは「芋ぬ葉節=んむぬふぁ ぶし」
*琉球百景○38〔芋ぬ葉節〕
♪芋ぬ葉ぬ露や 真玉ゆか美らさ 赤糸あぐ巻ちに 貫ちゃいはきら
〈んむぬふぁぬ ちゆや まだまゆか ちゅらさ あかちゅ あぐまちに ぬちゃゐ はきら〉
歌意=陽が昇りきらない内に、芋の葉についた丸い朝露はキラキラと白く輝いて、真玉〈宝石。宝玉〉よりも清らかで美しい。ひとつひとつ赤糸に数珠繋ぎにし、あぐ巻ち〈首飾り〉を作り、あの人に差し上げたい。
蓮の花や芭蕉の葉ではなく、芋の葉にしたのは甘藷の茎が赤みがかっているのを知っていて作者は、赤い糸や飾り紐に貫いた首飾りを連想したのではなかろうか。芋の葉に浮く露なぞはつい見逃しがちだが、身近にある何気ない情景に歌心をそそられた感性、観察力は、実にすばらしい。
なお「諸屯節」の「しゅどぅん、しょどん」は、奄美大島の地名で「潮殿」の表記もあり、次の1首がある。
*琉歌百景○39
♪諸屯女童ぬ 雪ぬ色ぬ歯口 何時か夜ん暮りてぃ 御口吸わな
〈しゅどぅん みやらびぬ ゆちぬるぬ はぐち いちか ゆんくりてぃ みくちすわな〉
*雪の色と書いて「ゆちぬる」と発音。白い歯並びは古今、女性のチャームポイントのひとつ。*御口吸わな=口を吸う。口づけの意。
歌意=諸屯の乙女たちの雪のように白い歯は、なんとも魅力的。やがて日が暮れたならば誘い出して、口づけを交わしながら愛を語りたい。
〈次週につづく)
次号は2009年4月2日発刊です!
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