旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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ゆいレールが行く♪

2019-11-02 08:04:00 | ノンジャンル
 平成15年(2003)8月10日。沖縄初の都市モノレール・通称(ゆいレール)が開通。那覇空港から古都首里の東、汀良町(てら ちょう)在・首里駅まで15駅を走っている。
 営業距離12.9km。片道27分。2両編成・165人乗り。座席1両65席。商業地、在宅地を観ながら走行。儀保駅(ぎぼ)~首里駅では那覇市が一望できる上に、クジラ海峡と通称される慶良間諸島が目の前に広がる。四季を問わず、慶良間のその向こうに夕陽は、波が錦を織らせているかのようだ。

 各駅到着前には、それを知らせる木琴の演奏で10秒、沖縄メロディーが車内に流れる。駅順を追って沖縄メロディーを聴こう。

 ⑴=那覇空港駅。
  ♪谷茶前節(たんちゃめー)。
 *恩納村谷茶集落を舞台に、漁村の人々の日常から生まれた歌。沖縄人でこの節を知らない人はいまい。振付された踊りも有名。

 ⑵=赤嶺駅。
  ♪花の風車(はなぬ カジマヤー)。
 *わらべ唄。生まれ年を祝う生年祝儀(トゥシビーすーじ)の中でも97歳のそれを「かじまやー祝」と言い、「その齢になると人間、一切の悪欲、邪念を超越して、童心に還るとされる長寿祝いの歌。

 ⑶=小禄駅(おろく)。
  ♪三村節(みむら ぶし)。
 *近隣に豊見城、垣花の集落があるため、小禄・豊見城・垣花を合わせ読みして「三村節」とした。他に潮平(すんじゃ)、兼城(かなぐしく)、糸満(いちまん)三村。首里の赤田(あかた)、鳥堀(とぅんじゅむい)、崎山(さちやま)三村の歌詞もある。

 ⑷=奥武山公園駅(おおのやま)。
  ♪じんじん。
 *わらべ唄。「じんじん」は、蛍を指す幼児語。一般的には「ジーナー」。

 ⑸=壷川駅。
  ♪唐船どーゐ(とうしん)。 
 *唐船は王府時代、中国交易に就いた官船。「どおゐッ!」は「××だぞうっ」という「呼ばわり語」。

 ⑹=旭橋駅。
  ♪海のチンボーラー。
 *遊び唄の代表格。駅近くには現在、バスターミナルがある。この地はかつて「仲島遊郭」だった。「チンボーラー」は、浅瀬に生息する小巻貝類。

 ⑺=県庁前駅。
  ♪てぃんさぐぬ花。
 *和名=鳳仙花。わらべ唄。教訓歌が多い。かつてはその葉や花弁をつぶし、赤い液で指のツメを染めて、女の子たちは「おしゃれ」をした。

 ⑻=美栄橋駅(みえばし)。
  ♪ちんぬくじゅうしい。
 *ちんぬくは里芋。じゅーしーは雑炊。したがって「里芋入りの雑炊」ということになる。曲は琉球放送ラジオの番組「ホームソング」として放送。作詞あさ ひろし。作曲三田信一。昭和43年(1968)発表。

 ⑼=牧志駅(まきし)。
  ♪いちゅび小節(いちゅびぐぁ)。
 *「いちゅび」は、野苺の意。エイサー唄にも組み入れらている。

 ⑽=安里駅(あさと)。
  ♪安里屋ゆんた。八重山の流行り唄。

 ⑾=おもろまち駅。
  ♪だんじゅかりゆし。
 *船送り唄。だんじゅは「誠・本当に・げにこそ・道理で」の意。
  かりゆしは(嘉例吉。吉事。めでたい)を意味する古語。

 ⑿=古島駅。
  ♪月ぬかいしゃ。
 *八重山の歌。「かいしゃ」は、清らか。美しい。転じて、愛しい。愛しい人をも指す。

 ⒀=私立病院前駅。
  ♪くいちゃ。
 *宮古島の集団歌舞。くい(声)、ちゃー(合わせる。混ぜる)の意。したがって「声合わせ歌」。

 ⒁=儀保駅(ぎぼ)。
  ♪芭蕉布。琉球放送ラジオの「ホームソング」の内。昭和40年(1965)発表。作詞吉川安一。作曲普久原恒男。

 ⒂=首里駅。
  ♪赤田首里殿内(あかた すん どぅんち)。
 *王府時代、首里には祭事を司る首里、儀保、真壁の三祝女館があった。首里殿内は地内の赤田にあったため、首里の上に(赤田)を被せた。わらべ唄。五穀豊穣、平和招致祈願の歌。

 さてさて。
 すっかり庶民の足になった「ゆいレール」は、さらに隣市の浦添まで延びて、令和元年10月1日、総延長は約17kmを運行している。新駅名と到着告知メロディーを紹介しよう。首里駅を出たモノレールは、やがて石嶺駅に着く。

 ⒃=石嶺駅。
  ♪ちょんちょんキジムナー。
 *キジムナーは昔ばなしに語られる老木に棲む妖精。ちょんちょんは(来たぞっ、来たぞっ!キジムナーが来たぞっ)の意。戦前、女学校生が唄った歌を照屋林助、川上進行が採譜、作詞して世に出た。

 ⒄=経塚駅(きょうづか)。
  ♪はべら節。
 *はべらは「蝶」の総称。ハーベールー。ハビル。ハベルとも言う。

 ⒅=浦添前田駅。
  ♪めでたい節。
 *一般的祝儀歌。

 ⒆=でだこ浦西駅。
  ♪ヒヤミカチ節。
 *「ヒヤっ」は、行動を起こす折りに発する気合い語。「ミカチ」は「××をする」さま。終戦まもなく、古典歌謡研究家の山内盛彬が作詞作曲した。いわば沖縄応援歌。

 かくて結いレールは沖縄中の歌を唄いながら、今日もいい顔で走っている。


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