旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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芝居=敗戦模様・九年母の木の下で

2013-04-20 00:01:00 | ノンジャンル
3月中旬、宮古島ではイワサキクサゼミが産声をあげ、下旬には県下デイゴの開花があり、辺りも清く明るくなって、沖縄は夏突入の時候。その精気を取り込んで芝居公演に向けて稽古に熱を入れている集団がある。
 ことばの勉強会・北村三郎芝居塾「ばん」がそれだ。
 芝居塾とは言っても、役者養成をしているのではなく、沖縄語が詰め込まれた芝居を通して、消滅が懸念される方言を1語でも2語でも使い合おうという同志が集まっている。週1回、気軽に寄り合い古諺、琉歌、モノの名称、地名等々。時には芸能公演、各地の伝統芸能のDVD記録を鑑賞。10月に入ったころから、年明けの定期公演に向けた稽古を開始している。
 12回目を数える今回の公演は、4月28日午後6時30分開演。沖縄市民小劇場「あしびなー」で幕を開ける。演目=琉球舞踊二題。落語。そして、上原直彦作、北村三郎演出「敗戦模様・九年母の木の下で」と、2時間半の舞台。
 「九年母の木の下で」は終戦直後、作者が捕虜収容地で体験、見聞した日々をベースにした作品。国敗れ世に言う〔アメリカ世〕になって、人びとは悲喜劇を演じていた。主な登場人物を拾ってみよう。
 
 ※班長=終戦まで学校の用務員をしていた。好人物で多少、読み書きができることから、班長に推された。(芝居の狂言回し)。

 ※元校長=皇民化教育を推進し、多くの若者を戦場に送り出した教育者。ほとんどの教え子が南方や沖縄戦で戦死。その責任を感じてか精神を病み終日“勝ってくるぞと勇ましく誓って国を出たからは~天皇陛下バンザイ~”と軍歌「露営の歌」を歌いながら収容地中を行進している。

 ※ギターを弾く男=戦中は郷土防衛隊員。生存はしたものの酒浸り。米軍が持ち込んだ野戦用固形メチルアルコールを溶かして飲むようになり、遂には失明。失意をギターで紛らわしている。古賀政男メロディーが得意。“まぼろしの影を慕いて雨の日に・・・”と歌う。見えない目でどんな(まぼろし)を見ているのか。

 ※マリーと呼ばれる女=過去は一切分からない。米兵相手のパンパン(身を売る女)。マリーは言う。「男はいいね。戦場に行ってお国のために戦い、戦死すればいい。女はどう?生きていくためには・・・・このザマさっ。戦争は生きるも地獄!死ぬのも地獄なのよっ」。それでも明るい笑顔を絶やさない。

 ※避難中の老婆=実家には各地からの避難民が住み、一家は山奥のガマ(洞窟)に隠れ暮らしている。米軍には直接「見つかってはいない」というのがガマ暮らしの理由。病身のため、徴兵検査を免れた息子がいるが、他の息子たちは戦死。老婆は言う「戦争とは理屈が合わない。元気な若者は甲種合格で戦場に送り戦死させて、病身の者は残して生かしている。天皇陛下は何を考えていたのか」。

 ※芝居の幹部=失意の人びとを慰問しようと劇団結成をした。しかし、役者が足りない。そこで、捕虜収容地に隠れ住む生き残りの役者を探し求めて各地を巡っている。(実際に昭和20年、敗戦の年の12月25日に収容地のひとつ石川市〈現・うるま市〉の城前小学校校庭でプロによる芸能公演がなされている)。

 その他、失われた住居を復元して(ひと儲け)を企み、基地から大工道具を窃盗。MP(ミリタリーポリス)に逮捕され、銃殺されそうになった男たち。死んでも米軍がくれる食料を拒否する一家。無邪気に遊び回る子ども
たち・・・。失意、希望。悲喜こもごもの綾なす舞台。
 
 素人集団の芝居に、活躍中の舞踊家座喜味米子、小嶺和佳子。劇団「石なぐ」の當銘由亮、高宮城実人、知名剛史が客演。さらにベテラン仲嶺眞永、吉田妙子が特別出演。終戦直後の沖縄を省みて、今日の沖縄を考えてみませんか。来場希望。



      ※お知らせ ばん塾12期公演
 日時:2013年4月28日(日)午後6時30分開演
 場所:沖縄市民小劇場 あしびなー
 料金:2,000円
 チケットのお問い合わせ先:(有)キャンパスレコード 098-932-3801
  



模合・ユレー。温泉そして長寿

2013-04-10 01:14:00 | ノンジャンル
 仕事は別として、私的旅行と言えば(温泉)が目的である。
 沖縄には温泉がない。そこで、ないものねだりのひとつ(温泉)に憧れる。北は北海道から福島、石川、新潟。群馬の猿ヶ京・伊香保もよかった。栃木・鬼怒川、長野、神奈川、甲府、和歌山、岡山。九州にいたっては、各県の名湯から英気をもらった。
 旅行資金が豊潤にあるわけではない。20年ほど前から(摸合・ユレーユーレーとも言う)を掛けているから出来る温泉旅行。

 摸合=もあい=は、沖縄だけの言い方だろうか。ユレーは、明らかに沖縄独特で、それに当たる言葉を辞典に拾えば*無尽=無尽講の略=庶民金融の1種。親(発起人)が仲間を作って一定の掛け金を出し、入札、抽選で落札者を決める。室町時代に起こり江戸時代に盛行。頼母子(たのもし)・頼母子講とも言うとある。
 ユレー・ユーレーは「寄り合い」の転語。現在でも、一般に親しまれている相互扶助的な金融の仕組みだ。人数、掛け金によって規模が異なるには言を待たない。小は主に主婦のワタクシ(へそくり)、大は営業、営農資金、改築資金、教育資金に至る。我が模合は、月2万円だから(中)に当たるのだろう。小、中までは模合(ムエーグァー・ユーレーグァー)だが、高額の掛け金になると(グァー)を省いて「ムエー・ユレー」と言う。なかなか堂々たる呼称に昇格する。

 沖縄で(模合)が成されたのは古い。
 尚敬王代の1733年に模合の法が定められ「困窮士族に対する助けとした」と、歴史記録書「球陽」に出ている。士族とは言っても、下級士族の暮らしは楽ではない。中には、わずかな拝領地を豪農に賃貸させ、模合を掛けて備蓄とした士族もいたという。

 さて。
 模合と長寿の関係をご存知か。
 「模合に参加するお年寄りほど健康」という調査結果が、先月19日の沖縄タイムス紙に掲載されている。琉球大学人間科学科の白井こころ准教授(公衆衛生学)が、今帰仁村の高齢者を対象に実施した調査で、模合など人とのつながりの多い人ほど健康状態が良い傾向にあることが分かった。白井准教授は「多くの人と交流することで健康情報が集まり、人とつながることで精神的にも良い影響を与えている可能性がある」と指摘している。
 理解にかたくない。
 我が模合仲間も、掛け金のほかに2千円を出し合い、それはその日の飲み放題、食べ放題、カラオケの歌い放題に充てられる。その合間に、最近の健康法やエライ人批判、色ばなしが自由に飛び交い(解放と自由の天地)と化す。胸に溜まったモヤモヤを吐露するだけでも気分爽快!ストレス解消になる。そして掛け金の2万円は、つとめて手つかずにして積立て(温泉旅行資金)になる寸法だ。

 八重山歌(やいまうた)の歌者大工哲弘の母親ナリさんは、月3千円の模合を掛けていた。
 今どき「3千円の掛け金でどうするの?」
 そう思ったことだが、彼女たちの目的は他にあった。
 「模合は口実なのよ。島の歌の好きな女たちが集まって、ユンタを半日も歌い合うのよ」
 仲間の家庭を持ち回りしてのユンタ会。偶然、大工家でのそれを参観させてもらったが、婆さん、おばさんたちが生き生きとしていること!「なるほど。模合で人とつながり、好きなユンタを歌えば、長生きするはずじゃわい」と、得心がいったものだ。
 我が模合も今月で満期となる。どこの温泉に遊ぼうか。新緑の日本は、どこへ行っても心身が洗われるに違いない。

     ※お知らせ ばん塾12期公演
 日時:2013年4月28日(日)午後6時30分開演
 場所:沖縄市民小劇場 あしびなー
 料金:2,000円
 チケットのお問い合わせ先:(有)キャンパスレコード 098-932-3801
  

替え歌・戯れ歌・流行り歌

2013-04-01 01:56:00 | ノンジャンル
 新学期が始まる。
 小学校に入学するピカピカの1年生たちは♪ともだち何人できるかな ともだち100人できるかな♪と、希望、期待の歌を歌っている。小学生はそこまでだが、中学生、高校生、大学生になると、正規の歌にちょいとひねりを入れて、替え歌、戯れ歌を作って歌い、それはやがて、流行り歌に昇格していった例は少なくない。
 殊に戦前の旧制中学生たちは、今で言う歌謡曲、演歌の類から学校唱歌、応援歌、寮歌、民謡などに作詞をして意気を高揚させたり、世相や皮肉を織り込んで楽しんでいた。応援歌で言えば「花咲爺さん」♪裏の畑でポチが鳴く 花咲爺さん掘ったらば 大判小判がザックザクザク♪をこう替え歌にして歌った。
 ♪裏の畑でポチが鳴く」 なんと鳴くかと聞いたらば こんどの野球は我が校の勝ち!勝ち!(我が校を在籍校名とする)。

 過日。筆者担当のRBCiラジオ「民謡で今日拝なびら=月~金。午後3時~4時」の放送で「替え歌、戯れ歌、流行り歌」を取り上げたところ、糸満市糸満の昭和1桁生、上原彦次郎(仮名。本人希望)さんから、手紙をもらった。いわく。
 「放送を聴き、戦時下の二中生だったころの日々を懐旧しました。どうやら、もちろん戦前の第一中学校生=現・首里高校=が、大和の数え歌「豪気節」に乗せて歌ったものと、先輩に教わりました。1番の歌詞が自画自賛。あとは他校を比喩しているのがその証。しかし、我が第二中学校生(現・那覇高校)も負けじと1番は♪人の悪口意地悪の ウジ虫育ちの一中生!と替えて反撃しました。いまでも残り少なくなった同期会で、思い出して歌っています」。
 では、その数え歌「豪気節」を紹介しよう。

 *ひとつとせ~ 人に知られし中山の 一中健児の晴れ姿 そいつぁ豪気だね
 *ふたつとせ~ 船乗り船漕ぎ色黒の 蛸喰い坊主の水産生
 *みっつとせ~ 見れば見るほど憎くなる 髭づら男の官費生
 *よっつとせ~ 夜の夜中に街まわり 女だましの商業生
 *いっつとせ~ いつまで学校にいるのやら 適齢(徴兵検査)延期の開南生
 *むっつとせ~ 虫も好かないひょろひょろの 沖縄二中の青二才
 *ななつとせ~ 名もない学校と馬鹿にされ それでも男か宮中生(宮古中学校)
 *やっつちせ~ やがましいあの音何の音 棺箱作りの工業生
 *ここのつとせ~ 肥え桶かついで田や畑に 百姓育ちの農林生
 *とうとせ~ 遠い名護では大いばり 井の中蛙の三中生
 *番外 一人娘の可愛さに 泣いて通わす一高女生 そいつぁ豪気だね。


 強烈な言葉が飛び交っているが、それぞれの時代を反映し、味?があって頼もしい。いまとなっては、自分の出身校をなじられても(笑って許して!)の心境になる。
 30数年前、基地の街コザの友人が拾った小学生の歌う替え歌があった。

 *静かな湖畔の森のかげから もう起きちゃいかがとカッコウが鳴く カッコウ!カッコウ!カッコウ!
 誰もが輪唱した「静かな湖畔」。これがどう替わったのか。こう替わった。
  *静かなホテルの3号室から 男と女の声がする イヤ~ン!バカ~ン!イヤ~ン!バカ~ン!
 よかったら大きな声で歌ってみて頂きたい。
 島うたにもこの類は多少あるが、それは次の機会に譲ろう。
   
 
  ※お知らせ ばん塾12期公演
 日時:2013年4月28日(日)午後6時30分開演
 場所:沖縄市民小劇場 あしびなー
 料金:2,000円
 チケットのお問い合わせ先:(有)キャンパスレコード 098-932-3801