「中国に、結婚の縁は天が定めるという古諺があります。縁あって男が女が一生を共にするとは、ここの意志を越えた、常識では判断できない何か不思議なものが結び付けているもののようです。男と女が、夫となり妻になる出合い。まさに、結婚の縁は天が定めるとした古諺通りでありましょう。このことを沖縄では、2文字で言い当てています。【天縁=てぃん ゐん】。それによる出合いは、少なくとも当人たちにとっては運命的と感じられることが多く、また、そうした何かを感じなければ【天縁】で結ばれることはないでしょう。さて・・・・」
ある結婚披露宴の来賓祝辞の一節である。
およそ祝辞なるものは、偉人の言葉や古諺・金言・格言をフリにして始めれば、一応の格好はつく。沖縄風のスピーチによく登場する古諺は「刀自夫婦や 餅とぅカーサ=とぅじみーとぅや ムチとぅカーサ」であろう。夫婦のありようは、サンニン〈月桃・げっとう。芳ばしい香りの植物〉と、それで包む餅の如くにありたいとしているのである。
ちょっと、横道にそれる。
寒さが厳しくなる陰暦12月8日。今年は、年も明けて寅年1月22日にあたるが、邪気と子どもたちの無病息災を祈願して「ムーチー=鬼餅」を作って食する。このころの寒さを「ムーチービーサ」と言うくらいだ。ビーサ・フィーサは寒さのこと。10~12センチほどの餅をサンニンの葉、もしくはクバ〈棕櫚〉の葉に包んで蒸したものだ。そこで「刀自夫婦や 餅とぅカーサ」の古諺は、夫婦はカーサのように有って子を産み、息災に育てることを理想としたのである。
[サンニン=月桃]
天縁をいただき、餅とカーサを理想として日々を重ねた夫婦でも、しあわせ過ぎが昂じて、お互いに疑心暗鬼が頭をもたげてくるようだ。11月17日付けの新聞に、次の調査記事を見ることができる。
妻の61%が夫の携帯電話を内緒でチェックし、45%の妻が携帯料金が夫より高額だった。
インターネット調査会社が11月上旬、同社の会員で20~39歳の既婚女性にアンケート。500人の回答からみた夫婦像が浮かんだ。無断で携帯のメールや通話履歴などを盗み見した理由は、①浮気をしていないか調べた〈35%〉②興味本位〈34%〉③隠し事がないかチェック〈28%〉など。盗み見した後に何が残ったか。「夫に逆ギレされた。夫は謝りもしなかった」という主婦28歳がいたほか「何も隠し事がないことが分かり、ほっとしたような、がっかりしたような・・・・」と回答したアルバイト女性28歳もいた。
11月22日は、語呂合わせで「いい夫婦の日」だそうだが、この調査から見えてくるのは“女房妬くほど亭主モテもせず”という古川柳である。
「何でも隠さず話し合える明るい夫婦でいようね」
このことを天縁と誓い合った夫婦にも、天は悪戯好きなのか【疑心】という【鬼】を派遣、夫婦間に波風を立てて楽しんでいるようだ。
北村孝一編「世界のことわざ辞典」の【結婚】の項をめくると、ヨーロッパの諺が目に入る。「あわてて結婚する者は、ゆっくり後悔する」。
単なる惚れたはれたを天縁と錯覚したり、適齢期が過ぎつつあるし、世間の目もあることだからと焦ったりすると後々、ろくなことはないということだろう。男からすると「悪妻は60年の不作」にもなり得る。カトリックの国では、後悔しても原則として離婚は許されない。結婚するのは簡単だが別れるのは難しいことになり、一生針の莚で暮らすことになる。
知人Wは教職にあったが、定年を機会に30余年連れ添った妻女と離婚している。特別にそうせざるを得ない理由・問題があってのことではない。むしろ、問題がなさ過ぎたのだ理由と言えば理由。Wの話を聞こう。
「しあわせボケも、過剰になっては人生を非凡する。このことを女房と前向きに協議して、離婚に踏み切った。残りの人生をお互い自由に生きようということよ。もちろん、財産は折半。ボクが家を出ることにした。嫌で別れたわけではないから、いまでも電話で呼び出して1杯飲んだり、食事をしたり。時にはスーパーでひょっこり出合って、夕食の献立を話し合ったりしているよ」。
実にさばさばしている。Wはと言えば、所有の農地にしゃれた山小屋風の住居を建て、サトウキビや青物を生産。時間を見つけて読書をしたり、習い覚えた木彫りをしている。中高年の男ならば、誰もが憧れる晴耕雨読を手に入れたのである。
来賓祝辞も世界の諺もWの生き方も、それでよい。かく言う私自身はどうだろう。
今朝の夫婦の会話から読み取っていただきたい。目覚めて階下に降りる。妻女と一瞬、目と目が合う。「・・・・」。目は口ほどに物を言う。洗面等々、出かける支度をして食卓に向かう。「・・・・おい」「・・・・」。お茶が出る。時計を見て立ち上がると、妻女は先に玄関を出て車のエンジンをかける。私は乗る。「・・・・」「・・・・」。職場までの30分は静かこの上もない。到着。「いってらっしゃい」と妻女。「うん」と私。日々好日。
ある結婚披露宴の来賓祝辞の一節である。
およそ祝辞なるものは、偉人の言葉や古諺・金言・格言をフリにして始めれば、一応の格好はつく。沖縄風のスピーチによく登場する古諺は「刀自夫婦や 餅とぅカーサ=とぅじみーとぅや ムチとぅカーサ」であろう。夫婦のありようは、サンニン〈月桃・げっとう。芳ばしい香りの植物〉と、それで包む餅の如くにありたいとしているのである。
ちょっと、横道にそれる。
寒さが厳しくなる陰暦12月8日。今年は、年も明けて寅年1月22日にあたるが、邪気と子どもたちの無病息災を祈願して「ムーチー=鬼餅」を作って食する。このころの寒さを「ムーチービーサ」と言うくらいだ。ビーサ・フィーサは寒さのこと。10~12センチほどの餅をサンニンの葉、もしくはクバ〈棕櫚〉の葉に包んで蒸したものだ。そこで「刀自夫婦や 餅とぅカーサ」の古諺は、夫婦はカーサのように有って子を産み、息災に育てることを理想としたのである。
[サンニン=月桃]
天縁をいただき、餅とカーサを理想として日々を重ねた夫婦でも、しあわせ過ぎが昂じて、お互いに疑心暗鬼が頭をもたげてくるようだ。11月17日付けの新聞に、次の調査記事を見ることができる。
妻の61%が夫の携帯電話を内緒でチェックし、45%の妻が携帯料金が夫より高額だった。
インターネット調査会社が11月上旬、同社の会員で20~39歳の既婚女性にアンケート。500人の回答からみた夫婦像が浮かんだ。無断で携帯のメールや通話履歴などを盗み見した理由は、①浮気をしていないか調べた〈35%〉②興味本位〈34%〉③隠し事がないかチェック〈28%〉など。盗み見した後に何が残ったか。「夫に逆ギレされた。夫は謝りもしなかった」という主婦28歳がいたほか「何も隠し事がないことが分かり、ほっとしたような、がっかりしたような・・・・」と回答したアルバイト女性28歳もいた。
11月22日は、語呂合わせで「いい夫婦の日」だそうだが、この調査から見えてくるのは“女房妬くほど亭主モテもせず”という古川柳である。
「何でも隠さず話し合える明るい夫婦でいようね」
このことを天縁と誓い合った夫婦にも、天は悪戯好きなのか【疑心】という【鬼】を派遣、夫婦間に波風を立てて楽しんでいるようだ。
北村孝一編「世界のことわざ辞典」の【結婚】の項をめくると、ヨーロッパの諺が目に入る。「あわてて結婚する者は、ゆっくり後悔する」。
単なる惚れたはれたを天縁と錯覚したり、適齢期が過ぎつつあるし、世間の目もあることだからと焦ったりすると後々、ろくなことはないということだろう。男からすると「悪妻は60年の不作」にもなり得る。カトリックの国では、後悔しても原則として離婚は許されない。結婚するのは簡単だが別れるのは難しいことになり、一生針の莚で暮らすことになる。
知人Wは教職にあったが、定年を機会に30余年連れ添った妻女と離婚している。特別にそうせざるを得ない理由・問題があってのことではない。むしろ、問題がなさ過ぎたのだ理由と言えば理由。Wの話を聞こう。
「しあわせボケも、過剰になっては人生を非凡する。このことを女房と前向きに協議して、離婚に踏み切った。残りの人生をお互い自由に生きようということよ。もちろん、財産は折半。ボクが家を出ることにした。嫌で別れたわけではないから、いまでも電話で呼び出して1杯飲んだり、食事をしたり。時にはスーパーでひょっこり出合って、夕食の献立を話し合ったりしているよ」。
実にさばさばしている。Wはと言えば、所有の農地にしゃれた山小屋風の住居を建て、サトウキビや青物を生産。時間を見つけて読書をしたり、習い覚えた木彫りをしている。中高年の男ならば、誰もが憧れる晴耕雨読を手に入れたのである。
来賓祝辞も世界の諺もWの生き方も、それでよい。かく言う私自身はどうだろう。
今朝の夫婦の会話から読み取っていただきたい。目覚めて階下に降りる。妻女と一瞬、目と目が合う。「・・・・」。目は口ほどに物を言う。洗面等々、出かける支度をして食卓に向かう。「・・・・おい」「・・・・」。お茶が出る。時計を見て立ち上がると、妻女は先に玄関を出て車のエンジンをかける。私は乗る。「・・・・」「・・・・」。職場までの30分は静かこの上もない。到着。「いってらっしゃい」と妻女。「うん」と私。日々好日。