旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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黄色い季節

2017-04-20 00:10:00 | ノンジャンル
 私ごとで恐縮。
 上は大学生、下はこの4月1日、保育園に入園した3歳児と、6人の孫の爺になった私。2,3人までは「若い爺」を自負していたが、6人になると「完璧な爺」になったことを認めざるを得なくなった。
 そのピカピカの保育園児の父の仕事の都合で現在いる西原町から遠い名護市にいる爺は朝夕(名護市は遠いなぁ)と、ため息混じりのひとり言を吐く。
 「爺っ。黄色い長靴がほしいっ」
 きっと母親か父親に言わされたのだろう、たどたどしい声の電話がかかってきた。雨の日の通園の雨具を揃えたいらしい。爺に二の句はない。黄色い長靴だけではすまない。黄色ずくめの帽子、合羽、傘、バックなどなど、要求されてはいないモノまで購入。ひと言付けくわえる。
 「爺の家まで取りに来なければ渡さないよっ」
 なんのことはない(顔が見たい)(目の前で雨具を自ら着けさせてみたい)だけのことである。が、待て。これからは雨の日のたびに(通園路の行き帰り、横断歩道はひとりで渡れるか。信号機はちゃんと見ているか)。そんな心配をすることになる・・・・。
 「おまわりさん!よろしくお願いします」
 この春ほど交通係の警察官を意識したことはない。

 宮古島には交通安全のみならず、子どもたちの生活を見守る「宮古島まもる君」がいる。警察官型の人形だが、ちゃんと誕生日もあって、1991年(平成3年)8月5日・「385.ミヤコ」と語呂合わせている。住所は宮古島警察署内。身長180センチ。体重5キロ。グラスファイバー製。ただし、設置する台座(足元)には50キロのおもりを装置。すべて手作りのマモル君だ。
 彼の職務は交通安全に始まり、振り込め詐欺のアピールマスコット、1日税務署長を務めるなど結構多忙。その効果に気をよくした警察署、宮古島交通安全協会は、マモル君の兄弟作りに励み、現在は19人?が宮古島全体の暮らしをも見守っている。
 1基以来、1996年に宮古地区交通安全協会が5基。1998年には15基に増え、伊良部島に1基を設置。また、2009年には、東京直行便の開通でにぎにぎしくなった空港にも1基が設置された。さらに2010年3月12日、離島多良間空港に既成の1基が移った。この1基は元々、宮古島市内上野・大嶺に勤務していたが(人事異動)により名前も「宮古島まもる」から「多良間島まもる君」に改姓している。このような人事異動は公務員並みにしばしばある。ここまでくると、もう社会人。宮古島市は「特別住民票」を交付するという念の入れよう。同警察署を住所としている。
 兄弟の名前を紹介しよう。
 *まもる君。*すすむ君。*いさお君。*たかや君。*こうじ君。*りょうぞう君。*まさお君。*かずき君。*たくま君。*ひとし君。*あつし君。*きよし君。*いずる君。*まさかつ君。*てつや君。*じゅんき君。*としお君。*いたる君。*つよし君。*そして妹まる子ちゃんとつづく。
 紅一点「宮古島まる子ちゃん」は、警察署前に配属されているが、噂を聞きつけた県内外の観光客は記念撮影のため、まる子ちゃんに面会を求めているそうな。
 宮古島まる子。
 1993年3月3日生れ。身長180センチ。まもる君はじめ兄たちの薫陶を得て交通安全の啓発に目覚め、2010年に県警警察学校交通機動隊特別養成課長期課程に入校。2011年8月、宮古島署に配属されている。赤い乗車服と白いヘルメットがトレードマーク。階級=警視待遇巡査。好きな言葉=パニパニで行こう(宮古語=元気で行こう)。
 命名は、交通事故ゼロ(○・まる)の願いを込めている。

 小学生、中学生を持つ親たちは、朝の登校時「行ってらっしゃい」のあとに「車に気をつけてね」のひと言を付け加える。そう言わざるを得ない車社会なのだ。殊に低学年生には口酸っぱく言う。1度言ったら直ぐに理解できるのは大人。繰り返し言わなければ分からないのを小人にするのは真実である。
 毎日のように起きる交通事故。運転しているのは大人のはずだが、定期的に実施する交通安全週間・月間。一向に交通事故はなくならない。ひょっとして年齢的には(大人)だが、精神的には(小人)に免許を与えているのではないか。

 夕刻。
 弱った足腰に活を入れようと(近所徘徊)と称する歩行、散歩をしている。近くには小学校、その付属幼稚園、そして保育園がある。季節柄、申し合わせたように黄色い帽子、交通安全と書いたランドセルカバーの子たちとすれちがう。名護にいる孫の姿と重ねながら「こんにちは。車に気をつけてね」と声をかける。「は~いっ」の黄色い返事が返ってくる。爺は「オレも気をつけよう」と自分に言い聞かせながら(徘徊)の歩を進めるのである。

 さてさて。
 北村三郎・芝居塾「ばん」の公演は4月29日に迫った。塾生一同、秒読みの稽古に入れ込んでいる。ことばの勉強会1年間の成果を披露できるかどうか。期待に添えるよう気合いを入れなければならない。
会場は沖縄市民小劇場あしびなー。午後7時開演。

 ※北村三郎・芝居塾「ばん」公演
 日時:2017年4月29日(土) 午後7時開演
 場所:沖縄市民小劇場あしびなー
 入場料:2,000円
 購入先:(有)キャンパスTEL 098‐932-3801 沖縄市民小劇場あしびなー TEL 098‐934-8487


臣下・シンカ・仲間・グループ・同士

2017-04-10 00:10:00 | ノンジャンル
 ♪ばんばんばんばん ばんシンカ 我達や いぇーじゅう バンシンカ(繰り返し)
  島ぬ宝や島言葉 ファーフジ譲り受き取やい 縦横自由に 語やびら
  <島の宝は島言葉 祖父母譲りを習い取って 縦に横に自由に使いこなそう>

 ♪芝居言葉ん習れとぅやい 貴人百姓ないくどてぃ 沖縄国中 飛んみぐら
  <芝居の脚本も参考にして学習し、時に身分ある者、時に百姓に成り切って、沖縄中を飛びまわろう>

 ♪生まり育ちや 異なてぃん かなさる我が島 誇やびら 兄弟心ぬ 頼まさや
  <塾生の生まれ育ち、年齢・経歴は異なっても、我が沖縄を誇る心は皆、ひとつ。この兄弟姉妹のような結びつきの頼もしいことよ>

 ♪黄金言葉ん 意味ふとぅち 語いる中 物知ゆさ 揃るい揃るたや くぬシンカ
  <古諺・俗語もよく解釈、理解し、使いこなせば賢くなる。揃い揃った、この「ばん」シンカ

 ことばの勉強会・北村三郎芝居塾「ばん」を開塾した折り「どうせのことなら」と上原直彦作詞、前川守賢作曲で作ったのが、この塾歌「ばんシンカの歌」である。蛇足ながら付記すれば、
「ばん」とは、芝居の開幕、閉幕を告げる、いわば拍子木のこと。正式には「析」。役者北村三郎を塾長としたところから、その名をつけた。毎週木曜日夕刻、沖縄市立芸能館を教室にして、開塾17年目を数える。一応、態をなそうと年功序列を重んじ、塾長北村三郎、専任講師上原直彦、理事長備瀬善勝を置いたことだが、北村、備瀬に(長)の肩書が付いているのに対し、上原には(長)がない。
 「それでは公平を欠く。50年来の仲!友情にもひびが入りかねない!」
 上原からクレームがついて、専任講師から「学長」に昇格している。嘲笑、失笑のいたりだが、それほどラフで(遊びごころ)優先の塾なのである。したがって、塾生の年齢も80歳代から20歳代。それに塾友合わせて20名ばかり。入塾退塾自由。元公務員、元学校教師、会社員、主婦、現役教師、美術館学芸員、歌者の卵等々、塾生もさまざま。年配者の存在は、個々の経験が学習の要になっているし、出身地が異なるのも、それぞれの持ち合わせている地方語、風俗、習慣など、比較対象する学習に厚みを持たせている。生れ育ちは異なっても、それぞれの郷土愛は変わらない~とは、このことである。

 さて。
 「シンカについて」。
 語源は武家社会の主従、臣下・家来からの転語とされる。身分制度が廃止されても言葉だけは活用され仲間、集団、グループ等の意味合いになって現在でも普通に使われている。その例をいくつか上げてみよう。

 ◇同ぬ会社シンカゐぬクヮイサ)。同じ会社の同僚。企業別に分けてもいい。役所(やくすシンカ)。銀行シンカ。商ねーシンカあちねー)。海業(うみワジャシンカ。ボクは放送局シンカに組み入れられる。
 ◇地域別。
 *なーふぁシンカ=那覇の連中。
 *くぢゃーシンカ=コザの連中。
 *やんばるシンカ=北部の人たちなど。さらに細分化して集落名を被せてもよい。東京シンカ。それも新宿、渋谷など、本拠地としている所名にも(シンカ)を付けると、より鮮明で親しみがもてる。
 ◇芸能界。
 *三線シンカ=歌三線をよくする連中。
 *踊ゐシンカ=舞踊家連。
 *芝居シンカ=役者連。
 流派名を被せて××シンカという呼び方もする。
 ただ「シンカ」とは言っても、何もできないでは(シンカ)にはなれない。その仲間、グループに相応しい才能を持ち合わせなければならない。そこでよく言ったり聴いたりする(シンカ)が「いらびシンカ」だ。
 その世界、仲間に適合した「選ばれし者」「スカウトされし者」「エリート集団」をも指して「いらびシンカ」とはよく称したものだ。逆に不良シンカあしばーシンカ(遊び人)などがあることも付け加えておかなければならない。

 再びさて。
 我らが「ばんシンカ」。この月末の4月29日(土)午後7時開演。沖縄市民小劇場あしびなーで「若夏・花舞台」と称する公演を打つ。なにしろ「ことばの勉強会」のこと。プロ並みにはいかないだろう。そこは稽古量で補い舞踊、島うた、小歌劇、二胡演奏などを披露する。それだけでは入場料をいただくわけにはいかない。特別塾生女優吉田妙子のひとり語り「日々好日」はじめ歌者前川守賢、役者高宮城実人、舞踊家座喜味米子らを迎えての舞台構成になっている。公演のチラシを見ると「話芸・珍芸・おはこ芸!またもやらかす、ばんシンカ」とある。
 昨今の世情はキナ臭かったり、眉をしかめることが多い。本格的の暑くなる前に、肩がまったく凝らない「ばんシンカ」の舞台につき合ってくれますまいか。入場料は決して安くはない2000円。あなたの来場だけがたのみなのである。

 北村三郎・芝居塾「ばん」公演
 日時:2017年4月29日(土)昭和の日 午後7時開演
 入場料:2000円
 場所:沖縄市民小劇場あしびなー
 チケット購入先:(有)キャンパス098-932-3801 沖縄市民小劇場あしびなー098‐934‐8487

   

風が廻る・水温るむ

2017-04-01 00:10:00 | ノンジャンル
 2月下旬。
 寒風が磯辺に白波を立てる中、干潮とは言え、遠浅の岩場に古着のあちこちに布切れを器用につぎ当てた防寒着・フィーターに身を包み、背を丸め、さらに、決して新しくはない手拭でコ-ガーキー(頬被り)をした年配の女性の姿が見られた。
 それもひとりではない。広い磯に10メートル、20メートル離れてうずくまり、5人、7人が波間で何やら採取している。
 「ああ、春の味覚アーサを採っているのだな」
 アーサは和名ヒトエグサと称する海藻である。アオサに似ているが、粘りがある点でアオサとは区別できる。これら寒帯、亜寒帯海域に多く、なかでも本種は日本の太平洋沿岸、四国、九州から琉球列島、台湾にかけて分布しているそうな。
 寒さの中で採ったアーサは、すぐにでも食せるが、沖縄風には日数をかけて乾燥させ、水でもどし、よく洗った後、島豆腐のグマヂリー(あられ切り)とともに汁の具にするのが普通。その場合、塩か醤油で吸い物味にととのえ、仕上げに生姜汁を少し落とすと、あっさりした口当たりが楽しめる。
 乾燥させたアーサは保存が利き、夏場は冷やして食すると低下しがちな食欲を旺盛にしてくれる。
 こう書くとボクは料理上手に思われるが、さにあらず。少年のころ、おふくろが作ってくれたアーサ汁の美味を舌が覚えてい、また、琉球料理研究家新島正子の料理本を参考にしたまでのこと。ボク自身は「卵焼き」が唯一の腕前である。
 海のアーサのついでに「モーアーサ・和名ネンジュ藻」について。
 はじめに、これも新島正子著の中の項目(アーサイリチー・炒め物)を知ったかぶりで紹介しよう。
 モーアーサは野原(毛・モー)に自生し普通、乾燥したものを用いる。柔らかくもどしてから炒め豚肉、卵の黄身を混ぜた蒲鉾。カステラカマブクマーミナ(豆菜・もやし)を具にして豚出汁で煮込む。野趣に富んだ一品だ・・・・そうな。正直、ボクは食したことがない。どこか居酒屋などで、モーアーサイリチーを出しているところがあれば、遠路でも出掛けて行って食したいものだ。ビールのアテに最適に違いない。

 3月30日は旧暦の3月3日。サングァチー・サングァチャーとも言い、いわば女たちの節句である。
 その日は未婚、既婚を問わず1年かけて溜めたワタクシ(自由に遣えるお金。貯金)をはたいて仕立てた着物をまとい、友達や村の女たちが馳走を携えて近くの浜辺に降りて白砂を踏み、波と戯れ、輪になって歌舞三昧の1日を過ごす。生まれたばかりの春の風、白砂、波に触れることによって身を清め、向かう1年の無病息災、子孫繁栄を祈願することも忘れない。那覇近郊の浜下りの名所は若狭町、通堂、安謝、泊、天久などで、これは那覇区域独特と思われるが、大型の屋形船をしつらえて、潮の流れに任せた流り舟(ながり ぶに)を楽しむ。その舟に同情できる男性はただ一人。舟が沖合に出ないよう安全を見守る船頭だけである。そこでも馳走三昧、歌舞三昧。完全に女性が主役に儀礼である。
 サングァチーの女性たちの心情を詠んだ次の1首を見れば、その歓喜のほどが分かる。

 ‟夫やりば何やが 舅やりば何やが 三月ぬ遊び 我達勝手
 <WUとぅやりば ぬやが しとぅゐやりば ぬやが サングァチぬ あしび わったかってぃ

 歌意=夫が何さっ!舅が何さっ!三月三日のこの遊びだけは、私たちの買ってよっ。自由よっ!解放の日よっ。
 日頃、夫、舅の言うがままに仕えて、口出しひとつ許されない妻、娘、嫁たちが、いかに待ちわびた(最良の日)だったかが窺い知れる。

 サングァチーの形態は各地同じではなく内容も異なる。戦前は、13歳になった女子からは(大人)として認められ、一種の人生通過儀礼として行われた。海浜の遠い地域ではムラヤー(村屋・いまの公民館)を会場とし、伝承の歌舞を披露する。
 この日、男たちはというと歌三線に長けた者3人、太鼓打ち1人が同席、ムラヤー周辺の警護係数人が特別配備された。それ以外の男性は、女性たちの歌舞を見聞することさえ許されなかったという。「女性主体」この伝承を現在でも守っている地域もある。

 さてさて。
 いささか宣伝めくが容赦。
 4月29日(土)昭和の日、夕刻7時。沖縄市民小劇場あしびなーは、17年目を迎えた北村三郎・芝居塾「ばん」の恒例公演の花が咲く。「ばん」は芝居、琉歌、諺、風俗史をテキストとした「ことばの勉強会」。素人の集団だが、今回は役者吉田妙子、高宮城実人、歌者前川守賢、舞踊家座喜味米子ら客員を得て、ひとり語り、小歌劇、舞踊、若い島うたなどをプログラムとして華やぐ。案内役は上原直彦、島袋千恵美。
 塾生たちは年明け早々から公演に向けて稽古に余念がない。いかなる仕上げになるか、開幕してみなければ分からないが、それだけにスリルとサスペンスの舞台になろう。かくて若夏は一気に長い夏を迎える。

 ◇北村三郎・芝居塾「ばん」公演
  期日:2017年4月29日(土)昭和の日
     午後6時30分開場 午後7時開演
  場所:沖縄市民小劇場あしびなー 
  入場料:2,000円
  チケット購入先:(有)キャンパス TEL:098-932-3801 
  あしびなー TEL:098-934-8487