2月下旬。
寒風が磯辺に白波を立てる中、干潮とは言え、遠浅の岩場に古着のあちこちに布切れを器用につぎ当てた防寒着・フィーターに身を包み、背を丸め、さらに、決して新しくはない手拭でコ-ガーキー(頬被り)をした年配の女性の姿が見られた。
それもひとりではない。広い磯に10メートル、20メートル離れてうずくまり、5人、7人が波間で何やら採取している。
「ああ、春の味覚アーサを採っているのだな」
アーサは和名ヒトエグサと称する海藻である。アオサに似ているが、粘りがある点でアオサとは区別できる。これら寒帯、亜寒帯海域に多く、なかでも本種は日本の太平洋沿岸、四国、九州から琉球列島、台湾にかけて分布しているそうな。
寒さの中で採ったアーサは、すぐにでも食せるが、沖縄風には日数をかけて乾燥させ、水でもどし、よく洗った後、島豆腐のグマヂリー(あられ切り)とともに汁の具にするのが普通。その場合、塩か醤油で吸い物味にととのえ、仕上げに生姜汁を少し落とすと、あっさりした口当たりが楽しめる。
乾燥させたアーサは保存が利き、夏場は冷やして食すると低下しがちな食欲を旺盛にしてくれる。
こう書くとボクは料理上手に思われるが、さにあらず。少年のころ、おふくろが作ってくれたアーサ汁の美味を舌が覚えてい、また、琉球料理研究家新島正子の料理本を参考にしたまでのこと。ボク自身は「卵焼き」が唯一の腕前である。
海のアーサのついでに「モーアーサ・和名ネンジュ藻」について。
はじめに、これも新島正子著の中の項目(アーサイリチー・炒め物)を知ったかぶりで紹介しよう。
モーアーサは野原(毛・モー)に自生し普通、乾燥したものを用いる。柔らかくもどしてから炒め豚肉、卵の黄身を混ぜた蒲鉾。カステラカマブク・マーミナ(豆菜・もやし)を具にして豚出汁で煮込む。野趣に富んだ一品だ・・・・そうな。正直、ボクは食したことがない。どこか居酒屋などで、モーアーサイリチーを出しているところがあれば、遠路でも出掛けて行って食したいものだ。ビールのアテに最適に違いない。
3月30日は旧暦の3月3日。サングァチー・サングァチャーとも言い、いわば女たちの節句である。
その日は未婚、既婚を問わず1年かけて溜めたワタクシ(自由に遣えるお金。貯金)をはたいて仕立てた着物をまとい、友達や村の女たちが馳走を携えて近くの浜辺に降りて白砂を踏み、波と戯れ、輪になって歌舞三昧の1日を過ごす。生まれたばかりの春の風、白砂、波に触れることによって身を清め、向かう1年の無病息災、子孫繁栄を祈願することも忘れない。那覇近郊の浜下りの名所は若狭町、通堂、安謝、泊、天久などで、これは那覇区域独特と思われるが、大型の屋形船をしつらえて、潮の流れに任せた流り舟(ながり ぶに)を楽しむ。その舟に同情できる男性はただ一人。舟が沖合に出ないよう安全を見守る船頭だけである。そこでも馳走三昧、歌舞三昧。完全に女性が主役に儀礼である。
サングァチーの女性たちの心情を詠んだ次の1首を見れば、その歓喜のほどが分かる。
‟夫やりば何やが 舅やりば何やが 三月ぬ遊び 我達勝手”
<WUとぅやりば ぬやが しとぅゐやりば ぬやが サングァチぬ あしび わったかってぃ>
歌意=夫が何さっ!舅が何さっ!三月三日のこの遊びだけは、私たちの買ってよっ。自由よっ!解放の日よっ。
日頃、夫、舅の言うがままに仕えて、口出しひとつ許されない妻、娘、嫁たちが、いかに待ちわびた(最良の日)だったかが窺い知れる。
サングァチーの形態は各地同じではなく内容も異なる。戦前は、13歳になった女子からは(大人)として認められ、一種の人生通過儀礼として行われた。海浜の遠い地域ではムラヤー(村屋・いまの公民館)を会場とし、伝承の歌舞を披露する。
この日、男たちはというと歌三線に長けた者3人、太鼓打ち1人が同席、ムラヤー周辺の警護係数人が特別配備された。それ以外の男性は、女性たちの歌舞を見聞することさえ許されなかったという。「女性主体」この伝承を現在でも守っている地域もある。
さてさて。
いささか宣伝めくが容赦。
4月29日(土)昭和の日、夕刻7時。沖縄市民小劇場あしびなーは、17年目を迎えた北村三郎・芝居塾「ばん」の恒例公演の花が咲く。「ばん」は芝居、琉歌、諺、風俗史をテキストとした「ことばの勉強会」。素人の集団だが、今回は役者吉田妙子、高宮城実人、歌者前川守賢、舞踊家座喜味米子ら客員を得て、ひとり語り、小歌劇、舞踊、若い島うたなどをプログラムとして華やぐ。案内役は上原直彦、島袋千恵美。
塾生たちは年明け早々から公演に向けて稽古に余念がない。いかなる仕上げになるか、開幕してみなければ分からないが、それだけにスリルとサスペンスの舞台になろう。かくて若夏は一気に長い夏を迎える。
◇北村三郎・芝居塾「ばん」公演
期日:2017年4月29日(土)昭和の日
午後6時30分開場 午後7時開演
場所:沖縄市民小劇場あしびなー
入場料:2,000円
チケット購入先:(有)キャンパス TEL:098-932-3801
あしびなー TEL:098-934-8487
寒風が磯辺に白波を立てる中、干潮とは言え、遠浅の岩場に古着のあちこちに布切れを器用につぎ当てた防寒着・フィーターに身を包み、背を丸め、さらに、決して新しくはない手拭でコ-ガーキー(頬被り)をした年配の女性の姿が見られた。
それもひとりではない。広い磯に10メートル、20メートル離れてうずくまり、5人、7人が波間で何やら採取している。
「ああ、春の味覚アーサを採っているのだな」
アーサは和名ヒトエグサと称する海藻である。アオサに似ているが、粘りがある点でアオサとは区別できる。これら寒帯、亜寒帯海域に多く、なかでも本種は日本の太平洋沿岸、四国、九州から琉球列島、台湾にかけて分布しているそうな。
寒さの中で採ったアーサは、すぐにでも食せるが、沖縄風には日数をかけて乾燥させ、水でもどし、よく洗った後、島豆腐のグマヂリー(あられ切り)とともに汁の具にするのが普通。その場合、塩か醤油で吸い物味にととのえ、仕上げに生姜汁を少し落とすと、あっさりした口当たりが楽しめる。
乾燥させたアーサは保存が利き、夏場は冷やして食すると低下しがちな食欲を旺盛にしてくれる。
こう書くとボクは料理上手に思われるが、さにあらず。少年のころ、おふくろが作ってくれたアーサ汁の美味を舌が覚えてい、また、琉球料理研究家新島正子の料理本を参考にしたまでのこと。ボク自身は「卵焼き」が唯一の腕前である。
海のアーサのついでに「モーアーサ・和名ネンジュ藻」について。
はじめに、これも新島正子著の中の項目(アーサイリチー・炒め物)を知ったかぶりで紹介しよう。
モーアーサは野原(毛・モー)に自生し普通、乾燥したものを用いる。柔らかくもどしてから炒め豚肉、卵の黄身を混ぜた蒲鉾。カステラカマブク・マーミナ(豆菜・もやし)を具にして豚出汁で煮込む。野趣に富んだ一品だ・・・・そうな。正直、ボクは食したことがない。どこか居酒屋などで、モーアーサイリチーを出しているところがあれば、遠路でも出掛けて行って食したいものだ。ビールのアテに最適に違いない。
3月30日は旧暦の3月3日。サングァチー・サングァチャーとも言い、いわば女たちの節句である。
その日は未婚、既婚を問わず1年かけて溜めたワタクシ(自由に遣えるお金。貯金)をはたいて仕立てた着物をまとい、友達や村の女たちが馳走を携えて近くの浜辺に降りて白砂を踏み、波と戯れ、輪になって歌舞三昧の1日を過ごす。生まれたばかりの春の風、白砂、波に触れることによって身を清め、向かう1年の無病息災、子孫繁栄を祈願することも忘れない。那覇近郊の浜下りの名所は若狭町、通堂、安謝、泊、天久などで、これは那覇区域独特と思われるが、大型の屋形船をしつらえて、潮の流れに任せた流り舟(ながり ぶに)を楽しむ。その舟に同情できる男性はただ一人。舟が沖合に出ないよう安全を見守る船頭だけである。そこでも馳走三昧、歌舞三昧。完全に女性が主役に儀礼である。
サングァチーの女性たちの心情を詠んだ次の1首を見れば、その歓喜のほどが分かる。
‟夫やりば何やが 舅やりば何やが 三月ぬ遊び 我達勝手”
<WUとぅやりば ぬやが しとぅゐやりば ぬやが サングァチぬ あしび わったかってぃ>
歌意=夫が何さっ!舅が何さっ!三月三日のこの遊びだけは、私たちの買ってよっ。自由よっ!解放の日よっ。
日頃、夫、舅の言うがままに仕えて、口出しひとつ許されない妻、娘、嫁たちが、いかに待ちわびた(最良の日)だったかが窺い知れる。
サングァチーの形態は各地同じではなく内容も異なる。戦前は、13歳になった女子からは(大人)として認められ、一種の人生通過儀礼として行われた。海浜の遠い地域ではムラヤー(村屋・いまの公民館)を会場とし、伝承の歌舞を披露する。
この日、男たちはというと歌三線に長けた者3人、太鼓打ち1人が同席、ムラヤー周辺の警護係数人が特別配備された。それ以外の男性は、女性たちの歌舞を見聞することさえ許されなかったという。「女性主体」この伝承を現在でも守っている地域もある。
さてさて。
いささか宣伝めくが容赦。
4月29日(土)昭和の日、夕刻7時。沖縄市民小劇場あしびなーは、17年目を迎えた北村三郎・芝居塾「ばん」の恒例公演の花が咲く。「ばん」は芝居、琉歌、諺、風俗史をテキストとした「ことばの勉強会」。素人の集団だが、今回は役者吉田妙子、高宮城実人、歌者前川守賢、舞踊家座喜味米子ら客員を得て、ひとり語り、小歌劇、舞踊、若い島うたなどをプログラムとして華やぐ。案内役は上原直彦、島袋千恵美。
塾生たちは年明け早々から公演に向けて稽古に余念がない。いかなる仕上げになるか、開幕してみなければ分からないが、それだけにスリルとサスペンスの舞台になろう。かくて若夏は一気に長い夏を迎える。
◇北村三郎・芝居塾「ばん」公演
期日:2017年4月29日(土)昭和の日
午後6時30分開場 午後7時開演
場所:沖縄市民小劇場あしびなー
入場料:2,000円
チケット購入先:(有)キャンパス TEL:098-932-3801
あしびなー TEL:098-934-8487
などといきなり無礼をぶちかましちゃってますが、徳高望重の誉れの人であるからきっと笑いを以て看過していただけると存じています。
さてこのほどは貴兄とは一昔にならんとするほどの時の流れを経ての突然思い出したかのようなメールの尊賦になりますが、ご健勝であるとHPより推察しており何よりと安堵いたしております。
つきましては、貴兄にスペシャルエディションのプレゼンを完成まじかにして真っ先にお目通りに願いたくて書き綴っておりますが、このメールが掛かり担当者によって焚書の憂き目にあわないことを祈りつつ失礼いたします。
できれば、誤読感?などをお寄せいただければ幸いです。貴兄をタクシーで那覇空港へお送りした実績を持っていますことを付け加えて申し述べておきます。