旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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歌い分け・かじゃでぃ風節=その3

2011-03-20 00:34:00 | ノンジャンル
 沖縄県立南風原高校3年生知念賞くんの三線歴は9年になる。
 「祖母の85歳の生れ年祝いには、自分が弾き歌う“かじゃでぃ風節”で、祖母を中心に家族全員を躍らしたい」
 その一念で稽古を積み、夢を実現。現在は、郷土芸能部に入部して仲間たちとさらに腕を磨き合っている。将来は、新聞社が主催する芸能コンクール三線の部の新人賞・優秀賞そして最高賞を取得したいそうな。
 「他の仲間よりも各賞を取得するのは僕が早いと思います。なにしろ、僕の名前は“賞”ですから」
 洒落も忘れてはいない。勉強も三線も、大人になったら仕事も人生も(どうせやるなら楽しくやろう)と、思い極めているようだ。

 ※【八十五歳・生れ年祝儀歌】
 symbol7今年(子)ぬ年や 八十五ぬ御祝 子、孫揃るてぃ 百歳御願  
 <くとぅし (に)ぬとぅしや はちじゅうぐぬ うゆえ くぁ、んまが するてぃ ひゃくしぇ うにげ

 (子)は、便宜上そうしただけで、実際には本人の干支にすればよい。今年、八十五歳の方のためには“今年卯ぬ年や・・・・”というふうに。ついでに、十二支の沖縄語発音を記しておこう。
 *子<>*丑<うし>*寅<とぅら>*卯<う>*辰<たち>*巳<み>*午<んま>*未<ふぃちじ・ひちじ>*申<さる>*酉<とぅゐ>*戌<いん>*亥<>。

 〔歌意〕
 今年(子)年は、晴れて八十五歳の祝日を迎えることができた。なんと嬉しいことか。これも先祖神と家族と親族と、厚誼をいただいた方々のおかげである。さあ、これからは子や孫と共に百歳までの長寿を希望し、12年後の97歳の祝いができるよう願掛けをしよう。

 この1首をよくよく読みくだしていると、分句のような気がしないでもない。上句を本人が歓びを表わして発したのに対し、下句は居並ぶ子や孫や嫁、婿が呼応したものと風景化してみると、一段と温かい膨らみを感じる。もっとも、これは私の勝手な思い込み。妙にひねくり返さなくても、立派な琉歌であることには変わりはない。そして、長寿祝いの冒頭に「かじゃでぃ風節」を歌舞した後には決まって「祝い節」「めでたい節」の節曲に乗せて、次の歌詞を歌う。太鼓のリードで満座の人たちは、手拍子を取りながら合唱をする。踊りがつくことも稀ではない。

 symbol7白髪御年寄ゐや 床ぬ前に飾てぃ 産し子歌しみてぃ 孫舞方  
 <しらぎ うとぅすゐや とぅくぬめに かじゃてぃ なしぐぁ うたしみてぃ んまが めーかた

 *舞方=舞い手。空手舞いを原則とする。
 〔歌意〕
 人生の荒波に、すっかり白髪になった我が親。それでもかくしゃくとして満面の笑顔が美しい。今日は、敬意と祝意を表して一番座の床の間に座っていただき、われら子は歌三線を華やかし、孫たちには舞方を舞わして祝おう。

 舞方には、決まった型や振り付けはない。先人たちが演じたものを見様見真似で習い覚え、その上で今風の型を編み出す。したがって、地方によって表現が異なる。屋内で演ずる場合は、素手の空手舞になるが、村祭りなど屋外でなされる場合は振りも大きく、棒術やヌンチャク、サイ等々、得手の古武術具を自由に操って披露する。もちろん「かじゃでぃ風節」に乗せてである。
 舞方は、多いに男らしさを発揮できる。舞方上手の若者は昔も今も女性にモテる。殊に村祭りが近くなると、近隣の女童<みやらび。なーらび>たちは(どこそこの祭りでは、誰それが舞方を演じるそうな)と噂仕合って出かけた。屋内、屋外とも、その座その場の邪気を祓い、福徳を呼び込むという民間信仰があることは言を待たない。

 本来、生れ年〔厄年〕と考えられていて、祝儀はその厄を落とす儀式とともに〔健康的自重・自愛の1年〕としてきた。したがって、生れ年の翌年を〔晴れ厄=はりやく〕と言い、再び厄落としの祝いをした。「トゥビー。年日・生れ年」の語源を「年忌み」としているのも、この観念に基づいている。しかし、近年からは年忌みの観念は皆目なく「長寿祝い」と位置付けている。また、それでよいのではなかろうか。
 「人間の寿命は天命。欲を出しても仕方ない。ただ、子を産み育てているうちに(この子らに目、鼻がつくまではッ)という考えが強烈に頭をもたげてくる。それが(この子が結婚するまではッ)(孫の顔をみるまではッ)(孫が成人するまではッ)と、際限ない夢を見て懸命になっているうちに85歳になってしまった。まあ、これが欲と言えば欲だろうね。この程度の欲は大目に見てくれないかね。85歳は子や孫が生かしてくれた命とも思える」
 過日。85歳のウフスージ<大祝儀>をなさったウミシージャ<先輩に対する敬称>のコメントだ。肖り<あやかり>たくなった。

*「歌い分け・かじゃでぃ風節」は4月1日号に続く。


歌い分け・かじゃでぃ風節=その2

2011-03-10 00:15:00 | ノンジャンル
 3月4日。午前11時45分から午後9時15分。RBCiラジオは県内外、国内外に琉球の宮廷音楽、島うた、民俗芸能、特別参加の津軽三味線などなど、芸能の基調をなす「さんしん=三線=の音」を発信した。毎時報音を合図に演奏されたのは代表的祝儀歌「かじゃでぃ風節」。
 「かじゃでぃ風節」は、屋嘉比朝寄<やかび ちょうき・1716~1775>によって編纂された三線音楽の教則本・記録本「工工四=くんくんしー」上巻の第1節目に記された楽曲。さらにこの楽曲は、歌詞を替えてあらゆる場面で歌われていることは周知の通りである。3月1日号に続いて今号は〔その2〕を綴る。
         

 【家屋新築祝儀歌】
 symbol7御門見りば美らさ 内入りば香ばしゃ だんじゅ福徳ぬ 御宿みしぇる 
 <うじゅうみりば ちゅらさ うちいりば かばしゃ だんじゅ ふくとぅくぬ うやどぅ みしぇる

 語意*だんじゅ=誠に。実に。ほんとうに。間違いなくの意。
 〔歌意〕
 門構えの何と立派で美しいことか。座敷内に入って見れば、これまた間取りと言い、使用している柱や板材も新しく木の香りや畳の藺草<いぐさ>の香りも清々しく、誠にこの家に住む御一家の福と徳を匂わせている。めでたや、めでたや!

 「30半ばまでに自前の家を建てられない者は男ではない」
 周囲の大人たちにそう言われて、1銭の貯えもなく、すべて住宅ローンまかせで家を持ってみた。親しい人たちを招いて〔家葺ち祝儀=やーふち すうじ〕を催した。〔家ふみかし・座ふみかし=やぁ・じゃー〕の慣例にならってのことだ。
 「ふみち」は元々「暑い・蒸し蒸しする」の意。夏のうだるような暑さを「ふみちが強い」と言うが、転じて「ぬくもり。あたたかさ」にまで意味を広げている。したがって、〔家ふみかし〕は、新家屋に人が入り、何10年か生活するにあたり、家族及び多勢の人が一堂に寄り合い、歌い踊ることによって連帯の「温もり・暖か味」で福と徳をつけるという考え方が〔家ふみかし・座ふみかし〕の儀式である。人気<ひとけ>のない家屋には福徳はつかない道理を重んじた。たとえそれが今風のマンションを購入しても、この慣習は成されている。
 私の場合、小さながら庭付きの住いをモノにして、多少の福も徳も付いたように思えるが、ローン返済に30余年を費やした。
 (勤め人の人生は、家1軒との引き換えと見つけたり)
 待て!愚痴に過ぎた。乞う容赦。

 【七十三歳・祝儀歌】
 symbol7六、七十迄でぃや 並々ぬ御祝え 米とぅカジマヤーぬ 御願げさびら  
るく、しちじゅうまでぃや なみなみぬ うゆえ ゆにとぅ カジマヤーぬ うにげぇ さびら

 沖縄には、生れ年を祝う習慣が継承されている。
 新生児が、生まれて7日目に催される「まんさん祝儀・満産」があり、その子が息災に満1歳を迎えたときにやるのは「たんかー祝=ゆうえー」である。
 たんかーは〔対等〕の意があり、新生児は満1年を経て家族の1員、人間として対等であることを強調する祝いが「たんかー祝儀」なのだ。なにしろ、戦前は新生児の死亡率が高かったため、満産もたんかーも神事に近く、いまでも欠かさない。
 次に巡ってくるのは13歳の祝儀。男子女子供に大人の入り口に立ったとしての祝いをする。しかし女子の場合、次の25歳のトゥシビー<年日・生れ年>までには、他家に嫁いでいる可能性が高く、十三祝いは〔実家における最後の祝い〕の意義付けがある。
 とは言うものの13、25、37、49歳の生れ年祝いは、いまではほとんどなされていない・・・・どころか、61歳の祝いをする人も少なくなった。60歳はまだまだ働き盛りだからだ。それを知ってか知らずか、65歳からは前期高齢者、75歳以上は後期高齢者と呼称する行政言葉には、愛情の欠片<かけら>もなく、85歳以上は末期高齢者と呼びかねない冷たさ・・・・。

 〔歌意〕
 61歳、73歳の祝いはごく普通・並々の祝い。85歳、そして88歳の米寿、97歳のカジマヤー<風車>の祝いが本当の長寿祝い・トゥシビー祝いだ。それを迎えられる祈願をしよう。そのための予祝をしよう。

 子や孫は、親の73歳祝いは〔長寿祝い〕と位置付け、親孝行行事として宴を催す。招待も親族は言うに及ばず本人の友人知人、隣近所の方々を招いて都市地区ではホテル、地方では公民館などを使用する盛大なものだ。しかも、子・孫・縁者・友人知人が、それぞれの得意芸を歌三線に乗せて舞台いっぱいに披露する賑わいである。ここまでくると長生きもまんざらではない。
 詠歌の中の〔米・カジマヤー〕の語意については、3月20日号に記する。

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 上原直彦・北村三郎
 今年から文化・芸能講演会の講師として活動します。    

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歌い分け・かじゃでぃ風節=その1

2011-03-01 00:13:00 | ノンジャンル
 いささか俗っぽい表現に過ぎるが「カラスの鳴かない日はあっても、祝儀歌「かじゃでぃ風節」が歌われない日はない」と言われる。
 読者の中には「まさかっ」のひと言を発する向きもあろうが、その「まさかっ」は「まさかっ」ではないのである。ごく私的な寄り合いでも、そこに三線があり、弾き歌う段になると、最初に演奏するのは「かじゃでぃ風節」が定番。暗黙のうちの決まりである。諸々の私的・公的祝宴、芸能公演の開幕に演奏されるのも100%「かじゃでぃ風節」。
 また、催しの内容によって旋律は同一だが、歌詞を変えることがある。祝儀歌、婚礼祝儀歌、出産祝儀歌、家屋などの落成祝儀歌、生れ年を祝う年日祝儀歌<とぅびー>、御墓新設祝儀歌等々。何かにつけて「かじゃでぃ風節」は歌われるのだ。それらの歌詞を記してみよう。


 【祝儀歌=一般的】

 symbol7今日ぬ誇らしゃや 何にじゃな譬てぃる 蕾でぃゆる花ぬ 露逢ゃたぐとぅ  
 <きゆぬ ふくらしゃや なWUにじゃな たてぃる ちぶでぃゆる はなぬ ちゆちゃ たぐとぅ

 〔歌意〕
 今日の誇らしくも歓ばしい心境を何に譬えようか。譬えようもない。強いて言えば、花  が朝露を受けて、いましも満開するような心地である。
 なお、下句は“蕾でぃWUる”の発音もある。
 歌意はまさにその通りだが「花」を〔命〕と解釈してみた。すると「今日の誇らしくも歓喜にたえない祝儀を何に譬えようか。それは同席の者皆が、新しく輝かしい生命の蘇生を得、活力が活性するような心地がする」となる。もちろん、これは私的解釈で〔花〕は〔花〕とする解説に異論をはさむものではない。ひとつの歌言葉も、角度を換えてみると存外、世界が広がると思いついただけのことである。
 いかなる場面でも、この歌詞が三線に乗ると沖縄人は居ずまいをただす。時を越えて心血に組み込まれた歌曲と言えよう。

 【婚礼祝儀歌】

 symbol7ゆかる日ゆ選らでぃ 結でぃ行く御縁 万代に栄る 祝い込みてぃ  
 <ゆかるひゆ いらでぃ むしでぃいく ぐゐん ゆるじゆに さかる ゆわゐ くみてぃ

〔歌意〕
 良縁相ととのい、佳かる日を選び婚礼の宴を催す。満座の人びとが、両家の御縁に〖永遠の幸あれ〗との祝意を表わし祝い合う。
 結婚披露宴は言葉通り、結婚を親しい人たちに披露する宴に違いないが、一方には両家の親御が招待客に対して〖多くの人の厚情を過分に得、子息子女を結婚するまでに成長させていただいた〗という感謝の意も込められているように思える。ただし、必ずしも“今日ぬ佳かる日に”の歌意を用いなければならないというものでもない。たいていは“今日ぬ誇らしゃや”が歌われる。馴染みが深いからだろう。
 儀式、形式離れ著しい昨今の若者たちの結婚披露宴でも、ウェディングマーチならぬ流行りのロックミュージックで入場しても、ひな壇についた後に演奏される舞曲は“かじゃでぃ風節”である。めでたいことの慣例は、そうそう排除できないでいる。

 【出産祝儀歌】

 symbol7暗さ湧ち出じてぃ 明さ御世拝がでぃ 玉黄金孵でぃてぃ 母ぬ御祝え 
 <くらさ わちんじてぃ あかさみゆ WUがでぃ たまくがに しでぃてぃ ふぁふぁぬ うゆえ

 〔歌意〕
 十月十日<とつきとうか>の月日を経て、母の暗い体内から生れ出、この世の明るさを見た宝玉・黄金に値する新しい命。家族の歓びもこの上ないが、尊い命を育んだ母親の偉大さに敬意を表し、盛大に祝って新生児に徳をつけよう。

 しあわせ・幸運を意味する「果報」という言葉。沖縄口では「くぁふう」「かふう」と発音し多用される。
 ※命果報=ぬち がふう。健全なる命をまっとうしているしあわせ、九死一生を得た幸運も意味する。
 ※生り果報=んまり がふう。この世に生を受けたことの果報。
 ※歌果報=うた がふう。歌を歌い合うことの出来るしあわせ。
 ※孵でぃ果報=しでぃ がふう。新しい命の誕生を見る果報。転じて、吉事を得て自らが蘇生するかのような心情を意味し、他人の果報事の祝辞語としても使う言葉。
 ※孵=かえす。卵をかえす。孵化。孵卵。
  “暗さ湧ち出じてぃ”の下句“玉黄金孵でぃてぃ”に、万葉集の歌人山上億良<660~733ごろ>の詠歌を重ねてみたがどうか。
 “銀も黄金も玉もなにせんに 勝れる宝子にしかめやも



〔歌い分け・がじゃでぃ風〕は、3月10日号につづく

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 上原直彦・北村三郎
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