旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

17年の長きに渡り、ネット上で連載された
旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』のアーカイブサイトです!

つれづれ・いろは歌留多 その1

2013-05-20 01:05:00 | ノンジャンル
 沖縄語が絶滅の危機にあると、ユネスコは指摘している。
 文明の進歩にともない、古いものが消滅していくのは時代の流れ。しかし、指摘された沖縄人にとっては、刃を突き付けられたようで慄然とする。県も関係機関を稼働させて(歯止め)を模索している。
 「確かに日常会話から沖縄口が極端に減少している。でも、そこは伝統行事やそれに伴う古謡、宮廷音楽、島うたを日常的に表現している沖縄だ。そうそう絶滅するとは思えない」
 そう楽観する向きもないではない。
 そこで「浮世真ん中」でも、特別な使命を意識してのことではないが「いろは歌」をベースにして「現代いろは言葉あそび」を気軽に、思いつく慣用語を引っ張り出して、毎月20日号に記してみたい。無責任ながら沖縄語辞典などの参考書は、出来るだけ開かないように心掛け沖縄語・標準語・英語等々を織り交ぜて「歌留多風」に遊んでみたい。読者諸氏も(自分なりのいろは歌留多)を綴ってみてはいかが。
 さてさて。
 イの1番は何にしようか。やはりこれしかあるまい。

 ※『い』
 *(読み手)逢ちゃりば兄弟 何隔てぃぬあが=いちゃりば ちょうでー ぬう ふぃだてぃぬあが=

 *(取り手)人類、皆兄弟! オール・ブラザース!

 意訳=袖すり合うも縁あればこそ。兄弟姉妹として睦み合おう。何の隔たりがあるものか。人類、皆兄弟という言葉は、赤十字運動の創始者アンリー・デュナンの理念。

 ※『ろ』
 *(読み手)ローマは1日にして成らず。

 *(取り手)首里ぬ御城ん フィッチーしぇー 建たん=すいぬ うぐしくん フィッチー(1日)しぇー たたん=

 意訳=偉大な事業は、長い年月とたゆまぬ努力によって成るという例え。

 ※『は』
 *(読み手)ハックション!洟引き!(はなふぃち)

 *(取り手)風邪引きさん!

歌意=風邪は魔物の仕業と考えられていて、くしゃみする者がいると、周囲の者は即座に「くすくぇー!=糞喰らえっ!=と、汚い言葉を発する。魔物は臭いモノや汚いモノを極端に嫌うそうな。それを魔除けの呪文としている。しかし「糞喰らえっ!」では、耳に快くない。そこで沖縄では「糞喰らえっ!」と発した後に「儲きてぃ米喰えっ=もうきてぃ メーくぇーっ。儲けて米を喰えっ=という言葉を付けて、周囲を和ませる。西欧では「神の御加護を!」と、声を掛けるという。

※『に』
*(読み手)寝いぶいかーぶい!(にーぶい)

*(取り手)あくびが出たよ!おお 眠い。

歌意=「にーぶい」は、眠いの意味。「かーぶい」は、「にーぶい」に掛ける重ね言葉。語彙。
俳句の「春の海終日のたりのたりかな」の(のたりのたり)にあたる。のらりくらり・そろりそろり・晴れ晴れ・夕焼け小焼け等々。畳語は多く、日本語の表現の豊かさを覚える。もちろん、沖縄語も例外ではない。畳語については後日「特集」を組んでみることにする。

さて、思いつくままにと断って「に」まで書いたものの、残り43字にどんな慣用語、俗語を当てようか・・・・。頭が痛くなった。が、楽しんで「いろは散策」をしてみる。

※5月下旬の催事。
スツウブナカ(宮古)
 開催日:5月27日(月)
 場 所:多良間島内(多良間村)


わが輩はシシジョーグーである

2013-05-10 01:36:00 | ノンジャンル
「わが輩はシシジョーグーである。少年のころからそうだ。モノを選ばない。とにかく肉であれば何でもいい。ところがふと気付いたことだが、わが家の食卓に肉の姿を見かけなくなって久しい。その代り魚と野菜が多くなった。わが家の経済は、そこまで逼迫しているのだろうか」。
シシは肉。ショーグは上戸。ショーグと語尾を伸ばすと(上戸の人)になる。
そこで先日、家人には「仕事の打ち合わせ」と告げて、後輩を誘い、アグーとビールを胃の腑に納めた。

アグーは沖縄在来の黒豚だ。短足で腹が垂れ下がっていて、面相はブルドッグを思わせる愛嬌顔。方言風には(アーグー)。いかなる生活環境にも対応する強健さで多産系。したがって、繁殖に適し、1900年前後には農家が約10万頭飼育していたという記録がある。最近は、専門業者が飼育して県外でも人気を得ているようだ。

アグーに対して、ひところ話題になった(イノブタ)がいる。
猪と豚を掛け合わせたのがイノブタ。これには、ちょっとした秘話がある。
昭和49年〈1974〉のある夜。八重山竹富町西表美原の農家・高田水献さんの豚舎に野生の猪が侵入して、そのまま居ついた。そうこうするうちに、同居する2頭の雌豚1頭を妊娠させた。闖入者、居候のくせして大した度胸の猪だ。生まれた子は、豚でもなく猪でもない。そこで名付けられたのが猪豚・イノブタである。この自然交配がきっかけで農家はイノブタ増殖に乗り出し、量産化を軌道に乗せ、年間50~60頭を料理店などに出荷するに至った。
イノブタは、豚より耳は小さいが鼻は長く、毛並みや姿は猪のDNAを継いでいる。成長するに従ってキバが目立つようになるが、性格はおとなしく、人間の(お座り!)の声に応える犬並みの頭脳を持つものもいるそうな。肉味は豚同様柔らかく臭みはない。ただ、交配が5~6代続くと、元の猪に返るため、2~3代で交配を打ちきり、飼育、出荷しているという。
高田さんの場合、山間の約5千平方メートル飼育場を有刺鉄線で囲み、柵の下部には微弱電流を通して逃亡を防いでいる。所詮は野生の猪。周囲の森や山を見ると、帰巣本能がうずくかも知れない。
余った麦、芋、パイン、サトウキビが好物だが、合成飼料でも間に合い、あまり世話をやかせないため「助かる」と、飼育者は言う。

前にも書いたが、沖縄の4大馳走はトウフ、カマブク、シシ、グンボーと、かつては言われた。すなわち、豆腐・蒲鉾・肉・牛蒡である。
中でもシシを食さないと、肌がカサカサになり、鼻の頭が乾くという。美容と栄養には不可欠の食材で沖縄は〔豚肉の消費量全国一〕とされるのも、そこいらを考慮して積極的に摂取している。そのせいだろうか「沖縄人は、殊に女性は美肌」との評価を得ている。
祝儀料理、季節の行事料理にも豚肉は欠かせない。さらに豚は、肉のみならず、脂肪はラードに、耳はミミガー(耳皮)刺身、酢の物。チラガー(顔面の皮)しかり。内臓は吸い物の具、足はチマグと言い煮付け、あるいはティビチと称して豚足料理になる。もちろん、出汁は取れるし、骨間の肉は美味。戦後は骨つきのまま乗せた「ティビチそば」も登場して、名物のひとつになっている。
少年のころ。夕食支度のシム(台所)から肉をゆがく匂いがすると、少年の腹の虫は遠慮を知らず大声で鳴く。たまらず少年がシムへ行くとおふくろは、ゆがきたてのシシにちょいと塩をふって一切れ二切れを家族の誰よりも先に食べさせてくれた。
シシ不足の昨今。このおふくろ話しをさりげなく家人にしてみよう。鼻の頭の乾きが取れるかもしれない。


※5月中旬の催事。

 *第99回 春の全島闘牛大会(うるま市)
  開催日:5月12日(日)
  場 所:石川多目的ドーム


若夏・生きものたちの登場

2013-05-01 01:27:00 | ノンジャンル
 3月後半には日本一小さいイワサキクサゼミが鳴き、その声に誘われてデイゴが開花。海開きもなされて、夏の入口が見えてきた。
 あたりが清よく明るくなる(清明の節)が過ぎると、申し合わせたように海は青さを増し、山はみどりの若葉が鮮やか。そのみどりに白いアクセントをつけているのがユリの花。
 野生のそれはもちろん、植栽されたユリが人家の庭、主要道路の分離帯にも咲きみだれ早速、伊江島では「ゆり祭り」が開催された。
 「姫ユリ、鬼ユリの名称はいいとして(鉄砲ユリ)は、いただけないなぁ。鉄砲はどう考えても戦争兵器だし、身近に配備される北朝鮮のミサイル迎撃砲や朝と言わず夜と言わず飛行するオスプレイを連想する。思いは基地被害に及ぶしなぁ。ユリからキナ臭さを連想してしまうのは、沖縄人だけかなぁ」。
 こうした会話も耳にする。実際、ユリの島・奄美大島沖永良部の方の中には、わが島のユリは鉄砲なぞ担がない。鉄砲の冠は破棄し(永良部ユリ)と呼んでほしいと、真剣に訴える方もいる。

 干潟には沖縄語で(トントンミー)と称する(ハゼ)も姿を見せた。
 国内では、沖縄本島の中城湾と大浦湾だけに消息し、絶滅の恐れがあるハゼの1種トカゲハゼは繁殖期に入った。干潟ではオスがメスを追いかけ、体操選手よろしく直立やひねりを加えたジャンプをして求愛している。中には、すでに相思相愛のものもいて、長い背びれをアンテナのように立てて、仲よく干潟を散策。彼らのテリトリーに近づくカニには、恐れず威嚇を放つ強気を見せる。トカゲハゼは体長10センチ。沖縄の個体群は国内唯一で世界的に分布の北限とされる。環境省と県のレッドデータブックでは絶滅の危機度が最も高い「絶滅危惧IA類」に指定されている。
 トントンミーの呼称は、ハゼの飛び跳ねるさまの擬態語。人間でも、落ち着きのない者のことをトントンミーと言い「ハゼでもあるまいし、落ち着けっ」と諭す。愛嬌もののトントンミーは、佐賀県有明のムツゴローのイトコぐらいにはあたるのだろう。

 この時期、厄介なのはアフリカマイマイだ。春雨のころから繁殖が始まり、所かまわず這い出してくる。わが家の小さな庭にさえ登場。時には壁やガラス戸にもへばりつくから始末が悪い。先日も30個余りを駆除した。
 アフリカマイマイは東アフリカ原産。広く熱帯太平洋地域に分布する。日本には1930年代中期、食用としてジャワ(現インドネシア)、台湾から移入され、奄美大島以南の島々に分布するようになった。繁殖力は並みではない。終戦直後、食糧難の時代には、蛋白源として養殖。アミノ酸含量からみると栄養価は高いとされるが、肉は固くて美味とはいえない。筆者も少年のころ養殖の経験がある。缶詰も販売された。
 しかし、食糧事情がよくなった1950年代から60年代にかけては、農作物への被害が大きくなり、各市町村では駆除のため買い上げをした。沖縄では、冬季以外は産卵孵化する。産卵数は1回で500個を超す個体もあり、1個体で年間5回の産卵が見られ、約2週間で孵化する。岩場や石垣、コンクリート、ブロック等々(石)を求めて這いまわるのは、甲羅を強固にするためと言われる。
 でもまあ、考えてみるとアフリカ・チンナン(かたつむり)も、気の毒と言えば気の毒。敗戦国日本の食料事情緩和の任務をおびて遠くジャワや台湾から支援のため来日したのだが、いまではすっかり悪者扱い・・・・。ハブ被害を防御するために(天敵)としてインドから移入されたマングースの運命と相通じる。

 5月。若夏の期間は短く、一気に灼熱の太陽の季節に入る沖縄。その太陽エネルギーを生命維持のそれに替えて、動植物が活動することになる。われら人間も負けてはおれまい。大いなる活動、行動を開始しよう。

 ※5月上旬の行事
  *奥ヤンバル鯉のぼり祭り(国頭村)
   開催日:5月3日(金)~5日(日)
   場 所:奥ヤンバルの里公園内

  *第39回 那覇ハーリー (那覇市)
   開催日:5月3日(金)~5日(日)
   場 所:那覇新港ふ頭

  *第16回 鳩間島音楽祭 (八重山)
   開催日:5月3日(金)
   場 所:鳩間島公民館前広場