旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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ニービチ♡いま・むかし

2007-11-22 12:41:05 | ノンジャンル
★連載NO.315

 涼しくなったせいか、結婚披露宴に出席する機会が多くなった。10月中旬からこの方4回も馳走にあずかっている。
 沖縄の結婚披露宴の招待者は、平均して200人強。街方ではホテル、地方では公民館等が利用される。お祝儀は、縁者は別として通常1万円也。大和では3万円から5万円と聞くが(勤め人には負担だろうなあ)と、人ごとながら気にしている。

 沖縄本島では、嫁入りの総称を「ニービチ」という。民族学者柳田国男は「メビキ=女引き=の転語ではないか」としていて、宮古・多良間島では嫁入りを「メガピキ=女引き」と言う例もある。また一方には、男女の独立を稲の株分けに例えて「根引き=ニービチ」とする説もあり、根分けによる(新しい命の継承)を意味しているようだ。
 ひところの披露宴の開会は、メンデルスゾーンやワグナーの「結婚行進曲」に乗って新郎新婦が神妙な面持ちで入場して始まったが、最近は楽聖の曲に代わって、なんとも賑やかなディスコ調のサウンドを用い、目に痛いほどの照明の中を入場してくる。新郎新婦も有名タレントに成り切り、表情はきっちりテレビの中のそれだ。
 司会者の両家の紹介。媒酌人、来賓、職場、友人。それぞれの祝辞の合間は余興だ。面白いのは、ディスコサウンドで入場して新郎新婦が雛壇着席してすぐに鳴り出すのはサンシン。祝賀歌「かじゃでぃ風」の歌と踊りを座開きにしている。これは、いかにも沖縄的で何の違和感もない。そして、友人たちのアチラソングにダンス。コチラソング<民謡>に舞踊。果ては寸劇やお盆の念仏踊りエイサー、地域の民族芸能があって、プログラムは総出で踊るカチャーシー<即興舞>でしめる。司会者がよっぽどうまく進行しないと、3時間を超えることになる。

 因みに、沖縄の結婚披露宴に(司会者)が登場したのは、終戦間もない昭和22、3年ごろ、石川市<現・うるま市>の村屋<集会所>におけるそれであると言われる。司会役をつとめたのは当時、同市内で歯科医院を開業していた小那覇全孝氏<おなはぜんこう=1897~1969>。小那覇氏は芸名ウナファ舞天<ブーテン>と称し、敗戦で失意の底で暮らしていた人々を漫談やサンシン片手の自作自演の芸で慰問・慰労してまわった人物。結婚披露宴、敬老会、各種祝賀会の(司会業)は、舞天さんに始まるとされる。

 戦前。首里那覇のウェーキンチュ<金持ち>や地方のそれはともかく、庶民の披露宴は簡単なものであった。
 男方の仏前に両家の親兄弟、親類縁者が揃う。まず仲人の口上。次いで一族の長老格のパーパー<老女。ハンシーとも言う>が一同の前に出て「水寄れぇ=みじ ゆれぇ」の儀式を行う。これは、男方の屋敷の井戸から汲んだ水をミームーク<新婿>・ミーユミ<新嫁>の額に撫でつける。水は(一族の命の源)とし、水寄れぇをすることによって、二人はもちろん、両家の深い縁結びを確固たるものにしたのである。
 それがすむと、あとは両家で作った馳走を前にしての祝宴・酒宴になる。ここでも祝歌「かじゃでぃ風」を弾き歌い踊って新婿新嫁の前途に徳をつけ、両家の繁栄を祝う。歌・サンシン、舞踊、舞方<めーかた。空手舞>などなど、心得のある者がつぎつぎに登場して演じる。友人知人が多く座敷に収容できない場合は、庭に筵を敷いてそこが宴席であり舞台になる。
 月が中天より西に寄っても続いた祝宴がすんでも、新婿新嫁は解放されない。新婿の男友だちが隣家に「婿宿=むーく やどぅ」と称する座敷をあらかじめ借り置き、新婿を中心に朝まで酒盛りをする。今風に言えば2次会だ。
新嫁もまた、その夜は「手引ち友小=てぃーふぃち どぅしぐぁ」、つまり、お手てつないで遊んだ幼友だちや祝宴の準備かれこれの手伝いをしてくれた女友だちと、ニービチばなしをして朝を迎える。それだけでも終わらない。2日目の夜もまた、手引ち友小に親戚の年ごろの女童たちが加わり「着物見しー=ちん みしー」をする。ニービチするにあたって、自ら縫った着物を披露する儀式だ。大抵は2,3枚。多くても5,6枚だったようだが、多ければその自慢もする。披露された友だちは枚数を羨ましがり、未婚の女童なぞは、自分のニービチの参考にした。したがって、新婿新嫁が水入らずの(ふたりだけ)になれるのは、3日目の夜ということになった。

 私事。
 12月にもお呼ばれがある。招待状に、
 「ご出席の皆さまの中からベストドレッサーを選出、(賞)を授与致します。彩り華やかな装いでのお越しをお待ちしています」
 とある。せいぜいスガッて<めかして>出席することにしよう。

次号は2007年11月29日発刊です!

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