「シチグァチ(7月・お盆)ん済まち、ゆるっとぅ、なたんやぁ」
大人は、今日この頃の挨拶をこの言葉から始める。
(旧盆も済ませホッとしたね)程度の挨拶である。
沖縄の2大年中行事は、言うまでもなく、シチグァチとソーグァチ(正月)である。先祖供養をしたあとは、当たり前のことながら(善行)を成した気分なり実に(ゆるっとぅ)する。因みに今年の(シチグァチ)は、9月3日がウンケー(祖霊御迎え)、4日、ナカぬフィー(祖霊もてなしの中日)、5日がウークイ(あの世へお帰り頂く御送り)の日だった。
様式は地域によって異なるが、共通している作法に「ウチカビ=打ち紙」がある。地獄の沙汰も金しだいというわけでもないが、あの世でのみ通用する金銭のこと。ウークイの夜、大抵10時頃から午前0時までが普通で、深更に行うこともある。遅くに行うのは、一刻でも長くもてなしをする、名残を惜しむ心情が働いているからだ。電気が普及していなかった時代は日没後、月が中天にかかる前にウークイはしたそうな。
仏壇のお供え物を1片づつ小型の盥風(たらい風)の器に入れ、家の門口に持って行き、改めて線香を焚き「またヤーン、うとぅいむちさってぃくぃみそーり=また来年、おもてなしさせて下さい」と、手を合わせ御送りをするのである。
その時に焚くのが「ウチカビ」の儀式。
打ち紙そのものには「アンジカビ=あぶり紙」と称している。
死後の世界の通貨と信じられ、藁や古畳などを用いて梳きなおして作った約20×30ほどの黄色い紙に銭型を刻印したのがウチカビ・アンジカビ。「おかげさまで、よく働き、金銭にも大きな不自由はしておりません。どうぞお遣い下さい」という選別の意味合いも込められていると聞いた。まるで現世にいるものに対する心遣いで念がいっている。あの世とこの世は以外に隣り合わせなのかも知れない。
ウチカビの起源は中国。台湾、香港でも仏事の儀式としてあるが、意外にお隣の奄美大島にはないそうな。琉球には14世紀後半にもたらせた風習で、シチグァチのみでなく墓地などの仏事には欠かせない儀式のため、それを総称して「カビアンジ=紙炙り」としている。
ところで。
台湾に通じている人の話によれば、祖霊も近代化し、現金持ち歩きは不便だろうし、また、徒歩によるあの世への帰省のスピードアップを図ってもらおうと、クレジットカードや高級車をデザインした打ち紙?が出回り、そのカードを炙っているという。
明治政府成立に伴い琉球国は一時、全国並みに(藩)となり、明治12年4月4日「藩を廃して剣となる」いわゆる廃藩置県により(沖縄県)の成立をみた。日本国の1県である以上、通貨も(円)になる。明治中期とされるが、沖縄の通貨を円に換算した記録がある。参考にして時代を考察してみよう。上段は旧貨、下段は円。50単位で推移ししている。
◇ぐんじゅうー(五十)=1厘。◇ひゃーく(百)=2厘。◇ひゃーくぐんじゅうー(百五十)=3厘。◇にひゃーく(二百)=4厘。◇たくむい ぐんじゅー(二百五十)=5厘。◇さんぱく(三百)=6厘。◇さんぱく ぐんじゅー(三百五十)=7厘。◇しぱーく(四百)=8厘。◇しぱーく ぐんじゅうー(四百五十)=9厘。◇いちゅくむい=1銭。◇一貫(貫はクァンと発音)=2銭。◇1貫五百=3銭。◇二貫=4銭。◇二貫五百=5銭。◇三貫=6銭。◇三貫五百=7銭。◇四貫=8銭。◇四貫五十=9銭。◇五貫=10銭。◇とぅなー(十縄)=20銭。◇十五貫=30銭。◇二十五貫=40銭。◇五十貫=1円。◇五百貫=10円。◇千貫=20円。
沖縄芝居や殊に流行り歌には旧通貨の呼称が多くみられる。
近くは「十九の春」「汗水節」「時代の流れ」等々に聞くことができる。
昨今、円相場は110円台前後を行ったり来たりしているようだが、新旧の通貨価値を比較してみるのも、また一興ではなかろうか。明治の頃、困窮に詰められて20円で遊郭に売られた女性の記録も風俗史に見られる。
ウチカビの話はここまで発展してしまったが・・・・。金銭の話は、時に生臭くなる。が、使い様によって人情話にもなる。
6月初めに住居を移した我が家に長年付き合っている歌者松田弘一が訪ねてくるという。
「まだ片付かないから、「シチグァチが済んでからおいでよ」
そう言うボクに、携帯電話の向こうの反応はこうだ。
「貴方の都合はそうでも、ボクはいつ何時、金の都合に迫られるか。火急の場合、貴方に借りるより他に当てがない。1日でも早く住居を知っておきたい!」。
もちろん冗談口。相手の統合より自分の都合と言うことによって(構わなくていい)を表明したのである。
彼は翌日やってきた。借金申し込みどころか、移転祝いと称して数本の庭木と途中で買ったというピザを持参していた、気持ちのいいシチグァチを過ごしたのは言うまでもない。
大人は、今日この頃の挨拶をこの言葉から始める。
(旧盆も済ませホッとしたね)程度の挨拶である。
沖縄の2大年中行事は、言うまでもなく、シチグァチとソーグァチ(正月)である。先祖供養をしたあとは、当たり前のことながら(善行)を成した気分なり実に(ゆるっとぅ)する。因みに今年の(シチグァチ)は、9月3日がウンケー(祖霊御迎え)、4日、ナカぬフィー(祖霊もてなしの中日)、5日がウークイ(あの世へお帰り頂く御送り)の日だった。
様式は地域によって異なるが、共通している作法に「ウチカビ=打ち紙」がある。地獄の沙汰も金しだいというわけでもないが、あの世でのみ通用する金銭のこと。ウークイの夜、大抵10時頃から午前0時までが普通で、深更に行うこともある。遅くに行うのは、一刻でも長くもてなしをする、名残を惜しむ心情が働いているからだ。電気が普及していなかった時代は日没後、月が中天にかかる前にウークイはしたそうな。
仏壇のお供え物を1片づつ小型の盥風(たらい風)の器に入れ、家の門口に持って行き、改めて線香を焚き「またヤーン、うとぅいむちさってぃくぃみそーり=また来年、おもてなしさせて下さい」と、手を合わせ御送りをするのである。
その時に焚くのが「ウチカビ」の儀式。
打ち紙そのものには「アンジカビ=あぶり紙」と称している。
死後の世界の通貨と信じられ、藁や古畳などを用いて梳きなおして作った約20×30ほどの黄色い紙に銭型を刻印したのがウチカビ・アンジカビ。「おかげさまで、よく働き、金銭にも大きな不自由はしておりません。どうぞお遣い下さい」という選別の意味合いも込められていると聞いた。まるで現世にいるものに対する心遣いで念がいっている。あの世とこの世は以外に隣り合わせなのかも知れない。
ウチカビの起源は中国。台湾、香港でも仏事の儀式としてあるが、意外にお隣の奄美大島にはないそうな。琉球には14世紀後半にもたらせた風習で、シチグァチのみでなく墓地などの仏事には欠かせない儀式のため、それを総称して「カビアンジ=紙炙り」としている。
ところで。
台湾に通じている人の話によれば、祖霊も近代化し、現金持ち歩きは不便だろうし、また、徒歩によるあの世への帰省のスピードアップを図ってもらおうと、クレジットカードや高級車をデザインした打ち紙?が出回り、そのカードを炙っているという。
明治政府成立に伴い琉球国は一時、全国並みに(藩)となり、明治12年4月4日「藩を廃して剣となる」いわゆる廃藩置県により(沖縄県)の成立をみた。日本国の1県である以上、通貨も(円)になる。明治中期とされるが、沖縄の通貨を円に換算した記録がある。参考にして時代を考察してみよう。上段は旧貨、下段は円。50単位で推移ししている。
◇ぐんじゅうー(五十)=1厘。◇ひゃーく(百)=2厘。◇ひゃーくぐんじゅうー(百五十)=3厘。◇にひゃーく(二百)=4厘。◇たくむい ぐんじゅー(二百五十)=5厘。◇さんぱく(三百)=6厘。◇さんぱく ぐんじゅー(三百五十)=7厘。◇しぱーく(四百)=8厘。◇しぱーく ぐんじゅうー(四百五十)=9厘。◇いちゅくむい=1銭。◇一貫(貫はクァンと発音)=2銭。◇1貫五百=3銭。◇二貫=4銭。◇二貫五百=5銭。◇三貫=6銭。◇三貫五百=7銭。◇四貫=8銭。◇四貫五十=9銭。◇五貫=10銭。◇とぅなー(十縄)=20銭。◇十五貫=30銭。◇二十五貫=40銭。◇五十貫=1円。◇五百貫=10円。◇千貫=20円。
沖縄芝居や殊に流行り歌には旧通貨の呼称が多くみられる。
近くは「十九の春」「汗水節」「時代の流れ」等々に聞くことができる。
昨今、円相場は110円台前後を行ったり来たりしているようだが、新旧の通貨価値を比較してみるのも、また一興ではなかろうか。明治の頃、困窮に詰められて20円で遊郭に売られた女性の記録も風俗史に見られる。
ウチカビの話はここまで発展してしまったが・・・・。金銭の話は、時に生臭くなる。が、使い様によって人情話にもなる。
6月初めに住居を移した我が家に長年付き合っている歌者松田弘一が訪ねてくるという。
「まだ片付かないから、「シチグァチが済んでからおいでよ」
そう言うボクに、携帯電話の向こうの反応はこうだ。
「貴方の都合はそうでも、ボクはいつ何時、金の都合に迫られるか。火急の場合、貴方に借りるより他に当てがない。1日でも早く住居を知っておきたい!」。
もちろん冗談口。相手の統合より自分の都合と言うことによって(構わなくていい)を表明したのである。
彼は翌日やってきた。借金申し込みどころか、移転祝いと称して数本の庭木と途中で買ったというピザを持参していた、気持ちのいいシチグァチを過ごしたのは言うまでもない。