誰もが使え、使いやすいものに/株式会社ユーディット会長・関根千佳
ICT(情報通信技術)は今や社会のインフラそのものである。水や電気や交通と同様に、私たちは常に情報を使いながら生きている。そして日本は世界一の高齢国家でもある。成人人口の半数がすでに50歳を過ぎた。視覚や認識に何らかの困難を抱える人々が、みなICTを必要とする時代になったのだ。
だが日本には、そのICTを誰もが使えるようユニバーサルデザイン(UD)にすべきという法律が存在しない。重要なインフラなのに、国民の多くが使えない(アクセシブルでない)、使いにくい(ユーザビリティが低い)まま放置されているのである。
公共交通や建築物に対しては、政府はバリアフリー法などを定めてUDを推進してきた。企画段階から多様な市民のニーズを考慮し、事前・事後評価を行って改善するというものだ。その結果、ベビーカーや車いすユーザー、高齢者がバスや電車に乗って役所にアクセスすることが、ようやく当たり前になってきた。
だが製品や情報提供に関しては、UDを前提とするという法律はない。例えば災害時やコロナ禍で、高齢者や障がい者こそ正確な情報を得ることが重要なのに、情報へのアクセスを保障する法律は制定されていないのだ。
政府は、今後のデジタル化に対し、誰もが使えるようにと「デジタル・ミニマム」の政策を進めている。とても大切なことだ。これを実現するためにはICTのUDを進める必要がある。誰もが使えるためのアクセシビリティと、使いやすさのためのユーザビリティの、二つを確保することが重要だ。デザインの最初からUDを設計に組み込み、定期的に評価し改善するプロセスを義務付けるべきである。
欧米では公共交通や建築と同様に、デジタルインフラもUD以外は禁止している。米国は1986年にリハビリテーション法508条を制定し、公的機関によるICTの調達においてハード、ソフト全てをアクセシブルなものに限るとした。この法律は徐々に強化され、ウェブサイトや情報サービス、携帯アプリに拡大し、98年以降、違反は処罰の対象となった。大学の講義も障がいのある学生の存在が前提なので、UDは常識だ。情報にアクセスすることは人権として保障されているのである。EUもEAA(ヨーロッパアクセシビリティ法)という法律を制定し、各国に法制化を強く求めている。
日本では、高齢者が使えないことが電子化を進めない言い訳にされてしまう。海外では逆だ。最初から高齢者も障がい者も使えるよう、使いやすいように作ってこそ、全ての市民が使えると考える。
デジタル庁は、今後の電子政府・電子自治体をUD以外では作らないという強い自覚を持って進めてほしい。調達基準をUDに限り、当事者によるユーザー評価も義務付ける。それでこそ、SDGsの「誰も取り残さない」ルールに合致するのだから。」
最初から高齢者や障がい者が使えるよう、使いやすいように作ってこそ、全ての市民が使えると考えるという点は、道路や駅などのバリアフリーなどについての考え方でも指摘されている。
こうした配慮すべき方々と日常的に接する機会を持つ地方議員として、デジタル化の今後について、利用者側の視点を持って議会活動に取り組んでいきたいと思います。