ステージおきたま

無農薬百姓33年
舞台作り続けて22年
がむしゃら走り6年
コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

今更7年前の映画でもないんだけど。

2014-01-03 12:21:37 | 映画
 大晦日は、NHKプレミアムの映画、これがここ数年の過ごし方だ。紅白を敢えてパスするとかって気持ちはない。あの国民総参加イベントと肌が合わないってことだけ。それと、グラスを片手にかつての名作をじっくりってのも、年越しにふさわしい時間のように感じるんだ。

 昨年は高倉健の作品特集だった。『唐獅子牡丹』と『幸福の黄色いハンカチ』でたっぷり涙を流して、極めつけは『駅 STATION』人が生きることの切なさに胸ふさがれた。

 今年の極めつけは『ボーン アルティメイタム』だった。

 『ボーン』シリーズは、記憶を失い何故か暗殺者になってしまっている男:ジェイソン・ボーンが、自身の過去を探し求める話しだ。暗殺者だが、金目当て、狂信故の仕事ではない。しかも、しでかした殺人は、そばから記憶が失われ、その断片のみがかすかにフラッシュバックするのみ。得たいの知れない自分自身、犯してしまったらしい殺人、その罪の意識に苛まれつつ、自分を操る実態に肉薄する。秘密を守り通そうとする組織の全力上げた追跡、狙撃、殺し屋。文字通り行き詰まる追跡劇が、ロンドンの雑踏、モロッコ・タンジールの密集した家屋を舞台に、最後はニューヨークでの破壊度100%のカーチェイス。追われる者の緊迫感!

 この追跡劇の切迫感を支えているのが、情報技術だ。町中あらゆる所に設置された防犯カメラ、その映像がリアルタイムで追跡者の中枢に映し出され、逐一追跡者に伝えられる。カメラの死角をたどって逃亡するボーン。追跡者の拳銃に取り付けられたビデオカメラがスリルを研ぎ澄ます。音響効果も大きい。常に追い立てるような低音のリズムがボーンに迫る。全編、スリルとサスペンス、ってまぁ、月並みだけど。

 でも、一番引き付けられたのは、ボーンを操る組織が実はCIAだったことだ。国家のために躊躇わず殺人を行う暗殺者マシーンを作ること、それがCIAの極秘作戦だった。命令のままに考えることなく邪魔者を殺していく。しかもその記憶は実行のそばから失われる。これほど都合のいい暗殺者はまたとない。ボーンはついにその秘密にたどり着く。自分を暗殺マシーンに作り上げた研究者と対峙するクライマックス、ボーンは、それがボーン自身の志願であったことを知らされる。どうやらその青年(ボーンに生まれ変わる)は中東戦争?に従軍し、友人を失った痛手からそんな非人間的な実験の被験台になることを目指したようだが、映画ではよくわからなかった。

 さて、CIAと言えば、アメリカの敵と見れば、国内外を問わず脅し、貶め、圧迫し、圧殺してきた存在だ。アフガニスタンに侵攻したソ連軍に敵対するするためイスラム原理主義過激派を育てたり、中南米の多くの左翼政権を打倒するために、反政府組織を支援し指導し多大な武器援助を行って、軍事政権樹立をお膳立てしてきた。そんなCIAなら、暗殺マシーンだってあり得る。

 だが、僕が感じたやりきれなさは、青年が自ら志願して暗殺マシーンに成っていったということだ。彼は、殺しに関するあらゆるテクニックをたたき込まれ強靱な殺人者になって行った。CIA-暗殺マシーンの関係はこれで止まるものなのか?国家-従軍兵士。国家が悪と見なすベトナム人、中南米の人々、さらに中近東、あるいはイスラム教徒に対し、若者たちは自ら志願し戦場に立ってきたのではないか。CIA-ボーンの構図は、アメリカ国家-兵士達と読み替え可能だ。

 だから、映画のラストシーンはあまちょろい。CIA内部の良識派がボーンの手に入れた極秘書類を議会に提出し、CIA長官以下、関わった上層部が失脚することで終わる。そう、良識の勝利ってやつだ。でも、現実は違うだろう。CIAの秘密活動は国家の上層部黙認のものだろう。だから一部人間のリークは、当然のこと、抹消されていくに違いない。極秘文書は人知れず廃棄され、告発者は始末される。残るは、政府高官のあざけりを隠したしかつめな顔。

 アメリカの恥知らずの歴史をあからさまにした、『オリバー・ストーンのもう一つのアメリカ史』、その再放送が、年末の29,30日にあった。『ボーン アルティメイタム』はその翌日。果たして偶然なのか?はたまた、番組編成者の内密な企みだったのか?

 

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