泡 盛 日 記

演劇人(役者・演出家)丹下一の日記です。

続けていてくれて、ありがとう

2017-01-12 23:05:41 | 丹下一の泡盛日記
「息子が亡くなった」と若いころからの付き合いの先輩俳優から連絡があった。
一体なにがどうしたのかもわからずに日程を調整した。
今日は午前中の所用を済ませて小さな公園のようなところでお弁当を食べて都内へ。
黒いジャケットやメジャーなんかも入っているリュックが重い。
10代の一人旅を思い出す。
午後は鉄線会能楽堂の能舞台で「死者の書」のリハーサルに立ち会う。
特別出演の観世銕之丞さんも参加。

終了後の打ち合わせをさくっと済ませて、はじめての埼玉県の駅へ。
寒空に満月が美しい。
お通夜。
その息子さんとは25年前に初めて会った。
父親である先輩俳優から会って、話してみてほしい、と頼まれたのだ。
18歳で音楽をやっていた彼は高校卒業後にどうするのか、迷いがあったらしい。
都内の劇場の本番に来てくれて、終演後に話した。
ものすごく高価な真っ白なギターを持っていた。
「すごいの持ってるなあ!」と言ったら触らせてくれた。
高校生が買うには相当にアルバイトしてお金を貯めなければならなかったはずだ。
そのギターは彼の決意表明だったのだ。
とてもシャイな若者で、30代の自分は面倒なおっさんにしかみえなかったろう。
25年ぶりにあった彼は、無言だった。
帰宅して、彼がずっと音楽を続けていたことを知った。
一人暮らしの部屋は足の踏み場も無いくらいに音響機材であふれていたと言う。
そうか、ずっと続けていたんだ!
なんだか妙に嬉しくなった。
突然の不慮の事故。
彼自身が一番受け入れ難い「死」であったことだろう。
そして、続けていたことに、感謝したくなった。
続けていてくれて、ありがとう。
合掌。そして、献杯。



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