12月24日閣議決定された国の来年度案について、社民党の見解が談話として発信されましたので、少し長いですがお伝えします。
2016年度政府予算案の閣議決定にあたって(談話)
社会民主党幹事長代行 吉川 元
1.アベノミクスの失敗を隠し、選挙対策と軍拡を進める予算
政府は本日の閣議で、一般会計総額が過去最大の96.7兆円となる2016年度政府予算案を決定した。事実上4年連続の「15か月予算」であり、2015年度補正予算とあわせれば、100兆円を越える膨大な規模となった。アベノミクスの失敗を隠す「一億総活躍社会」づくりやTPP対策を名目にした参議院選挙向けの「バラマキ」とともに、「積極的平和主義」を掲げ、当初予算で初めて5兆円台に乗せた防衛費やODA予算の増額が目立つ予算となった。
2.参院選向けの「バラマキ」補正予算
憲法53条に基づき、野党が求めていた臨時国会の開会を政府与党が拒否したことから、18日に閣議決定された2015年度補正予算案は、9月に発生した台風18号の被害対策など喫緊の課題があるにもかかわらず先送りされ続け、財政法29条が定める「緊要性」という観点からはあまりにも遅すぎる。一方、TPP対策という観点からは、いまだに全文訳も公開されず、全体像も不透明で、条約の批准・承認もなされていない段階での「農林水産業対策」は、参院選を意識した「バラマキ」以外の何物でもない。また、低年金受給者に3万円を給付するための予算も、確かに2015年度から、初めて「マクロ経済スライド」(公的年金の支給額の伸びを抑制)を発動し、年金額の低い人ほどその影響は大きいといえるが、低年金受給者への抜本的な対策を示さないままの来夏の参院選前の給付金支給は、選挙目当ての「バラマキ」というよりない。
一方で、「中国の海洋進出」を口実に、巡視船艇10隻や航空機2機の建造費を前倒しで計上し海上保安庁の補正予算が過去最高の255億円になった。また、警察庁のテロ対策予算が強化されていること、防衛省関連でも、災害対応名目で軽装甲機動車やNBC偵察車、96式装輪装甲車などの調達が進むとともに、警戒監視態勢の強化やテロなどへの対処能力の向上、情報収集能力の向上、厚木飛行場から岩国飛行場への空母艦載機の移駐に伴う施設整備関連経費などが計上されていることも看過できない。
3.消費税収に依存する歳入
2016年度予算案における歳入面では、2014年4月からの消費税の標準税率8%への増税により、税収(当初予算)に占める消費税の割合が大きくなっている。税収が「25年ぶりの高水準」とされるが、しかし、25年前の1991年度(決算)と2016年度の税収を比較すれば、法人税収は16.6兆円から4.4兆円減少し、所得税収は26.7兆円から6.7兆円減少する一方、消費税収は5.0兆円から17.2兆円へと12.2兆円もの大幅増加となり、税体系そのものが「消費税依存税制」となっている。すなわち、この間の復興特別法人税の前倒し廃止なども含めた大企業優遇の法人税減税、所得税率のフラット化などによる減収分を、消費税で穴埋めしてきたにすぎない。また、新規国債発行額は34.4兆円となったが、今回、民・自・公の3党合意による3年間の赤字国債自動発行の特例法が期限切れとなる。政府は、自動的に赤字国債を発行することを認めてきた特例法を延長する方針だが、本来財政法で発行が認められていない赤字国債を国会のチェックなしに自動発行できる仕組みの延長は看過できない。
4.「社会保障費のため」の消費税増税の理念の喪失
31兆9738億円となった社会保障費は、「骨太の方針2015」の「3年間で1.5兆円」を「目安」に抑え込むとする方針に沿い、4412億円の増加に抑えられた。しかし、高齢者化の進展や医療技術の進歩などに伴い、社会保障費の自然増は年間1兆円規模が必要とされており、上限を設けて自然増まで徹底削減するやり方は、国民に過重な負担増とサービスの削減を押しつけるものである。また、「希望出生率1・8」といいながら、「消費増税の影響を緩和する」として2014年度の1万円で始まった「子育て世帯臨時特例給付金」(2015年度は3000円)は打ち切ることにされた。安倍内閣は、「新3本の矢」で「安心につながる社会保障」を掲げているが逆行している。
医療サービスの公定価格である診療報酬を8年ぶりのマイナス改定とすることも問題である。「本体部分」(医師らの技術料)は0.49%引き上げるものの、「薬価部分」(医薬品や材料の価格)は1.33%引き下げとなり、全体で0.84%の引き下げとなる。前回2014年度も消費税増税の対応分を除くとマイナスであり、2回連続の実質マイナス改定による医療機関や薬局の経営への影響は深刻である。医師・看護師不足や病床の削減による地域医療の崩壊に拍車をかけかねない。
5.相変わらずの教育軽視
文科省予算は前年度比0・2%減の5兆3216億円となった。財務省との間で攻防が繰り広げられた公立小中学校の教職員定数は、2015年度比3475人減とされた。文科省が要求していた教職員定数改善は大幅に削減され、少子化を理由にした定数減が大きく上回った。国が教職員給与を賄う義務教育費国庫負担金は3分の1分、1兆5271億円とほぼ現状維持である。国立大学法人運営費交付金や私立大学等経常費補助は前年並みで、国際人権A規約の留保撤回による高等教育無償化に向けた努力はまったく見られない。一定の前進があったのは、幼児教育無償化に向けた取り組みで、幼稚園の保育料を第3子以降は無料化するのため345億円(文科省分は323億円)が計上された。第1子の年齢制限がなくなり、無償化が拡大する。
大学等奨学金事業で、無利子奨学金を拡充するため880億円が計上されたことは歓迎されるが、これによる貸与枠の拡大は1万4000人程度に過ぎず十分とは言えない。所得連動返還型奨学金制度導入に向けたシステム開発の加速があげられているが、並行して給付型奨学金の創設を急ぐべきである。国立大の運営費交付金は15年度と同額の1兆945億円となったものの、各大学の機能強化の方向性に応じて傾斜配分する仕組みの導入は問題である。
原子力関連予算では、原子力規制委員会から運営主体の見直し勧告を受けた高速増殖炉原型炉「もんじゅ」について、原子力規制委が定めた新規制基準に対応するために文部科学省が概算要求した100億円が認められず、施設の維持・安全管理費用の185億円だけが認められた。本来これも無駄な支出であり、早期に高速増殖炉計画を断念し廃炉を決定すべきだ。また、中央省庁の事業の無駄を点検する11月の「秋のレビュー」で問題になった使用済み核燃料運搬船「開栄丸」の関連費用も、運航に必要な経費の計上が見送られた。なお建造費の分割支払の3億円と維持管理経費3億円の6億円が必要とされており、意味のないプロジェクトの早期の清算が求められる。
6.拡大を続ける防衛予算
戦争法の施行を控えるなかで防衛予算は聖域化され、前年度比740億円増(前年度比1・5%増)の5兆541億円となった。安倍政権の成立後4年連続の増額となり、SACO関連経費、米軍再編関連経費を含めた当初予算として初めて5兆円を突破した。4兆9801億円であった2015年度予算も、直前に決めた14年度補正予算に含まれた2110億円と合計して5兆1911億円と5兆円を超えていたが、16年度予算の場合も15年度補正予算の防衛省所管分1966億円をあわせると5兆2507億円となり、防衛力偏重の安倍政権の姿勢がさらに明確になった。哨戒ヘリSH-60Kを17機、次期主力戦闘機F35機を6機、垂直離着陸輸送機オスプレイ4機・447億円、イージス艦建造費・1735億 円、F35戦闘機 6機・1084億円、機動戦闘車36両・252億円、「そうりゅう」型潜水艦の建造636億円など、戦争法による新たな任務を見据えた装備の導入、南西警備部隊の配置など島嶼防衛態勢の整備が進められる。
このペースが続けば2014年から18年の中期防衛力整備計画の枠(5年間で23兆9700億円)を上回るのは必至であり、防衛費は際限なく膨張していくおそれが強い。
7.沖縄県民の民意を無視
アメリカ軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を進める費用として、契約ベースで前年並みの1707億円が計上された。歳出ベースでは15年度の244億円から595億円と約2・4倍に上積みされており、辺野古沖合の埋め立て工事をさらに強行する姿勢がいっそう明確になっている。一昨年末の沖縄県知事選挙や総選挙の結果によって、辺野古の新基地建設反対の民意が明確になる中で、強引に建設工事を進めようとする予算は到底認められない。
在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)は前年の1912億円から1933億円に増額された。別枠の米軍再編関係経費も同じ性質の予算が多く含まれ、米軍の肩代わりをするための予算全体が急増していることについては、財務省からも圧縮を求められている。日米地位協定はもとより特別協定上の対象ともならない法的根拠のない支出が拡大している。
沖縄縄振興予算は3350億円と前年度より10億円の微増となった。当初、辺野古の基地新設に関する政府と沖縄県の対立を背景に、政府・与党から予算の減額を主張する圧力があったが、前年なみを維持することができた。16年1月の宜野湾市長選や、県議選、参院選への影響を考慮して、強硬な手段を控えたと考えられる。そもそも沖縄振興予算は米軍基地受け入れの対価ではなく、辺野古新基地問題とリンクさせることが許されないは当然である。翁長氏の辺野古移設への姿勢が予算に影響する可能性を示唆した島尻大臣の発言は極めて問題である。
8.TPP前のめり予算
農林水産業関係は、TPP「大筋合意」を背景に、農地の大区画化推進や土地改良事業など大規模農家への支援偏重が目立つ予算となった。農地集積を進める農業農村整備事業は前年度比232億円増の3085億円に達し、15年度補正予算案で計上した990億円と合わせて4000億円規模に及ぶ。地域の合意に基づく必要な農地集積・規模拡大は否定しないが、16年度税制改正で耕作放棄地への固定資産税を現行の1.8倍に引き上げる方針と合わせ、TPP対策を名目に拙速かつ強引な農地集積が進むことを強く懸念する。
TPPをめぐっては未だ安倍政権が日本語訳の協定案全文すら公表していない上、「大筋合意」後、国会審議もほとんど行われていない。また参加各国が協定案に署名するのは早くても来年2月の見込みで、TPPの発効時期も不明なまま予算のみ見切り発車するのは国民を愚弄するもので国会軽視も甚だしい。社民党は反対だが、安倍政権がTPPに参加するというならば最低限、個別農産物の詳細な影響額試算、都道府県ごとに地域経済や関連産業、県民所得、雇用などへの影響を算出し、農林水産業の持つ多面的機能への影響評価なども含めて検討した上で、それらを踏まえて国会決議や食料自給率目標などの既存農政との整合性も精査しなければならない。国内対策はそうした一連の検証作業を踏まえ、再生産を確実に可能とする恒久的な農林水産業対策でなければならないが、15年度補正予算案と16年度予算案で計上されたTPP関連予算はそうした一連のプロセスを全く無視しており、参院選目当ての付け焼き刃の対策との批判を免れない。
またコメの直接支払い交付金が18年度の廃止に向けて前年度比37億円減額、TPPで特に影響が懸念される中山間地域に対しても「中山間地域等直接支払交付金」が同27億円削られている。小規模農家や中山間地切り捨ての姿勢が一層鮮明になっており、安倍農政の新自由主義的な傾向がさらに露骨に表れた予算案である。
9.4年連続増加の公共事業
公共事業関係費は、参院選対策も念頭に、26億円増の5兆9737億円となり、第2次安倍政権発足後4年連続の増加となった。災害や老朽化、安全などへの対策は当然だが、三大都市圏環状道路、羽田空港の駐機場や誘導路の整備など、国際競争力強化の観点から大規模公共事業が推進されている。また、整備新幹線の建設費は、事業費ベースで2015年度当初比28%増となる2050億円(国費は755億円)が計上され、北陸新幹線、九州新幹線・長崎ルート、北海道新幹線の延伸区間の建設前倒しが図られている。一方、生活交通関連では、タクシー事業の活性化支援の創設や交通政策基本計画の実現による交通政策の総合的な推進、観光庁予算での対応等は評価できるが、地域の公共交通ネットワークの再構築に向けた取組み支援が縮小しているのは残念である。なお、年間2千万人が視野に入ってきた訪日外国人旅行者をさらに増やすため、観光庁予算は200億円を計上し、2015年度当初からほぼ倍増となった。
10.課題が残る地方財政
2016年度の地方財政は、一般財源総額が15年度当初の61.5兆円を上回る61.7兆円とされ、過去最高を更新した。しかし、一般財源のうち地方税収(地方譲与税と地方特例交付金を含む)が2.4%増の41.3兆円となったこともあって、地方交付税は0.3%減の16.7兆円と4年連続で減少した。歳出特別枠について実質上前年度と同水準を確保したものの、まだまだ財源不足は大きく、リーマン・ショック後の上乗せ措置である別枠加算が廃止されたのは遺憾である。財源確保の面では、交付税率の引き上げではなく、15年度からの繰り越し分に依存していることや、地方の総意なき法人住民税の国税化の拡大等に課題が残っている。
交付税特別会計借入金の償還増や臨時財政対策債の大幅抑制によって、地方財政の健全化が一見進んだように見える。確かに折半ルール分の臨財債は81.1%減の0.3兆円となったが、過去の赤字地方債のツケ回しである元利償還金分等の臨財債は14.4%増の3.5兆円となっていることに注意を払う必要がある。
「骨太方針2015」で、地方交付税の算定において、アウトソーシング等に取り組む自治体の「先進事例」を算定に反映させる「トップランナー方式」を導入するとしていたが、16年度から学校給食や公園管理、庁舎清掃、ごみ収集などの16業務に関し、民間委託などによって経費節減しているとみなして交付税の配分額を決める方式が導入されることになった。しかし、交付税は標準的経費という形で算定されており、一番安いところに合わせるというだけでは、安かろう悪かろうになりかねない。委託先の企業がない町村や小規模自治体に支障がないようにすることはもちろんだが、そもそも交付税算定で民間委託を誘導するのは、地方自治への介入であり、「国は、交付税の交付に当つては、地方自治の本旨を尊重し、条件をつけ、又はその使途を制限してはならない」との交付税の運営の基本原則にもとるものである。
また、「地方創生」関係では、「地方版総合戦略」を支援するため、「地方創生推進交付金」1080億円が計上されている。15年度補正予算の「地方創生加速化交付金」(1000億円)と合わせ、2000億円となる。地方からの増額要求に応えた格好だが、1自治体あたり1億円程度に過ぎず、極めて不十分だ。しかも自治体の「割り勘」となっており、「地方の使い勝手がいい交付金」といえるのか。本来、国から自治体への税財源移譲や使途が自由な地方交付税の増額で対応すべきである。
11.「生活再建」置き去り復興
「福島イノベーション・コースト構想関連事業」や「東北地方へのインバウンド推進による観光復興事業」など新規事業が多く盛り込まれたが、反面で住宅再建や復興まちづくりに関する予算が前年度比2000億円以上削減されたことは疑問である。特に復興交付金が半額以下になっていることは、16年度から国が全額負担してきた従来方針を転換し被災自治体に財政負担を求める点と考え合わせれば、震災被害が大きく16年以降に復興工事のピークを迎える自治体ほど負担が重くなり復興格差を広げかねない懸念がある。
また現行の「被災者健康・生活支援総合交付金」を「被災者支援総合交付金」と名称を改め、内容を拡充するとしているが、生活再建の途上にあるさまざまな立場の被災者に、迅速かつ臨機応変に対応する真に使い勝手の良いものにしなければならない。例えば復興庁は「自主避難者を含む県外避難者への情報提供等は本交付金により支援」するというが、福島県による自主避難者への住宅支援が16年度末に打ち切られる事態に国として手をこまねいていることは許されず、そうした対応も行うべきである。
福島県の避難指示区域などを対象に工場や物流施設、店舗などの新増設を支援する「自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金」も新設された。被災地での雇用創出や産業再生は重要だが、一方で福島第一原発事故の収束が未だ見通せない中、帰還の強制につながってはならず、原発事故被害者が自らの意思に基づき居住・避難・帰還の選択が行えるよう国の支援を定めた「子ども・被災者支援法」の理念を十分に踏まえた、柔軟できめ細やかな国の対応を強く求める。
12.「トリクルダウン」ではなく「ボトムアップ」を
IMFやOECDのレポートが示すように、「格差是正こそ経済成長」を促すことは言うまでもない。安倍政権も、そうした指摘や参院選を意識し「分配」を主張し始めているが、アベノミクスはあくまでも大企業・大都市の「成長の果実」を前提にしたトリクルダウン論に他ならない。しかし、「成長の果実」が、滴り落ちることはない。アベノミクスの生み出す、大企業と中小企業の格差、都市と地方の格差、正社員と非正規社員の格差拡大などを食い止めるべく、社民党は「トリクルダウンではなくボトムアップ」の予算を目指し、次期通常国会での論戦に挑んでいく決意である。
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