介護保険現場での人材不足の今後は?
9月10日付けの産経新聞に下記の記事がありました。
「高齢者や障害者を介護するための国家資格「介護福祉士」取得を目指す学生を養成する全国の大学や専修学校などで入学者の定員割れが深刻化し、平成20年度の定員全体に占める実際の入学者の割合(充足率)は45・8%と半分を下回ったことが厚生労働省の調査で分かった。
背景には、仕事の肉体的なきつさや労働実態に見合わない「低収入」などで就職先として魅力がなくなり、保護者らの反対で進学を敬遠する動きが指摘されている。介護専門職の人材を育てる養成校で大幅な定員割れが続けば、将来の労働力不足が懸念され、介護サービスの質の維持にも影響が出そうだ。
今年4月1日現在の大学や短大、専修学校など国が指定する養成校434校の定員数2万5407人に対し、入学者数は計1万1638人。
充足率は、厚労省が集計を始めた18年度に71・8%(入学者数約1万9300人)、19年度は64・0%(同約1万6700人)と低下に歯止めがかかっていない。
16年に約100万人だった介護サービスの職員数は、26年には140万~160万人が必要とされる。入学希望者を増やすため厚労省は来年度から、介護現場の経験者らが中学、高校の生徒や進路指導の担当教師にアピールする説明会を開く。」
一方、9月8日(月)長野県の社会福祉審議会が開催され、社会福祉における諸課題に関する意見交換の中でも、福祉人材の確保・定着について本県においても大変な実態にあることが、改めて確認されました。
審議会では、まず県の社会福祉協議会が福祉人材の確保と雇用安定を図るため行っている職業紹介・人材確保事業の8月末現在の状況が報告され、有効求人数は1,386人、これた対し有効求職者数は288人と有効求人倍率は4.81倍。また、今年8月に長野市と松本市の2会場で行った「福祉の職場説明会」への参加法人の求人数は1,495名と昨年と比較し10.3%増加したのに対し、求職者数は375名で昨年の509名と比較し26.3%も減少している。特に、新卒予定の学生の参加が減っているとのことでした。
そして、その後行われた各委員からの審議では、「本当に応募が少ない。専門学校も定員どころか半分に満たないと聞いている。」「介護保険制度導入後、離職率が高くなって来た傾向にある。」「研修に出してあげたいが、いそがしすぎて出せない。年休もとれない。」「経営者は報酬単価のうち経営安定化施設資金や積立金にまわし、人件費にまわしていないのではないか。」等々の意見が出されました。
また、介護保険制度の見直しに関する意見では、報酬単価の見直しや「人材の配置基準以上に人を配置している。実態に即した配置基準に改めて欲しい。そうすれば、年休の取得や研修に参加させることが出来る。」「報酬単価の根拠が示されていない。国は根拠を明確にして欲しい。」等々の意見が出されました。
この県の審議会を傍聴していて、事は国の介護保険制度の内容が招いている現実であり、県行政として改善のため何が出来るのか言えば、ほとんどなすすべもなく、私は何とも空しさを感じました。それは、私だけでなく審議会委員や出席していた県職員の皆さんも同じ思いであったと思います。
介護保険制度の特に介護報酬の改定は、通常3年に1度改訂されており、次期改訂は平成21年4月(来年)が予定されています。
これまでの改訂状況は、平成15年度時はマイナス2.3%、平成18年度時マイナス2.4%と連続してマイナス改訂が続いており、この結果が現在の人材不足という深刻な事態を招いています。
この状況は昨年県が実施した各施設への実態調査でも明らかとなり、県では同様の問題が発生している障害者自立支援法の見直しも含め、国に対し直接或いは知事会等を通じ改善を要望しています。
また、県議会でも昨年の9月議会で意見書を可決し国に送付するとともに、改革・緑新では本県選出の衆参国会議員全員への要望活動を行って来ました。
こんな時、9月19日付けの信濃毎日新聞に、「厚生労働省の社会保障審議会介護給付費分科会が18日開かれ、来年度の介護報酬改訂に向け本格的な論議が始まった。冒頭、同省の宮島俊彦老健局長は「プラス改定の方向で財政当局と折衝している」と述べ、介護労働者の待遇改善のために、引き上げを検討していることを明らかにした。
報酬が引き上げられると公費負担や介護保険料アップにもつながることから反発も予想され、年末に編成される政府の来年度予算案でプラス改訂が実現できるかが焦点となる。」と報道されました。
私は「引き上げを検討している」ことを歓迎するとともに、何としてもプラス改訂を実現するために、今、私達に出来ることとして、この9月県議会で再び国に対し意見書を提出するための提案を行う決意をしました。
追 伸
県社会福祉審議会でのある委員の「経営者は報酬単価のうち経営安定化施設資金や積立金にまわし、人件費にまわしていないのではないか。」との発言に私は注目しました。
というのも、働く方の大変さや人材不足の問題はクローズアップされていますが、社会福祉法人等の経営者側の利益がどうなっているかは、余り話題にならないからです。
同じ様な指摘で思い起こすのは、タクシーの規制緩和で地区の過当競争が強いられ、ドライバーの手取りが急減し、国土交通省が「行き過ぎた緩和」として再び台数規制へ方向転換を作業部会へ示したと報道した新聞記事です。
そこには、「乗務員の待遇改善を目指すのであれば、台数の需要調整の前に、賃金体系を見直すべきだとの指摘もある。労働組合を代表する委員らは、『(それぞれの売り上げに応じて給与額が決まる)歩合制中心の給与体系が、需要減少のしわ寄せを乗務員に押しつけている』と訴えた。国交省も作業部会で、人件費が急減する中でも事業者の収支率が減っていない実態をグラフで示した。ただ、今回の方針では『事業所外労働が中心のタクシー事業では、歩合制にも一定の合理性がある。』とし、原則として労使の問題とした。」(7月4日付け朝日新聞)
つまり、あれだけ規制緩和で過当競争が煽られ大変だとしていたタクシー事業者は、その中でも全国平均で収支率は減っておらず、ドライバーの給与が急減し続けても利益はしっかり確保していたということです。
介護保険制度も措置制度から民間の事業者が行う制度に移行したという点では、事業者は利益にならなければ事業に参入しません。無論、全国的に撤退している事業者が増えていることも問題となっていますが、タクシー事業同様、一方的に労働者側に犠牲を強いる可能性があります。
そこで、私は介護保険制度は保険制度であると同時に多額の公費も投入されていることから、人材の確保と持続可能なサービスを確保するため公務員のように人事院勧告制度のような制度を設け、統一的な給与基準を示すことが必要ではないのかと思っています。
また、このままでは公費負担や介護保険料アップが強いられ介護保険制度そのものが崩壊する危険性も指摘されていることから、当面、40歳から30歳の方にも保険料を負担して頂くことを広く理解して頂く取り組みも問われているのではないかと思います。
今回、福祉現場における持続可能な待遇改善について、主に介護保険制度の見直しについて、私の意見と取り組みを報告しましたが、皆様からの率直なご意見をお寄せ下さい。