11月27日の参議院本会議で「交通政策基本法案」が、可決・成立しました。
この法案については社会党時代からの長い経緯がありますが、「移動権」などの文言は明記されなかったものの、公共交通の維持・存続など総合交通政策を確立するために大きな前進であると思います。
実は、私も新幹線の金沢までの延伸に伴う長野以北平行在来線存続への支援策を求めるため、県公共交通対策会議の皆さんや同様な取り組みを行っていた青森、岩手、富山、石川、新潟県等の皆さんとともに、交通基本法の制定についても当時与党であった民主党や国土交通省、そして社民党にも要請活動を何度か行って来た経過があり、自・公政権下でもこの法案が可決・成立されたことを歓迎するものです。
今後は、成立したこの法律をもとに、人口減少や高齢社会の中で地域の公共交通等の維持・存続などの具体的取り組みを具体化させることが必要です。
なお、参考に法案成立に伴い社民党が発表した歴史的経緯を含めた談話を下記に紹介します。
■ 社民党の交通政策基本法案の成立に当たって(談話)
1.本日の参議院本会議で、交通政策基本法案が社会民主党はじめ多くの党の賛成で、可決・成立した。本法案は、「交通は、国民の自立した日常生活及び社会生活の確保、活発な地域間交流及び国際交流並びに物資の円滑な流通を実現する機能を有するものであり、国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展を図るために欠くことのできないものである」として、交通の果たす機能・意義を位置づけ、交通に関する施策の基本理念及びその実現を図るのに基本となる事項を定めるものである。交通に関する基本法の制定は、交運労協など交通運輸関係者、障がい者の皆さんはじめ多くの皆さんの運動の悲願であり、本日の成立をともに喜びたい。
2.元々交通に関する基本法は、自家用車への過度の依存を改め、誰もが利用しやすい公共的な交通手段を確保することで、新しい交通体系をつくろうというものであり、背景には私的モータリゼーションの進展への批判、地方に顕著な公共交通の衰退と和歌山線格差運賃返還訴訟(1985年)等の運動、「私も外へ出たい」という障がい者や高齢者をはじめとする交通弱者の移動の自由の要求があった。そしてフランスでは1982年に交通権を明記した国内交通基本法を制定していたが、日本は総合的な交通に関する基本法がなかった。1985年には「交通権を考える会」が、1986年には「交通権学会」が発足した。
3.こうした状況を踏まえ、当時の日本社会党は、交通運輸関係労働組合や障がい者運動等と連携して、公共交通政策の充実に取り組むとともに、交通に関する基本理念を明確にして交通政策全体について総合的なあり方を示していく法律である交通基本法の法制化に向け、1987年12月、運輸部会として交通基本法制定を申し入れるに至った。88年12月には、「21世紀にむけた国民本位の交通政策の確立のために~交通基本法の制定についての提言」をまとめ、89年には、参議院選挙政策として、国民の交通権の確立などを盛り込んだ骨子をまとめ、交通基本法の制定を提唱した。
4.実際の法案の形で国会に提出されたのは、2002年6月のことで、民主党とともに交通基本法案を国会に提出した。そして2006年12月、貨物鉄道や地域交通計画などを加える等の見直しを行って再提出したが、2009年7月の衆議院解散に伴って廃案となった。その後、歴史的な政権交代によって、2009年9月、鳩山内閣が誕生すると、「コンクリートから人へ」の象徴の一つとして、交通基本法検討会や交通政策審議会等での検討を経て、2011年3月に政府法案として法案が提出された。
5.今回の交通政策基本法案は、鳩山連立政権下で検討が始まり、2011年3月に菅内閣が提出した交通基本法案をベースに、東日本大震災後の状況変化も踏まえて検討が進められ、民主・社民提出の議員立法も参考にし、提出されたものである。交通政策の考え方の基本との位置づけで、名称変更交通の安全の確保の規定ぶりの強化のほか、「大規模災害への対処」、「日本の知識・技術の海外展開」、「運輸事業の発展」、「施設の老朽化」、妊産婦・乳幼児」、「調査研究」などが追加されている。
6.他方、「国際競争力」の強調や大規模公共事業の復活・推進などの懸念も残る。社民・民主両党の議員立法の基本理念であった移動権についても盛り込まれず、2011年法案の「国民の健康で文化的な最低限度の生活を営むために必要な移動その他国民等が日常生活及び社会生活を営むに当たり必要な移動、物資の円滑な流通その他の国民等の交通に対する基本的な需要」(第2条)も、今回、「国民その他の者の交通に対する基本的な需要」と簡略化されてしまった。
7.しかし、地域を支える交通網は加速度的に衰えており、鉄道やバスなどの路線から離れていて、通院や買い物などの日常生活に苦労している人は地方都市でも少なくない。2030年には65歳以上の人口は3割を超え、自動車を運転できない交通弱者の移動を支えるためにも、公共交通に期待される役割は大きく、「交通崩壊」の今、「衣・食・住」にプラスして「移動」の重要性を社会が認識すべきことはいうまでもない。地方の交通再生は待ったなしであり、基本法がなかったために総合交通政策が展開できず、公共交通機関の衰退を招いた面があったことも否定できない。そういう意味で本法案の持つ意義は小さくない。
8.社民党などの提案で、附帯決議には、「交通従事者の労働環境の改善、人材の育成・確保等への配慮」、「国民の交通に対する基本的な需要の充足」、「安全・安心・快適な移動」へ万全を期すこと、「これまでの交通政策の見直し」、「法制や助成」の的確な運用、「本法の施行状況」の検証・見直し」などを盛り込むことができた。今回は「時期尚早」として法文に明記されなかった移動の権利も、「移動権について論じること自体が交通というものを考えるための良いきっかけとなっており、また、それが求められる背景には移動に関する差し迫った問題がある」(「交通基本法案の立案における基本的な論点について」交通政策審議会、社会資本整備審議会)ことから、国民の交通に対する基本的な需要が充足され、安全・安心・快適な移動が実現されるよう生活交通などの充実に努力するとともに、移動権自体の検討を進めるべきである。
9.民主党政権は基本法を「交通分野の憲法」的なものと位置づけていた。今回の交通政策基本法の制定で一歩を踏み出したが、今後、基本法に基づき、この間の規制緩和政策の検証・見直しや運輸・交通関係の法令・施策の棚卸しと再定義が図られなければならない。多くの皆さんとともに法律に魂を入れていく取り組みが求められている。社民党は、「小さく産んで大きく育てる」との観点から、利用者の立場に立った施策の推進、交通弱者の必要な移動の保障、総合的な交通体系の構築、生活交通の維持・確保、環境にやさしい交通政策の推進、地域の活性化等のために、今後の施策の見直し・充実を実現していくとともに、各地の「足を守る会」などの取り組みとも連携して、地域から交通政策充実の運動を盛り上げていく。
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