たかはしけいのにっき

理系研究者の日記。

恐怖と限界

2015-06-30 00:05:49 | Weblog
 通常、「では最後に何か質問やコメントはありますか?」と言われたら、終了の合図。早く終わりたいので、何も言わないのが定石である。
 権威も無いくせに、ここで何かコメントをする奴は、空気が読めていない。Cグループ(ノリの悪い集団の総称)の、非常識やろーと思われても仕方ない。

 12年前、高2の夏を少し過ぎた頃、全校生徒が集まる体育館で生徒総会が行われており、俺は、『さっさと終わんねーかな』と退屈していた。(おそらくは)同級生(だったはず)の生徒会長が「何か意見がある方はいますか?」と収束に舵を切ったので、定石通り、俺はやっと終わると思っていたのだ。
 しかし、俺の予見は外れた。ある上級生が天を突いたのだ。っま、どーせAグループ(ノリの良い集団の総称)のヤツがノリのいい適当なこと言って終わりだろう、と思っていたら、よく見ると手を挙げたヤツは明らかにCグループ。すると、さらりと次のように言いのけた。

 「これで制服に関するルールはしっかりと定まったわけですから、校則で規定されている以外のネクタイやリボンをつけたりしている人は、今すぐに、はずすべきじゃないですか?」

 どよめく体育館。俺は、眠い目を擦って、彼の眼を直視した。決心を持った攻撃の眼をしている。ヲイヲイ、こいつ、今1人で、何百人を敵に回したと思ってんだ?!第一、お前Cグループだろ。Aグループの方を全員敵に回したと言っても過言じゃねーぞ。
 …などと冷静な判断をする以前の問題で、『あぁ、制服についての新ルールを決定してたのか』と「会」そのものの主旨すらあやふやな状態で、はっきり言って、俺は(当然、全然まったく)やる気がなかった。

 私立の中学から県立高校に入った俺としては、高校の校則なんて無いに等しかった。制服はあるにはあるが、私服同然な奴も多い。校則は確かにあるにはあるが、細かいところまでは誰も守ってないし、先生たちもいちいち誰も何も言わなかった。その誤魔化した態度を、ただの生徒、それも明らかなCグループが、意義を申し立てたのだ。
 たぶん俺にとって、全校生徒レベルで、CグループがAグループに明らかな謀反を起こした瞬間を目の当たりにした、最初で最後の例だ。柔和さをいっさい持たずに、平然とマイクで正論を述べている。

 ちなみに、そこから議論は1時間以上にわたって行われた。感情的で論理的な、あらゆる意見が出た。
 蚊帳の外である俺ら下級生は、成り行きを黙ってみてた。野次が飛ぶことはあったけど、基本的には、1つのマイクを交互に話す感じ。数とノリの論理で押し切ろうとする校則を破り続けたいAグループ、どちら側についたら無難か、よくよく考えて隣と話し合っているBグループ、正論で押し切れると思っているCグループや無関心を貫くCグループ。あそこまで、マクロスコピックな系のグループ性の体現は、後にも先にも、俺は観たことがない。

 しかし、もっと大変な焦点がある。最初にこの議論を勃発させた、あのCグループの上級生は、このあと、どうクラスへ戻っていくのだろう?自らの恐怖を自覚しているのだろうか?俺はそのことをずっと考えていた。
 彼にだって、クラスメイトがいるだろう。嫌々ではあれど、話す相手くらいはいるはずだろう。そして、そのことが予測できないほどバカじゃないはずだ。

 あの頃の俺では、わからない。でも、今ならはっきりとわかる。
 人間は、それよりも遥か上のレベルの恐怖が別の集団で存在していると、それ以下の恐怖に対して、どうでもよくなってしまうものなのだ。

 あれから、もっともっと我を通して行く瞬間を見てきたし、俺自身も無難じゃないコメントを無難じゃないタイミングで言うことも、沢山してきただろう。潜在意識の中に、このときの出来事はあるけれど、もっともっと別のドライビングフォースだって、確かに存在している。
 
 今現在抱えているこの恐怖に対しては、どんなに冷酷なことでも行えると思っていた。だから、この恐怖と一切関係のない系なら、余計になんでもできると思い込んでいた。でも、この歳になって初めて、俺にも限界があることを思い知らされた。冷酷に徹することができないこともあるんだと、そういうことが自分には存在していると気がつかされたのだ。この経験はとても有難い。

 本当に怖いことに比べれば、恥をかこうが、バカにされようが、うざいと思われようが、大丈夫。というよりも、目的遂行のためだったら、なんだって、どんなことだって、いくらでもできる。
 そう思っていたが、俺にも限界そのものはあるんだと実感させられた。

 だとしたら、訂正しておこう。
 俺は、感情の要素数を限界まで下げていき、俺の限界ギリギリまで冷徹に論理を構成し、それを実行しようと思う。それが解決への糸口。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする