ハワード・ホークス監督「紳士は金髪がお好き」を見る。
「いちばん好きな映画は?」と聞かれることがあったりすると、
「セーラー服と機関銃」とか「時をかける少女」と答えたりしているけれど、
ひょっとしたらこの映画がいちばん好きかもしれないと思う。
もう何度見たかわからないし、見るたびに
これほど幸福感に浸れる映画もないというか。

主演はマリリン・モンローとジェーン・ラッセル。
お金が大好きなモンローと、愛が一番だと考えるラッセル。
ブロンドとブルネットのグラマー女優二人が、
それぞれの個性と役どころに合わせて、歌って踊る、まさに夢のような90分。
マリリン・モンローという人は、意外に悲劇的で病的な役が似合うのだけど、
天真爛漫な明るさで、ダイヤモンドは女の親友、と歌う彼女は
何度見ても鳥肌が立つというか、涙が出てくるほど。
モンロー以上にダイナマイトな迫力のジェーン・ラッセルも素晴らしい。
彼女がいるからこそ、モンローが際立つというか。
モンローだけの主演だったら、映画が持たないだろうと思うわけで。
脇で出てくる男たちは、
ほぼ全員モンローとラッセルを見て鼻の下を伸ばしているわけで、
もちろん観客(自分も、だ)の鼻もびろーんと伸びている。それはもう限りなく長く。
唯一、鼻の下を伸ばしていないのが、二人を追いかける探偵の男で、
その探偵だけが、ラッセルとの愛を成就させる。実に聡明な映画だと思う。
ということは、監督のハワード・ホークスも
鼻の下を伸ばしていないんだろうな、と。
主演女優にのめり込むような映画を撮る監督はたくさんいるけれど、
そこは一線を引いている感じがしていて、しかも無類に面白いという。
誰でも撮れる映画のようでいて、
誰にも撮れないのではないかと思ったりする。
とにもかくにも、名作中の名作かと。