Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

捨て去ったあとの幸福

2024年01月18日 | 映画など
ヴィム・ヴェンダース監督
「PERFECT DAYS」を見る。
思った以上に労働ムービーで、
ファンタジックな観光映画で、
ロックンロールと反復の映画だった。
この映画の役所広司みたいな生き方がしたい、
という人はきっと多いと思うけれど、
自分には絶対無理、としみじみと確信する。


この映画の平山という男の生き方。
確かに理想かもしれない。
いわゆる俗世から隔絶された境遇に身を置き、
課せられた労働を淡々とこなす。
その労働にいくばくかの、いや、かなりの誇りを持ち、
クルマで往年のロックのカセットテープを聞く。
仕事を終わらせ夕方には銭湯に行き、
レトロな居酒屋でチューハイとおつまみ少々。
古本屋で百円均一の文庫本を買い、
眠くなるまで自分のアパートで読みふける。
たまに意中のママがいるバーで少し談笑して飲む。

これ以上超えたらストイックじゃない、
という基準線があるとしたら、
この男の生き方は基準線を越えるか越えないか
ギリギリのところのストイックさというか。
ほんの少しだけ生臭さがあるから、色気がある。
役所広司が演じてるんだから、
それはそれはカッコいい初老の男に見えるんだろうけども。

劇中、役所広司が見る夢の描写が素晴らしい。
なんとかストイックに生きているのに、
どこか悪夢めいているし、これまでの生の後悔や、
それほど遠くない死の予感もある。

東京の街ってこんなに奇麗だったっけ、
と思うぐらいの美しさ。近未来なデザインのトイレを始め、
スカイツリーと隅田川沿岸の風景と昭和な銭湯。
地下鉄浅草駅の風情ある地下商店街などが
定点観測的に映し出される。
同じショットの繰り返しと積み重ねが独特なリズムを生む。

自分がもし外国人だったら、
「日本っていい国だなあ」と勘違いしてしまいそう。
そうか、ヴェンダースはドイツ人だ。
小津が大好きなシネフィルだ。

かつてヴェンダース監督は「パリ、テキサス」で、
あんなに美しい妻のナスターシャ・キンスキーと
可愛い息子を捨て、放浪を選ぶ男を主人公にしていた。
そんなん無理ですよ。あのですね、妻がナタキンですよ。
放浪なんか絶対しません。できません。

同じく、役所広司みたいな生き方はできない。
俗世から逃れることができるほど、メンタルは強くないし、
手短な安心と曖昧な繋がりを求めて、
薄ら笑いをしながら生きている自分を
あらためて見つめ直さざるを得ない映画だったのです。

コメント
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