Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

あらかじめ失われた影

2023年05月28日 | 読んでいろいろ思うところが
村上春樹「街とその不確かな壁」(新潮社)を読む。
個人的にいちばん好きなハルキ先生の長篇は、
「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」で、
よく似ているなあと思いつつ読み進めていく。


本作に出てくる「街」は高い壁に囲まれ、
一本の美しい川と3つの石造りの橋、
図書館と望楼、鋳物工場。
そして質素な集合住宅に住む人間と
短い角を持つ獣がいる街。
主人公の「私」は、「君」のいる図書館で
古い夢を読む仕事をしている。そんな世界観。

「私」は「君」に会うために、
自分の影を捨て、壁の中にある街に住む。
分身である影の存在。もう一人の自分が出てくるのは、
ハルキ先生の長篇によく見られるものだ。

かたや現実世界に再生した「私」が登場し、
不確かな壁に囲まれた街にいた
かつての自分をなぞらえるように、
福島の山奥にある小さな街の図書館に勤め、
失われた過去を取り戻す物語になっていく。

読み進めていくと、私とは何、
自分とはどんな存在なのだろう、と自問自答したくなる。
いまここにいる自分が
はたして本当の自分なんだろうか。と。

それは決して不快ではなく、
過ぎ去った自分の過去を振り返る
きっかけになったりするというか。
ハルキ先生って、長篇第一作の「風の歌を聴け」から、
同じ歌をうたっているようなそんな気がするわけで。
コメント
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