村上春樹「街とその不確かな壁」(新潮社)を読む。
個人的にいちばん好きなハルキ先生の長篇は、
「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」で、
よく似ているなあと思いつつ読み進めていく。
本作に出てくる「街」は高い壁に囲まれ、
一本の美しい川と3つの石造りの橋、
図書館と望楼、鋳物工場。
そして質素な集合住宅に住む人間と
短い角を持つ獣がいる街。
主人公の「私」は、「君」のいる図書館で
古い夢を読む仕事をしている。そんな世界観。
「私」は「君」に会うために、
自分の影を捨て、壁の中にある街に住む。
分身である影の存在。もう一人の自分が出てくるのは、
ハルキ先生の長篇によく見られるものだ。
かたや現実世界に再生した「私」が登場し、
不確かな壁に囲まれた街にいた
かつての自分をなぞらえるように、
福島の山奥にある小さな街の図書館に勤め、
失われた過去を取り戻す物語になっていく。
読み進めていくと、私とは何、
自分とはどんな存在なのだろう、と自問自答したくなる。
いまここにいる自分が
はたして本当の自分なんだろうか。と。
それは決して不快ではなく、
過ぎ去った自分の過去を振り返る
きっかけになったりするというか。
ハルキ先生って、長篇第一作の「風の歌を聴け」から、
同じ歌をうたっているようなそんな気がするわけで。