ペドロ・アルドモバル監督「パラレル・マザーズ」を見る。
産院で子供を取り違えた母親たちの物語、
と聞くと、是枝監督の「そして父になる」が浮かぶ。
今作もまさにすれ違いから生じる
人間ドラマが展開されると思いきや、
この映画の作り手たちの意図は
もっと別のところにあったことに
気づいたときには、すっかり映画に埋没していたわけで。
映画のテーマとは別に、
ペネロペ姐さん演じるジャニスも
ミレナ・スミット演じるアナも
共にシングルマザーになることを選んでいる。
それがものすごく自然で、何の問題もないまま
物語が流れていくところに驚く。
これが日本映画だとしたら、シングルマザーであることの
葛藤や困難さを描いたりするかもしれないなと。
でも、そもそもアルドモバル監督は
性的志向や性自認にバイアスのない映画を撮る人なので、
そのあたりに戸惑っていると
ますます本作のテーマに到達できない気がする。
それにしても、語り口が洗練されている。
ビビッドな色彩と、シャープなカット割りで
巧みに時制をずらす演出に酔いしれていると、
ますます本作のテーマに到達できない気がする。
ペネロペ姐さんの男前な美しさと強さ。
ミレナ・スミットの若いがゆえの不安定さと可愛らしさ。
ふたりが取り違えた赤ん坊をめぐって
感情が揺れ動くドラマに夢中になっていると、
ますます本作のテーマに到達できない気がする。
とは言え、最後の最後。
こういう映画だったのかと驚くことになり、
そのあとすぐエンドタイトルとなり唖然とするわけで、
そういう意味で、最終的には誰でも本作のテーマに
到達できるから、まあこれはこれで。
まぎれもない傑作なのか。あるいはかなりの問題作か。
きっと両方なのだろう。