バフマン・ゴバディ監督『
亀も空を飛ぶ』を見る。
意味不明なタイトルだが、登場人物を「亀」になぞらえて、
なぜ亀が空を飛ぶのか。映画を最後まで見ると、
その意味を深く知ることになる。
そういう意味で同じ「亀」のつく映画、
三木聡監督の『
亀は意外と速く泳ぐ』も同じ意味で、
主演の上野樹里が「意外と速く泳ぐ」というか「泳がされる」
様子が楽しい映画だった。
で、『亀は空を飛ぶ』だが、題材はシリアスだ。
イラク戦争直前の、イラク国境付近に住むクルド人の子供たちが
戦争に翻弄される悲劇を描いている。
亀は空を飛ぶ(2004)
クルド人はサダム・フセイン政府の弾圧を受け、
何百人もの虐殺がおこなわれたと伝えられている。
だから、この映画に出てくるクルド人たちは、
サダムを憎み、アメリカが解放してくれることを望んでいる。
主役のサテライトという少年は、機知に長け、交渉能力もある、
子供たちのリーダーだ。自衛のために銃器を買い、
埋められた地雷を発掘し、大人に売りつける。
地雷がお金になるとは知らなかった。実際、地雷で手や足をなくした
子供たちが出演しているのだが、そのリアルさというか本物の迫力というか。
一瞬、これは劇映画なのかドキュメンタリーなのか、わからなくなってくる。
かなり演劇的な演出とかカット割りにも関わらず。
そんなサテライトは、難民として流れてきた兄妹と赤ん坊に目を留める。
兄は両手がなかった。そして憂いを帯び、無表情な妹。
そして目の不自由な赤ん坊。
サテライトは妹のアグリンを憎からず思うようになる。
そしてやたらに世話を焼くようになるのだが、
アグリンは、彼の好意を拒絶する。徹底的に。
映画の中盤以降に、アグリンの過去が描かれる。
それはもう、凄まじいとしか言えないような残酷さだ。
その残酷さを、僕はちゃんと受け止めることができなかった。
おそらく、僕が映画館で見たとき、
一緒に見ていた人たちの大半は日本人だから、
僕と同じように、まともには見られないだろう。
アグリンを演じる少女は女優なのだろうか。
資料がないのでわからないのだが、
その絶望した表情。しかし、はっとするような美しさというか、
荒涼とした岩の崖の上に立っていたり、
濁った水で満たされた沼にたたずむ姿とか
そのたたずまいは、目を見張るほどの存在感だ。
そしてそれはこの映画のテーマにも合致し、
とてつもない悲劇ではあるが、
風景と人物の美しさが際立つ映画だと思う。
劇中、破壊されたフセインの銅像の一部が出てくるのだが、
死刑執行された今、見直すと、また新たな思いが湧いてくることだろう。