スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

愛と憎しみ&目撃者

2021-01-21 19:15:59 | 歌・小説
 ラスコーリニコフとスヴィドリガイロフの最も大きな相違は,罪の告白の有無です。ラスコーリニコフはソーニャに自身の罪を告白したのに対して,スヴィドリガイロフはドゥーニャに対して罪を何も告白しませんでした。もちろん,スヴィドリガイロフは何も罪を犯していなかったという解釈も可能ですが,それではスヴィドリガイロフがもうひとりのラスコーリニコフであるという,『罪と罰』という作品の意義が薄れるので,僕は妻の毒殺という罪を犯している筈だと解しているのはすでに説明した通りです。
                                        
 このことが,ドゥーニャがスヴィドリガイロフのソーニャとはなり得なかった理由であるということはできるでしょう。ですが『『罪と罰』を読まない』では,もうひとつ別の理由が示唆されています。
 これもすでに説明したことですが,スヴィドリガイロフはドゥーニャのことを明らかに愛していましたし,そのことを自覚もしていました。このことは,ドゥーニャがピストルの銃口をスヴィドリガイロフに向けた後の,スヴィドリガイロフとドゥーニャの会話から明らかです。そしてこの会話の内容からは,どうもスヴィドリガイロフはドゥーニャもまた自分のことを愛していると誤解していたふしが窺えるのです。
 これは間違いなく誤解なのであって,ドゥーニャはスヴィドリガイロフのことを愛していたどころか,むしろ憎んでいたと解するのが適切でしょう。そしてスヴィドリガイロフは,ドゥーニャに銃口を向けられた後に,初めてそのことに気が付いたのだと思われます。
 ソーニャはラスコーリニコフのことを愛していました。そのゆえに,ラスコーリニコフはソーニャに対して自身の罪を告白することができたということは不可能ではありませんし,むしろ作品の内容からすれば,そのように解釈するのが適切であるとさえいえるでしょう。ところがドゥーニャはスヴィドリガイロフのことを憎んでいたために,スヴィドリガイロフが罪を告白する対象ではあり得なかったということになります。つまりこの場合は,ドゥーニャのスヴィドリガイロフに対する愛が欠如していたために,ドゥーニャはスヴィドリガイロフのソーニャになれなかったことになるのです。

 河合のコラムと関連する論考はここまでにします。
 『スピノザ―ナ10号』は,河合のコラムの後に柴田寿子の訃報が掲載され,略歴および業績が紹介されていますが,最初にいっておいた通り,この部分に関してはこのブログでは考察しません。理由についてはこの冊子の紹介の部分を参照してください。
 その後が,松田克進による「<自己原因>論争の「目撃者」としてのスピノザ」という論文です。今日からはこの論文に関する考察を開始します。といっても,考察するのは一点だけです。その一点が何かということと,なぜそれを考察していくのかということを前もって説明しておきます。
 この「<自己原因>論争の「目撃者」としての」スピノザという論文は,これも冊子の紹介のところでいったように,松田のふたつの著書,すなわち『近世哲学史点描』と『スピノザの形而上学』で読むことができます。そしてこの論文は,このブログの中で何度か紹介しています。というのはこの論文は,このブログでいうところの「デカルトの欺瞞」と大いに関係しているからです。デカルトRené Descartesが,あらゆるものについてその起成原因causa efficiensを問うことができるということを認めつつ,神Deusが自己原因causa suiであるということを認めなかったこと,他面からいえば自己原因を起成原因であるということを認めなかったことについては,スピノザとの相違から説明する必要が生じたことが何度かありますので,そのたびに僕は,デカルトの欺瞞的な態度と,それに対するスピノザの修正に言及してきました。すなわちスピノザは自己原因が起成原因のひとつを構成することを肯定し,神が自己原因であるということも肯定したのです。
 しかし今回の考察では,このことはその対象から外します。というのも,このことはすでに何度も取り上げているのですから,改めて考察するまでもないと思うからです。ここで考察してみたいのは,この論文のいい方に倣うのであれば,スピノザが目撃していた自己原因論争というのが,どのような論争であったのかということを詳しくみることです。スピノザはあくまでも目撃者だったのですから,スピノザが参加していない論争を対象にするということです。

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