スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

蜘蛛の比喩&絶対に無限と自己の類において無限

2014-04-05 19:08:07 | 哲学
 『アンチクリスト』は,題名から想像されるような,キリスト教だけを射程に入れた思索ではありません。中で断章一七には,スピノザへの言及もあります。
                         
 この部分でニーチェは,人びとは神の周囲に蜘蛛の網を張り巡らせてきたといっています。これは神の概念を,哲学的な意味で変質させてきたことを示しています。そして次にニーチェは,神は自らが蜘蛛となって,形而上学者になったといっています。その意味はこの直後に示されていて,蜘蛛が自らの体内から糸を出して巣を作るように,神は自分の体内から世界を紡ぎ出すようになったということです。そしてそれはスピノザの相の下にであるとニーチェは書いています。
 スピノザの相の下にという一節が,第二部定理四四系二の,永遠の相の下にというスピノザの文章を意識しているということはいうまでもありません。ただ,その直前で,神からすべてが始まるとされるスピノザの哲学の比喩のために,蜘蛛を用いた理由のうちに,スピノザが蜘蛛を好んだという情報がニーチェにあったからなのかどうかは分かりません。知っていてわざとこの喩えを用いたのかもしれませんし,それは知らずに,スピノザは蜘蛛で,スピノザの哲学は蜘蛛の巣のようなものだと感じていたのかもしれません。
                         
 『破門の哲学』で,清水禮子は,スピノザの哲学を,上述したような蜘蛛と蜘蛛の巣の関係に喩えていますから,ニーチェがスピノザは蜘蛛を飼っていたということを知らなかったとしても,清水と同じように喩えて不思議ではありません。清水が示しているように,蜘蛛は群れることがなく,蜘蛛の巣はあたかも公理系のような美しさを有し,なおかつそれはそれ自身の体内から紡がれるという意味において,文化的なものであるというより自然的なものです。こうした理由から,スピノザを蜘蛛に擬えるのは,秀逸な比喩であると僕は感じています。
 一般的には好まれる虫ではありませんから,ニーチェの比喩にはそうした意図があったとも考えられます。ただもしもそうした意図があったのだとしたら,それはむしろ見当外れであるように僕には思えますし,蜘蛛に模されることを,スピノザは喜んだのではないかと思えるのです。

 第一部定理二一と二二は,無限様態に関して,ふたつの事柄を証明しています。ひとつは無限様態は必然の第一のタイプにおいて必然的であるということです。同じことは第一部定理七により実体に,第一部定理一九により属性にも適用されます。もうひとつの証明内容が無限様態は無限であるということです。『エチカ』には属性が無限であるということをそれ自体で示した定理はありません。実体に関しては第一部定理八により同様に適用されています。そして第一部定理一〇の訴訟過程を参考にする限り,定理としては明示されていなくとも,属性にも適用されているのだと理解するべきでしょう。これを前提に,無限を考えます。
 まず,スピノザが無限というときには,絶対に無限と自己の類において無限という場合があるということを踏まえておく必要があります。第一部定義二が示しているのは,自己の類のほかのものに限定されるものは有限であるということです。したがってこれを裏返せば,自己の類のほかのものに限定されないならば,そうしたものは無限であるということになります。つまり自己の類以外の何ものかによって限定されたとしても,それは有限ではなく無限なのです。このとき,ほかの類のものによって限定ないしは否定される場合,それは自己の類において無限といわれ,ほかの類のものによっても限定されたり否定されたりしないならば,それは絶対に無限といわれます。
 このことから分かるのは,たとえばAという類において無限であるものと,Bという類において無限であるものが,相互に限定し合うとしても,数的に区別し得る二種類の無限があるという意味にはならないということです。なぜなら,AとBは実在的には区別されますが,数的には,あるいは様態的には区別できないからです。よって自己の類において無限なものが絶対に無限なものによって限定ないしは否定される場合にも,数的区別が可能な複数の無限があるのではありません。むしろ唯一の自己の類において無限なものが無限に多くあるのであり,その無限に多くの集積,数的な意味ではない集積が,絶対に無限なものであるということです。つまりここでは無限が意味するところのものは一義的であって,数的に区別できる複数の無限をスピノザは示していないと結論しなければなりません。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ルーレット&基本的構図 | トップ | 新日本のブロディ&内在の意味 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

哲学」カテゴリの最新記事