スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

精神の一般性&第二部定理二九備考

2017-12-15 19:40:02 | 哲学
 人間は精神と身体合一unioした存在であるというスピノザの考え方が齎す異質なものは,人間の能動と受動は一義的なものであるということだけではありません。おそらく最も異質に感じられるのは,これから示す精神mensの一般性ないしは普遍性とでもいうべきことだと思います。
                                 
 復習になりますが,スピノザの合一は平行論なしには考えることができません。平行論を一般的に示したのが第二部定理七で,それを人間という具体的な存在に適用したのが第二部定理一三でした。ところで,第二部定理七証明の意味から,一般的に観念ideaとその観念の対象ideatumは同一個体であることになります。したがって人間の場合でいえば,人間の形相的有esse formaleと客観的有esse objectivumすなわちその形相的有の観念が合一しているということになります。そしてこのとき,人間の形相的有は人間の身体corpusといわれ,人間の客観的有は人間の精神mensといわれているのです。すると,観念対象と観念は一般的に,つまり人間の場合に限って同一個体であるというわけではないのですから,任意にAという形相的有を抽出すれば,AとAの観念とは同一個体であるということになります。よってその同一個体が合一しているとみられる限りにおいては,AはAの身体といわれ,Aの観念はAの精神といわれなければなりません。ここではAを任意に抽出しました。いい換えればAは何であってもこのことが成立します。かくしてあらゆるものとその観念は同一個体であり,よってそれらが合一しているとみられる場合には,あらゆるものが精神を有するといわれなければならないことになります。これが僕のいう精神の一般性で,スピノザが第二部定理一三備考で主張している事柄です。
 ここから分かるように,精神はある機能的な側面から精神といわれるのではなく,むしろ構造的な面から精神といわれるのです。そして精神の機能性の差異は,精神の対象すなわち身体の機能性の差異と同一の関係にあるのです。

 第四部定理四は,現実的に存在する人間が受動passioを免れることは不可能であることを示そうとしています。そしてそのためにスピノザが,人間が自然の一部分ではないということは不可能であるといっているのには,ある理由があります。スピノザは現実的に存在する人間の能動actioの秩序ordoについてはそれを知性intellectusの秩序というのに対し,現実的に存在する人間の受動の秩序については自然の秩序ordo naturaeと表現するからです。すなわち自然の一部分でないということは不可能であるとは,人間が自然の秩序に従わないことは不可能であるという意味であり,それはそのまま現実的に存在する人間が受動を免れることは不可能であるという意味に転ずるのです。スピノザは第二部定理二九備考で,自然に共通の秩序communi naturae ordineといういい方をしていますが,これがここでいっている自然の秩序のことです。そしてこの備考Scholiumの中には知性の秩序という表現こそ登場しませんが,それがどのような秩序であるかということも示されています。
 「これに反して内部から決定されて,すなわち多くの物を同時に観想することによって,物の一致点・相違点・反対点を認識する場合にはそうでない。なぜなら精神がこのあるいはかの仕方で内部から決定される場合には,精神は常に物を明瞭判然と観想するからである」。
 内部から決定されるというのは,精神mensが十全な原因causa adaequataとなっているという意味です。そしてこの文章から理解できるように,ここでは主に共通概念notiones communesについて言及されています。共通概念による認識cognitioは理性ratioの認識であり,その場合は混乱して認識されず,明瞭判然と,ここではこれは十全にというのと同じ意味ですから,十全に認識されるのです。つまり認識のあり方だけで限定していえば,自然の秩序に従った認識は混乱した認識であり,知性の秩序に従った認識は十全な認識であることになります。このとき,第三部定理一により,僕たちは混乱した観念idea inadaequataを有する限りにおいては必然的にnecessario働きを受けるpati,ないしは働きを受けているのですから,自然の秩序に従わないことが不可能だということが,働きを受けないということは不可能だというのと同じ意味であることが,ここからも理解できるでしょう。
コメント
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