浅草文庫亭

"大哉心乎"
-大いなる哉、心や

完全ネタバレ「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」

2014-09-30 13:22:56 | DVD、映画
「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」観てきたよ~。

映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』予告編



ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー

銀河で!

愉快な奴らが!

悪い奴をぶっ倒す!


以上!

という映画です。ほんとに以上。

マーベル・シネマティック・ユニバース、フェイズ2の一作、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー。

ほんとに「銀河で、愉快な奴らが、悪い奴をぶっ倒す!」だけのとても楽しい映画です。

「そうそう、映画の楽しさってこういうことだよなぁ~」と実感出来るのでちょっとでも気になるなら今すぐ映画館で観たほうがイイですよ。こういう映画こそ映画館で観なきゃ。僕は字幕版と吹替・3D版の2回観ましたよ。(僕は正直、字幕のほうが良かった。3Dもあんまりなー。IMAXなら違うんだろうけど。吹替についてはたっぷり言いたいことがあるのでまた別途)

さて、ここから下はネタバレ。「ここからはストーリーのネタバレ!」ってところの前までは予備知識なんで読んでもいいと思うけど、ストーリーのネタバレは絶対、映画を観る前に読まない方がいいです。何度か言ってますが、「何の知識も持たずに映画を観る」という事は何より貴重な経験だと思う。もし映画観て「あれ?これどういうこと?」と思ったのならもう一度観ればいいし、誰かに訊けばいい。でも「あ、これ知らないほうが楽しめたな」と思ってももうその前の状態には戻れないんだよ。

だから、気になるならほんとにこれからの文なんて読まなくていい、すぐに映画館で観て下さい。


















<ここからしばらくは予備知識>

さて、まずはマーベル・シネマティック・ユニバースにおけるこの映画の位置づけから話しましょうかね。アメリカンコミックの二大巨頭はマーベル(スパイダーマン、X-MEN、など)とDCコミック(スーパーマン、バットマン)のマーベルは最近、マーベルスタジオという映画製作会社を立ち上げバリバリ稼いでいる。特に稼いでいるのがアイアンマン、キャプテン・アメリカ、マイティ・ソーなどの映画を作り、それが大集合するアベンジャーズシリーズ。
2012年のアベンジャーズは実はフェイズ1の位置づけで、これからフェイズ2、3と繋がることになっている。

地球の平和はアベンジャーズが守るけど、じゃあ宇宙の平和は誰が守る?それが今作、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー(銀河の守護者)!

次に監督、ジェームス・ガンについて。コロンビア大学でフィクション・ライティング(つまりは小説とか脚本の書き方)を学んだ彼はトロマ・エンターテイメントで下積み修行をする。トロマ・エンターテイメントの有名な映画シリーズは「悪魔の毒々モンスター」、つまりZ級映画、誰が観るんだ映画で有名な会社です。

そこで学んだ彼は超有名ゾンビ映画「ドーン・オブ・ザ・デッド」のリメイク版の脚本を担当。


ドーン・オブ・ザ・デッド

この「ドーン・オブ・ザ・デッド」のオリジナル版はゾンビというモンスターが初めて登場した記念碑的作品。僕はゾンビ映画についてはそんなに知識が無いんだけどリメイク版は素晴らしい映画でしたよ。

この脚本で注目を浴びた彼は「スクービー・ドゥ」という映画の脚本家として華々しくハリウッドメジャー作デビュー。Z級映画からゾンビ映画、そしてハリウッドメジャーという素晴らしいキャリアを積んだんだけど、スクービー・ドゥは大失敗。これで彼のキャリアは終わったかに見えた。
しかし彼はネットコント番組を着実に作り「スリザー」(ごめんなさい、これは観てないのでわからない)、「スーパー!」という小さいけれど良作で復活。「スーパー!」は観たけど非常にバカらしくて、でも悲しく切ない、それでも愛おしい良作でしたよ。


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そこでマーベルから本作の監督に抜擢される。あのね、カネの話で恐縮だけど、「スーパー!」の製作費は3億円足らず、しかし本作は200億円近く。この監督に200億円のプロジェクトを任せたマーベルのこの心意気!これだけで観る価値ありますよ!
とにかくリメイク版「ドーン・オブ・ザ・デッド」と「スーパー!」はほんとに良い映画ですから是非観て頂きたい。特に「ドーン・オブ、、」はゾンビとかそういう話じゃないんです、極限状態で人はどうなるか?そして、人としてどうするべきか、という話なんです。
低予算でもいい映画を作るジェームス・ガンにたっぷりお金使わせたんだもの、面白くないはずが無い。



<ここから先はストーリーのネタバレ!>

さて、本作「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」について。ここからほんとにストーリーの完全ネタバレになりますから、少しでも気になるならほんとに観に行ってから読んで下さいね。

主人公は、少年時代に母を失った地球人、ピーター・クイル。母の遺物はソニーの初代ウォークマンと母が編集したミックステープ。原語では「AWESOME Mix Vol.1」、字幕では「最高ミックス」。母の死の直後、宇宙人に拉致されて宇宙のトレジャーハンターとなった彼は宇宙でも常にこの最高ミックスをウォークマンで聞いている。

まずさ、ここがイイじゃない!切ないじゃない!ソニーの初代ウォークマンとカセットテープってのがさー。

そしてさー、この最高ミックスに入ってる曲がいいのよ!もうね、音楽だけで5億点ですよ!速攻サントラゲットしました。

ピーターが登場してタイトルと共にかかってる曲が「Come and get your love」、もうね、このオープニングの楽しい感じ、最高でした。もうこれだけで5億点。

ピーターがひょんなことから暗殺者ガモーラ、暴れん坊アライグマのロケット、木人グルート、筋肉バカのドラックスとチームになるんだけど、これね、僕は「家族」の話だと思った。

天涯孤独のピーター。まず彼は自分の命をかけてガモーラを助ける。ここで彼と彼女はある意味「死んで、生まれ変わる」。これによって二人は強い絆で結ばれるんだけど、これはセックスの暗喩と言うのは考えすぎでしょうか?ま、考えすぎでもいいんだけど、僕はそう思ってます。

彼らを「家族」と捉えるとドラックスは頭の硬い長男、ロケットはワガママな末っ子。じゃあグルートは?寿命の長いおじいちゃん。末っ子がおじいちゃんといつも一緒にいるのも納得。(あくまで僕の個人の感想です)

彼らがチームとなって歩いていくシーン、かっこよかったね~。流れるのはランナウェイズのチェリーボム!もうね、この歌をこんなにかっこよく使ってくれただけで歴史に残りますよ!!(ちなみにこのバンド名、Runaways、つまり逃亡者達、転じて大逆転を狙う人達ってのがまた意味深だよね)

とにかくこの映画は音楽の使い方、選曲がイイ!とにかくイイ!とにかくラストの「Ain't no mountains high enough」の話をしたいけど、その前に「家族」の話を終わらせます。

家族を得たピーターは最後、死にそうなことになるけど、それを乗り越えたのはガモーラの「手を繋いで」という言葉。もうね、涙ボロボロですよ!もう、シナリオとして巧いじゃな~い!!

死にゆく母の伸ばした手を繋げなくて、つまり母の死を受け入れられなくて、それをずっと悔やんでいたピーターに差し伸べられた手。やっと彼は手を繋げたんだね、良かったね、ピーター!泣けたな~。

昔、ドッピオさんと話したことがあるんだけど、アメリカ(というかキリスト教文化)の「物語」のキモは「父を殺すこと」なんです。殺すというのが大袈裟なら父を乗り越える話。一方で日本的物語、日本人が必ず泣くのは「母を捨てる」話だと思う。楢山節考の「おっかぁ!」なんて絶対泣くでしょ?
つまりここでピーターはやっと母を捨てれたんだと思う。やっと母の死を乗り越えた。だから、ずっと開けられ無かった母からのプレゼント、母から「私が死んだら開けてね」と言われてたプレゼントを開けられた。そのプレゼントが母が編集したカセットテープ「AWESOME Mix Vol.2」、、、もうね、ドーンと腰が抜けましたよ、いや、映画館なんで最初から座ってんだけどさ。

つまり、今まで天涯孤独だった主人公が母の死を受け入れて、新たな家族と共に、これから彼の人生はVol.2になる、、巧い!素晴らしい!!

もうこれだけでイイじゃないですか~。

そして!ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーとなって、名実共に銀河のヒーローになって飛び立つ時にかかる曲が!

「Ain't no mountains high enough」!!!

もうYouTube貼っておきます。
MARVIN GAYE & TAMMI TERRELL "Ain't no Mountain High Enough"

歌詞も訳しとこう。

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If you need me, call me
No matter where you are
No matter how far,

don't worry baby

Just call my name
I'll be there in a hurry
You don't have to worry

もし僕が必要なら、いつでも呼んでくれ
君がどこにいても、どんなに離れていても
名前さえ呼んでくれれば、急いで駆けつけるさ
何も心配いらないよ

'Cause baby,
There ain't no mountain high enough
ain't no valley low enough
ain't no river wide enough

だってベイビー
僕に越えられない山は無いし
越えられない谷も無い
どんな広い河だって、越えて行くさ

Remember the day
I set you free
I told you you could always count on me darling
From that day on, I made a vow
I'll be there when you want me
Someway, somehow

君を自由にしてあげた日を覚えてるだろ?
あの日、言ったじゃないか
いつでも僕に頼っていいって
あの日、僕は誓ったんだ
君が必要としてくれるならいつでも駆けつけるって
どんな手を使ってでもね

(拙訳、かなり意訳)
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もちろんこれはラブソングなんだけど、このチームが脱獄した(つまり、I set you free、君を自由にした)ってところでピッタリだよね。

(ちなみにこのオリジナルを歌ってるのがマービン・ゲイとタミー・テレルという黒人歌手であることから"I set you free"ってどうしても黒人解放運動を僕はイメージしてしまって更に泣ける)

このラブソングがヒーロー物のラストでかかるとイイじゃな~い!

「必要ならいつでも呼んでくれ、すぐに駆けつけるから」ってヒーローの決まり文句でほんとグッと来るよね。特攻野郎Aチームも「助けが必要な時は、いつでも呼んでくれ」って言ってたし。

そして、最後。おじいちゃん(僕の解釈ではね)であるグルートは家族を守るために身を挺して死んだ。グルートは新生児として生まれ変わる。そこでかかるのがジャクソン5の「I want you back」!!!いや~、イイね!「I want you back」つまり、「戻ってきて欲しい」、これは一旦は死んでしまったグルートに対しても、映画が終わって旅立ったガーディアンズに対しても(続編で)観客が思っている気持ちだよね。そして何より戻ってきて欲しいのはこの曲を歌っているマイケル・ジャクソンなんだよなー。

ざっとストーリーをさらいましたがこの映画の「構造」について。

ラストにピーターは実は宇宙人と地球人のハーフだと言うことが分かる。ヨンドゥによると父親はいろいろいわくのある人らしい。

こういうのはね、文化人類学的に言うと「貴種流離譚」という物語の典型です。貴種流離譚というのは「高貴な家に産まれたものが何らかの理由で捨てられ、旅をし、その過程で自らの使命を知る」(ざっくり言ってます)という話です。ギリシャ神話のヘラクレス、オイディプス。桃太郎、アンパンマン、ウルトラマンレオだってその類型という説もある。スターウォーズのルークだってそう言う話でしょ。桃太郎は鬼の一族として産まれ捨てられ、鬼(=父)を殺す話だ、という俗説もある。そう、この貴種流離譚のポイントは「父を殺す」というところです。はい、スターウォーズ!

放浪した主人公は王である父、つまり「権威の象徴」を殺し、倒し、自らが王となる、こういう昔話、神話は民族問わず色んな地域にあるらしいですよ。これを研究したのがジョゼフ・キャンベルという学者。その講義を聴いて「じゃそういう話を映画にしたら当たるんだな、じゃあ宇宙でやってみるか」と思ったのがジョージ・ルーカス。←実話

「高貴な生まれの者が自分ではそれを知らず旅立ち、母を捨て、仲間を作り、父を殺し、王になる」というのは古今東西、いろんな民話・神話に見られることなんです。

本作でも父の存在が暗示されたことで続編では「父を殺す(乗り越える)」話になるのかもね~。つまり、これは英雄が英雄になる話なのかも知れない。

このように単なるお気楽宇宙SF映画に見えて、実は物語の骨格がしっかりしているから、こんなに面白い映画にきちんとなっているんだと思う。


とはいえ本作、映画としていろいろ「うーん、こりゃちょっとどうなの?」と思うところが無いわけじゃない。

僕はね、全体的に、メインキャラ以外の命が軽すぎるのが気になった。最後の戦いの時に軍人は何万人もあの網作ったじゃん?結局最後は破られて死んでしまうけど。でもさ、こんだけ死んでるのに最後に敵を倒して「いやー、良かった良かった」ってのはね~、さすがにかわいそうですよ。あの刑務所だってさ、主人公達が脱獄した結果、囚人も看守も皆殺しでしょ?そりゃ皆殺ししたのはあの悪役なわけだけど、それでもその責任は主人公たちに無いとも言えないじゃないですか。

それから、細かいこと言えば主人公がタイトルシーンでよくわかんない小さな生物を蹴っ飛ばしてる時点で「うわ、ヒドイ!」と思った。マイクにしてるのはキュートだったけどね。

でもま、そんなこと忘れるくらい楽しい映画でした。

とにかくエンターテイメントの歴史にはここ10年のマーベルの作品は確実に残ると思うから、いまのうちにこの一連のアメコミヒーロー物は観ておくべきだと思いますよ。