浅草文庫亭

"大哉心乎"
-大いなる哉、心や

東京ポッド許可局という新しいビジネスモデル

2014-08-28 11:28:55 | 注目サイト
先日、東京ポッド許可局のイベントに行ってきた。

それ見て改めて「いま、自分はすごいものを見ているな」と感じたので書いておきます。

東京ポッド許可局については以前にも書いた。→「僕は東京ポッド許可局を応援しています」

そもそも「東京ポッド許可局」というのは何か、というと元々は(開始当初は)売れない芸人3人が始めたPodcast番組です。

Podcastというのは音声データをネット配信するもので、今の時代においては録音する機械もそんなに高くないし編集だってパソコンで出来てしまうので、誰だって世界中に向けて音声を公開することが出来る。もちろんどれだけの人が聞いてくれるかどうかはまったく別の話だけど。

この東京ポッド許可局は2008年に配信がスタートされ、僕が聞きだしたのは2010年くらいから。

おっさん3人が喫茶店や居酒屋でアイスについてとかお笑いについてとか落語についてとか好きなおかずについてとかを喋っているだけなんだけど、これがもう抜群に面白い。

この番組を聞き出して以降、大袈裟に言ってしまえば僕のモノの見方(大仰に言ってしまえばパラダイム)は大きく変わったと思う。何かを見たときに「いや、これは東京ポッドの3人ならどう語るんだろうか?」と思ってしまう。

ただ単にこの番組が面白い、というだけでなく、その歴史、いわば「成長の様子」を見ていると、新たなエンターテイメントのビジネスモデルを確立したんじゃないかとすら思っている。

元々は芸人3人がICレコーダーを机の上において、台本も無くただただ会話をしていた。ほとんど編集もしてない音声をPCに取り込んでネットで配信するだけだから、おそらく予算はほとんどかかっていなかったんじゃないかと思う。人件費は別として、もちろんゼロとは言わないけど数千万円の単位じゃないだろう。

聴く方もネットから無料でダウンロード出来る。

音声データ、というのが秀逸で、作る方は非常に低コストで出来る上に聴く方も気軽に聞ける。僕は料理しながらとか移動しながら聞いている。これがもし動画データだったらなかなか歩きながらは視聴できない。データも重くなるからいろいろ大変だろう。

とにかくこんなに送り手も受け手も低コストなのにこれが抜群に面白い。

この番組は本にもなっている。


どれくらい売れているか分からないけど、これだけでも新しいビジネスモデルだろうと思う。つまり、世間的に名前が知られていない人でもただただ面白いことさえ持っていればそれは発信できるし、最終的には本になるということ。

更に2011年にはこの3人が日比谷公会堂に2,000人集めてイベントを行った。これもまたすごいイベントで。イベントらしく歌が一曲歌われ、ゲスト(ライムスターの宇多丸)もあったんだけど、メインのコンテンツはいつも通り彼ら3人がステージ上で話す、というだけ。

会場費、その他いろいろな経費はかかっているんだけろうけどそれでもこれだけの規模のイベントにしてはごく小さな予算で開催されたんじゃないかと思う。イベントにあたって大掛かりなCMや広告宣伝がされたわけでも無い。それでも2,000人が集まりもちろん内容としては予算に関係なく充分面白かった。

その後、この東京ポッド許可局は2013年4月からTBSラジオでレギュラー番組となっている。

このレギュラー化もすごい仕組みで、基本的にスポンサーがついていない。これはつまりどういうことかというとスポンサーからの広告料で成り立っている番組ではないということ。スポンサーの顔色を見なくてもいいからなのか、TBSの番組なのにずっとNHKのあまちゃんの話をしていたりする。

スポンサーなしで言いたいこと言います、というのは姿勢としてはかっこいいけど、それではお金が入らないわけで。では製作費はどこから来ているのか。

それはイベント。都度都度、イベントが行われており、入場料、物販の売り上げ、などなどが制作費に回されることになる。

僕は出来る限り行くようにイベントに行くようにしている。このイベントのそれはもちろんイベントが楽しい、面白い、ということもあるけど何より「この人達は今、どうなっているんだろう?そしてこれからどうなるんだろう?」という「ドキュメント」を目の当たりにしたいから。

今回は2011年以来3年ぶりに「お約束の地」日比谷公会堂でイベントが行われた。

当日はサプライズもあり大変なものだった。2,000席が満員になり、Tシャツや手ぬぐいと言ったグッズも完売。

最後に梅ケ谷翔選手という大学1年生の剣道選手がサプライズゲストで登場し、2,000人のお客さんが大盛り上がりだった。

って、まったくなんのことかわからないでしょう? ほとんどの人が剣道をやったこともないのに2,000人が学生剣道選手に大盛り上がりする、このある意味、異常な光景。このムーブメントを作っただけでもこの人達のすごさなんです。

「梅ケ谷、つまり梅ケ谷」(うめがや、つまりうめがたに、と読みます)という番組内での名言がプリントアウトされたTシャツ、「頑張らないと親に似る」という名言がプリントされた手ぬぐいが飛ぶように売れている。2,000円のパンフはもちろん完売。そしてこのイベントのために作られた特製丼(食べるほうじゃなくて盛る方ね)も5,500円という値段にも関わらず限定10個が完売。

すごいことが起きているんです。

僕はこのビジネスモデルに大きな可能性を感じている。

つまり、それほど名が知れていない人でも本当に面白いことを言っていれば、全世界に配信できるし、本は出るし、イベントで大勢が集まるし、最終的にはラジオ番組になる、ということ。(もちろんそんな簡単な話ではないんだろうけど、理屈として)

開始当初は(失礼だけど)ほぼ無名だった出演者3人も徐々に色々なところで見かけるようになってきている。俗っぽい言い方になってしまうけど「売れてきている」んだと思う。
特にマキタスポーツ氏は役者として名バイプレイヤーの位置を確実に築き、最近のドラマ、映画では本当によく見る。「夜行列車」「花子とアン」「ルーズベルトゲーム」、、などなど。

更にメンバー3人共、著書を出している。






僕はもちろん東京ポッド許可局が常に面白いから聴き続けているんだけど、それとは別に「この人たちがただ『面白さ』だけでどこまで行くのか?」というのを見守っている気持ちもある。

もしかしたら数年後、この東京ポッド許可局がもっと大きくなり、知名度が上がった時に、昔から聞いていた人は「俺は昔からこれ聞いていたんだよ」と自慢するだろう。すでに少しだけどそうなりつつある。こういう「育っていって大きくなる過程のものを目の当たりに出来る」というのはなかなかないことだと思う。

奇しくも東京ポッド許可局の中で「落語家は真打昇進直前が一番面白い」という言葉があった。僕はいま、東京ポッド許可局に真打ち直前感を感じている。

そして、とにかくこれは「新しいビジネスモデル」だと思っている。

つまり発表の場が無くても、与えられなくても、ICレコーダーとPCだけでラジオ番組のレギュラーにたどり着くことが出来るということ。それが決して趣味やボランティアでやっているんじゃなくて収益を上げながら出来るということ。いや、もちろんお金がじゃぶじゃぶ入ってくる状態では無いだろうけど理屈としては。「自分が思っていることは絶対に面白い」と思っている人は、この人たちの活動を見て勇気をもらえるんじゃないかと思う。

ICレコーダーとPCだけでいいんだから地域も関係ない。北海道にいようが沖縄にいようがそこで「俺の話は面白いんだ、面白がってくれる人がいるはずなんだ」と思えばすぐに喋り出せばいい。それが本当に面白ければ人々は聴き、「じゃ生で喋ります」となればそれを聴きに行く。そりゃそんな単純な話ではないんだろうけど、それでもすでに道は東京ポッド許可局が作ってある。

もし東京ポッド許可局がもっと有名になった時には「目指せ、東京ポッド許可局」を合言葉にICレコーダーの前でいろんな人たちが自分なりの話をしているんじゃないだろうか。もちろんそのすべてに陽が当たるとは思わないけど、そのうちいくつかは輝くかも知れない。

いろんな場所でいろんな人が自分なりの面白い話をしていて、それを聞ける、そうなったら世の中はもっと面白いんじゃないかなー、と思う。
コメント
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