さうぽんの拳闘見物日記

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拳闘見聞の日々。

勝つための前提が一発で失われた 阿部麗也、右目塞がりTKO負け

2024-03-04 00:08:39 | 海外ボクシング



ということで、なかなか辛く厳しい結果になった、阿部麗也の世界初挑戦、簡単に感想です。


IBFフェザー級王者ルイス・アルベルト・ロペスは、いつものように右アッパー振って左フック返し、という逆ワンツー=ツーワンのパターンで入ってくる。
或いは逆やったり。捨てパンチで、阿部麗也を決まった方向にダックさせる「誘導」攻撃も。
阿部、初回3分、立ち上がりは受けに回る。ただ、少しずつリズム刻んで動き出し、軽いが左も覗かせる。失点はしたが、これからどうかというところ。

ところが2回、一気に、文字通り暗転。ロペスが強引に振って、走りながら打ってくる。
阿部攻められて、気付くと右目が腫れている。左ショートカウンターしたとき、左フックもらったが、そんなにまともだったかな?それとも頭?と思ったが、後に出たスローを見ると、ロペスの左拳「角」のところが斬るように入っていました。あちゃー...。

序盤は攻められるだろうが、失点覚悟で外し優先、徐々にカウンター見せて止めつつ、相手の疲れを待って、中盤以降...というのが、傍目が考える(虫の良い?)勝利への道筋でした。
しかし、たった一発の左フック被弾により、いつ試合を止められるかわからない、という状況に追いやられてしまった。
阿部麗也が勝つための「前提」は、あっという間に失われました。


同じ階級とは思えない、分厚い身体で、パワフルなロングを振りかざすロペス。
阿部のパンチが一発入ったとて、余程のタイミングで、なおかつ体重をしっかり乗せて打ち込めば違うかもしれないが、普通ではとてもじゃないが止めたり効かせたりは出来そうにない。
なのに、序盤から相手の力を躱し、凌ぐという闘い方が選べない。阿部は苦闘のさなかに放り込まれる。

3回以降、毎回ドクターが「回診」しにくる状況下、阿部は3回、左を出して抵抗。
しかしロペス怯まず、その上余裕も出てきて、4回は回り込んで死角から右フック。
5回もツーワン端緒の攻撃が続く。左右上下ともに、断続的にヒット。6回、阿部は何度か左を打つ。

全体的に、足使って捌くことに徹するでもない、しかしロペスの馬力に圧されていて、打ち込むという体勢もなかなか取れない。
6回は少し良かったが、7回になると足が伸びて腰が浮き、厳しいのがはっきり見える。
8回、ロペスが攻めて、その途中でレフェリーストップ。クリーンヒットのないTKOでしたが、もう右目は見えていないという判断か。

いずれにせよ、早いストップ、ではなかった。むしろ、逆にここまでやらせてくれたのは、阿部に対して最大限の配慮だったという印象。
もし日本でやっていたらもっと続いていて、阿部がさらに無用のダメージを負ったかも、と想像するに、これで良かったと安堵もした次第、です。



とにかく勝負は厳しく、非情の世界なのだと改めて思った、そんな試合でした。
2回、たった一度打たれただけのことで、取り返しの付かない形で戦局が変わり、目指すべき勝利への道筋が閉ざされてしまう。
少なくとも、中盤まで凌いで終盤に持ち込み、なおかつこちらも切れるパンチを打てる状態でないと、あの頑健な肉体を、左ストレートで打ち「崩す」ことは難しかったでしょう。
そして、このような難しい前提をクリアしないと、阿部麗也の勝機が生まれない。この試合は、つまりはそういう組み合わせでした。
だとしても、その可能性に辿り着こうとする前に、それがかなうかどうか以前の時点で、その前提が丸ごと失われてしまったことは、やはり残念でした。


阿部麗也は国内では文句なしのフェザー級トップの座にあり、元王者キコ・マルチネスを下しての挑戦権獲得をも経ているコンテンダーです。
しかし、その彼も、これほど厳しい勝負の綾が、普通のこととして存在するタイトルマッチにおいて、「世界」の洗礼を浴びた。
それが、この試合の実際、なのでしょう。


ひとつ、大差があったとすればフィジカルの面ですかね。
阿部は初の海外試合で、考え得る限り良い調整が出来たとは思いますが、実際リングで動いている様を見ると、やはり軽く、細く見えました。
それは重厚なロペスのプレッシャーによるもの、或いは対比から生まれた印象だとしても、それだけだったのだろうか、という気もしました。




メインはWBAフェザー級の王座決定戦、オタベク・ホルマトフvsレイモンド・フォード戦でした。
まあ、えらい試合してはりましたね。攻防ともに技術レベルが高く、心身共に強靱な両者の打ち合い、外し合い、狙い合いに目を奪われました。
11回、フォードが少し緩んだかと思ったらまた違って、最終回はまさかの逆転劇。
ラスト7秒残しでTKOとは、ベタにチャベス、テイラー初戦の如く。ホンマかいな...という。

レイモンド・フォードはDAZNで何度も試合見ましたが、正直、もひとつ突き抜けたものがないかなあ、とぼんやり思っていました。
実際、今回はトップランクの興行に「出された」形なんでしょうかね、そういう立ち位置だったのでしょう。しかし...お見事でした。脱帽です。

ホルマトフについてはたぶん初見でしたが、えらく強いのがいるんやなあ、と感心。
別個に見比べたら、たぶんホルマトフの方が上に見えると思うんですが、実際に闘うとこうなることもあるわけですね。

しかしどちらも、持てる力を存分に発揮した、全てを尽くしたという試合だったことでしょう。
かなうことなら、勝ち負け以前に、阿部麗也が闘い終えたあとにも、こういう印象を持って、その闘いぶりを語れたら良かったのにな、と思った次第、です。



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6 コメント

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Unknown (R45ファン)
2024-03-04 07:11:36
改めてフェザー級の層の厚さを実感しますね。清水さんが何もできなかったラミレスもあの摩天楼エスピノザに負けたし。WBAの決定戦も単なる空き部屋を埋めるだけのものじゃない、ホルマトフも十分強かったです。

さて阿部さん、すごい腫れたのは気の毒でしたが、最初からロペスは自信満々に振り回しており、あれが無くても捕まったような気がします。2ラウンドの左フックも、阿部さんが意を決して打った左よりロペスの左フックがコンパクトで、むしろ狙われていたようにも見えました。あの場面、阿部さんの右ガードが下がっており、それも悔やまれますし、ロペスは阿部さんに怯む要素が見えず、残念ながら悪い方の予感が当たってしまいました。

さりとて、あのロペスはなかなか攻略厄介。無茶苦茶に見えて以外とコンパクトなフックや内を通すアッパーもあり、パンチ力もありタフ。阿部さんのカウンターも部分的に当たりましたが意に介さない。
昔イバンカルデロンをニタテしたジョバンニセグラをよりスケールアップしたような感じでしょうか。
堤くんが成長したら…あの大振りに合わせて、など出来ればと思います
コメントありがとうございます。 (さうぽん)
2024-03-04 08:21:40
>R45ファンさん

今回、二試合重ねて見たせいもあり、フェザー級凄いなと思いましたね。特にメインの方に、ですが。
ロペスと阿部の方は、フィジカルパワーがボクシングのサイエンスを圧し潰した、という言い方が出来そうですね。あの負傷抜きにしても。そもそもあの負傷も正当なヒットによるものなわけで、それも実力の差だった、と言うべきものですしね。
ただ、それにしてもアゴ上げて強振し、打たれても堪えない、故に相打ちになっても大丈夫、というのは...理不尽な強さではありますが、正直感心しませんね。仰る通り全然怯まない、あの余裕というか確信には驚かされますが、例えば頑健な選手が逆に被弾覚悟で打ち返していったら、案外すぐ揺らぐんではないかとも思います。阿部のようなタイプにとっては、苦手科目を通り越した難題ではありましたが。
ロペスに関しては、私はそんなに買わない方です。攻撃には理屈がありますが、凌がれたら案外...という気もします。4分の1王者としては充分なんでしょうけども。
Unknown (海の猫)
2024-03-05 08:07:35
見ていて辛い試合でした。勝てずとも阿部の良さが出ればと思っていたのですが。

試合前から、フィジカル差がどの程度か、というのが最も気になっていました。ロペスを全く止められないようだと厳しいと思っていましたが、警戒すらさせられませんでしたね。ボクシングはフィジカルが全てではありませんが、一定以上あるとどうにもならない。今回はそのレベルで差がありました。

あの右目がなけれぱ、とは言えませんが、それでももう少しましな図になっていたのではないかと。両者に差があったのは事実ですが、それが数割増しに見える展開でした。

ロペスはアウェイに出向いたりと、タイトル獲るまでBサイドでしたから、もともと評価はさほど高くないのでしょうね。ただ、パワーがあってパンチが読みにくいのは、それだけで怖い。おっしゃる様に一級品ではないですが、王者の中では最も怖いとも、狙い目ともどちらにもとれる。

フェザーの王者たちはバラエティに富んでいて面白くなってきましたが、フォードもロペスも階級アップを示唆しており残念です。特にフォードは井上を待つ気はないようで。ホルマトフは膝を痛めていたようですね。フォードが階級上げてしまったら、この先も再戦の機会はなく。これまた残念です。
Unknown (Neo)
2024-03-05 08:39:40
あの一発は,残念ながら狙い打たれた感じでしたね.阿部選手の地に足つけた感じは好感を持っていたのですが.
フィジカルもそうですが,ボクシングの作り自体,以前から限界があるとは思っていました.待って合わせる部分には天稟がありますし,足もよく動いて止まらないところもとてもいい.しかしながら上に行くには先に間合いに入る頻度が決定的に少ない.
「先に」入ってから下がるのであれば,例えば川島郭志などそうでしたが,もっと自在に戦えると思うんですね.いろいろあってしたくてもできないのかもですが,少なくとも今回は挑戦者でしたから,そこは残念でした.
Unknown (モノクマ)
2024-03-05 11:33:29
シャクールvs吉野の時は、圧倒的に上回る技術の差を見せつけられた形だったのでシャクールの上手さに目をひかれましたが、今回は様子見の途中に負傷してしまったことも含め始めから試合になっていなかったのが残念でした
そして、そんな状況下にある阿部に追い討ちをかけるようなセコンドのテンパリ具合、阿部が水を催促しても出てこず、解説者に指摘されている様は見ていて辛かったです

今は米国リングの試合も珍しくなくなった時代ですから、もうそろそろ勝手の違いを選手の不利益にさせてしまう準備不足に、言い訳はできないのではないかなと思います
自分達だけでできないなら大手や現地の力を借りるなどして対処して欲しいです
コメントありがとうございます。 (さうぽん)
2024-03-06 04:52:19
>海の猫さん

少なくとも序盤の内は止められないだろうという想像はしていました。本当ならそれこそスタートと同時に打ちかかって勝負、と出来たら良かったのでしょうが。フォアマンに対したアリのような。まあ、それこそ前提が全然違いますけど。
それも、敵地で若干の割引きあり、というコンディション、滑り足ですから仕方なかったかもしれません。日本でやっていれば、もう少し打ち込み体勢が取れる回数は増えたと思います。ただ、若干の目減りはあっても何とか凌げたら、と思うところ、あの負傷ですから、どうにもこうにもでしたね。
ロペスに関しては、基本買いませんが、表裏一体という点、同感です。
フォードに関してはトップランク契約選手だったら、フェザーで頑張って井上待ちもあったのでしょうかね。そんなにすぐ上げなならん、その状況で他社の試合に出て、でも凄く良い試合した末に、劇的に勝つ...なんか色々複雑でもありますね。今後もPBCで活動するなら、確かにフルトンみたいな好条件で引っ張られるのを待つにも限界あり、なのかもしれませんね。


>Neoさん

ロペスはどの局面でもあんな感じの狙い方をしてましたね。それが可能な前提に、どうも納得感がないんですが。最近は色々と疑わしい奴ばかりで、前日計量だからというだけでは理解出来ない選手が時々いて、こちらも素直に見られない面があります。
阿部のボクシングは、カウンターの比重が高いという点では、少し昔風味のサウスポーボクシングではありますね。ただし右リードから能動的に崩すボクシングが、世界戦レベルで出来るかというと、キコ・マルチネス戦でも充分不足無しとは言えないところがありましたね。その辺はパワー、耐久力の問題でもありましょう。ただ、今回のような露呈は、相手との相性が悪すぎた故、とも思いますね。


>モノクマさん

初回の様子見は、初の海外試合だったこと、相手との相性などなど、仕方なかったかなと思います。徐々に、僅かではあっても照準合わせをしているようにも見えたんですが、一発で全てが壊された感じでした。セコンドはちょっとドタバタしてましたが、初の海外試合で、序盤早々からドクターやインスペクターが殺到する状況では、ある程度仕方ないかもしれませんね。
今回、いつも日本選手のコーディネーターをしている人の顔も見えましたし、トップランク社における日本人選手の試合というのは、昔日の敵地不利、というものはほぼなくなっているように思います。実力自体も全体として向上していますし。ただ、こうして厳しい内容と結果で撥ね付けられることも当然あるわけですね。そこは厳しいようですが、選手の実力評価に繋がるところ、でありましょう。

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