昨夜は会場にて観戦しました。
試合自体については、もう、見たままです。
ルイス・ネリーの背中が、山中慎介の上体より一回り、二回り大きく見え、
試合開始早々、山中が右リードから左と繋げているさまを見ていながら、
これでは勝負にならないだろう、という、暗い予見が心中に広がりました。
時間にして一分半か二分くらいか、ネリーが手を出し始めると、
いとも簡単に山中がダメージを受け、立て続けに倒される。
想像していたよりもさらに悪い、悪夢のような時間が過ぎ、試合は終わりました。
この再戦について、ドーピング問題を容認するようなものだから組むべきでない、
という意見がありました。帝拳も組むべきでない、山中も出るべきではない、と。
それはひとつの筋論である、と私も思いました。
しかし、ボクサーが、敗れた相手に雪辱したいと思うのは当然だし、
他のスポーツではあり得ない、ドーピング陽性に至った事情を斟酌する裁定が出る、
異様な現実を飲み込んでまで、再戦出来るものなら、それを闘うしかない。
山中慎介の心情はおそらくそういうものだったろうし、その一点において、
私はこの試合を、ボクシングの試合として、見ることにしました。
しかし試合前日、その前提が大きく崩れました。
前日のローマン、松本戦も観戦するがため、東京に着いた午後のことでした。
ことの推移は、ご存知の通りですので省きますが、現実の日時と数字を記せば、
「試合当日、試合開始の約8時間前に、128ポンド以下」なら、報酬減額なしで試合出場、という
これまた、異様な取り決めのもと、ネリーがリングに上がることとなったのです。
私はこの事実を知ったとき、ここで初めて「試合自体を中止にすべき」と思いました。
2.3キロオーバー、Sバンタムでもオーバーです。
キロかいな、ポンドやなしに?と驚きましたし(そりゃ、ポンドでもダメですが)、
ヘビー級の話じゃなく、バンタムでそんなハンデがついて、試合になるわけがないと。
しかも、上記のとおりの、きわめて低いハードルでの試合挙行。
本田会長が、誰とどんな経緯で合意したのかわかりませんが、
約10年前、ロレンソ・パーラが坂田健史との第三戦で計量失格した際は、
金平圭一郎会長が「試合当日、試合開始の約4時間前に、118ポンド以下」という
厳しい条件を王者に突きつけ、実行させた例があります。
今回、もしも夕方に126ポンドまで、という縛りをかけていたなら、
昨夜の試合があのように一方的になったかどうか。
結果はどうであれ変わらなかった、という意見もありましょうが、
少なくとも、見終えて納得感が違った、とは言えるでしょう。
今回、本田明彦会長の、山中のマネージャーとしての仕事には、
ファンの目には、非常に物足りない部分があります。
試合後のコメントも納得しがたいですが、何よりも、選手のために
出来ることは全てやる、という気概が、そうした行動を取った形跡が見えません。
高額報酬を支払うことだけが、選手への貢献ではないでしょう、と思います。
さらに、この当日計量が報道陣に公開されていない、というのも、異常です。
一度、関係者諸氏に聞きたい。「公開しない理由」は何なのか。
出来ればわかりやすく、人間の言葉で教えてくれ、と。
以前、もう10年、もっと前か、このような事例で日本の選手が負けた時に、
報酬減額、出場停止などを組み合わせた、罰則規定のようなものを作り、
統括団体などに提案してみてはどうか、と考えたことがありました。
しかし、その後、日本のみならず、世界でも起こるこうした事態については、
体重超過の度合いに応じて、興行的側面を含めて考慮され、
妥当と言っていいかどうかは別にして、その都度、合意形成の元、
試合が行われる事例を、数多く見てきました。
そして、今回の事例は、その「度合い」を大幅に逸脱しています。
おそらくですが、この試合がベガスで予定されていたら、ネバダのコミッションが、
絶対に試合を許可しないでしょう。1~2ポンドの話じゃないんですから。
つまり、あまりに酷い場合、罰則規定、ルール以前の問題として、そんな試合、やれるわけがない。
だから、ルールを定める必要などない。それが、世界のボクシング界の趨勢なのかもしれません。
そして、それを敢えて挙行せねばならない、日本のボクシング界には、
そもそもの構造的欠陥がある、と言わざるを得ないでしょう。
興行者は大きな試合ともなれば、TV局の枠内に固定される前提でしか動けず、
こうした問題を管理するコミッションも、興行事情に追随するのみ。
歯止めも決まりも何もない。ご都合と、体裁を繕う作業の繰り返しです。
或いは、今回の場合、海外なら、岩佐亮佑の防衛戦をメインに昇格させたかもしれません。
しかしこれまたご覧のとおり、13位の...という以上に中身のない格下挑戦者とのカードでは、
そういう仮定さえ成り立ちはしません。
これが仮に、和氣慎吾との対戦が組まれていれば、最悪メインが中止でも...と思えたかもしれませんが
(それも無理がある仮定だ、と言われればそのとおりかもですが)。
それにしても、前日計量制が定着して以来、もう何度も、こんな事態に直面していながら、
国内のボクシング関係者は、いざとなったら右往左往するのみです。
そして、そのしわ寄せは、結局、全部選手が被っている。
昨日今日始まった話ではないにも関わらず、そのための用意が、万が一の備えが
何一つなされておらず、そのために今回、山中慎介という名王者が、
こんな納得感のない試合を最後に引退する事実は、関係者諸氏が心底恥ずべきことであり、
断じて繰り返してはならないことです。
...毎度のとおりまとまりのない文章になってしまいました。
今回はひとまず、このくらいにしておきます。
他にも言いたいこと、書いておかねばならぬことはいくらでもありそうな気がしますが、
今はそこまで手が及びません。ご容赦ください。
しかし、本当に、この試合は中止にすべきでしたね。
そりゃ、遠路はるばるやってきて、メインが飛べば残念ではありますが、
こういう場合だけは、仕方ないと思います。
実際の試合(というか、試合じゃないですが、あんなの)がああだったから言うのではなく、本心から。