先日の通常国会では、民主党玉木派の代表が習近平氏を国賓として扱うことについて「世界に誤ったメッセージを送ることにならないか」と発言したそうです。まぁ中国の政治体制には問題が色々とありますが、どうしたものでしょうね。一方、これを聞いて私の頭に浮かんだのは、じゃぁトランプ大統領の扱いはどうなんだろう、というものです。世界の首脳がトランプを歓迎していることが、ある種の人々に誤ったメッセージを送っているところもあるように思います。
植松被告、トランプ大統領「真実」理由に殺害正当化(日刊スポーツ)
相模原市の知的障がい者施設「津久井やまゆり園」で16年に45人が殺傷された事件で、殺人罪などに問われた元職員植松聖被告(29)の裁判員裁判の第8回公判が24日、横浜地裁(青沼潔裁判長)で行われた。
初の被告人質問で、責任能力がないという弁護側の主張について「責任能力はあると考えています」と主張。裁判の進め方についても「2、3審と続けるのは間違い」と異議を唱えた。
(中略)
テレビやウェブで世界情勢に興味を持ったとし、トランプ米大統領についても言及。「生き方、見た目、内面全て格好良い。真実を述べている。だから僕も真実を言って、重度障がい者を殺害して良い」。差別感情は変わらず、被告のゆがんだ考え方があらわになった。【村上幸将】
トランプ氏もまた常軌を逸した発言が目立つところですが、しかし訪問先の何処でも国賓として遇されているわけで、そんな姿に勇気を得ている人もまた多いと考えられます。この植松被告もその一人というだけの話ですね。当選まではトランプ支持を公言する人は少なかったけれども、蓋を開けてみたら多数派の賛同を得ていた――そこからある種の「勇気」を貰った人は少なくないことでしょう。
世間的には間違った考え方として内に秘めていたものを、トランプの大統領当選を契機にカミングアウトするようになった人は結構いるのではないかと思います。それまでは恥ずかしいものとして自身の差別心を隠していた人が、世界中で歓迎される大統領の言動を耳にして、「ならば自分も」と考えを改めたとしても不思議ではありませんから。
ただ口先で猛々しいことを連呼しても、実行を伴わないのが普通です。実行力がないのは必ずしも悪いことではなく、だからこそ無難な結果が維持されているところもあると言えます。トランプや植松と似たようなことを考えている人はいくらでもいるでしょうけれど、普通の人はそれを実行するだけの行動力はありません。そして実行力がなければ、害もまた可愛いものです。
植松被告の主張は決して独自性の強いものではないように思います。同じようなことを考えている人はいくらでもいるでしょう。匿名の賛同者には事欠きませんし、障害者に対する認識なら東京都民から4期にわたって選ばれた石原慎太郎だって似たようなものです。しかるに自らの理想を「実行した」という点において、彼は特異な存在となってしまいました。
「一人を殺せば悪党だが、100万人を殺せば英雄となる。数が殺人を正当化する。」とはチャップリンの映画の台詞ですが、植松はまだ悪党の域でしょうか。自らが実行者となって殺人を犯す限り、悪党であることからは逃れられないと言えます。しかし為政者として政策的に弱者を切り捨てて間接的に多数の死を招く分には、必ずしも悪党とは見なされないわけです。そしてより多くの害をもたらすのは、悪党と見なされない方でもあります。