非国民通信

ノーモア・コイズミ

不安を煽る人々によって作られる社会

2011-07-29 23:19:32 | 編集雑記・小ネタ

 さて先週のことですが、ホメオパシージャパン社から「福島で採取した土を希釈振とうして出来たレメディー」なる商品が発売されました。笑うしかありませんが、ホメオパシーそのものは信じている人も少なくないようですから、今度の新商品も売れる、下手をすれば今まで以上に売れることもあるのでしょうか。約30粒で¥580、約100粒で¥1,390という微妙にリーズナブルな価格設定も心憎いところです。「放射能を排出する」みたいな触れ込みで未認可薬をボッタクリ価格で売りつける業者が摘発されるなんてケースは多々ありまして、その辺の一儲けしてやろうという商魂は人情として理解できなくもないのですけれど、同レベルのオカルト商品でありながら良心的な価格設定で必ずしも利益優先とも見えない、むしろ本気でホメオパシーを広めようとしている様子が窺える辺りには薄ら寒いものを感じます。詐欺師は怖くありませんけれど、カルト信者は怖いです。

 そうでなくとも怪しい放射「能」対策には事欠きません。どうにも原発事故以降は科学的であることを放棄した人が多く、エセ科学や陰謀論的なものに対する批判も弱まるばかりでもあります。かつて「35歳を過ぎると羊水が腐る」などと述べて顰蹙をかった人もいましたが、今「放射能で羊水が腐る」と言ったなら世間の反応はどれほどのものでしょうか。鵜呑みにする人もいれば、かつてはエセ科学に否定的であった人でも「そう思うのももっともだ」ぐらいに批判を避けることもありそうです。放射「能」の害として持ち出されたものを否定すれば、すなわち原発推進勢力とレッテルを貼られるご時世でもありますし、原発の危険性を強調するためには誇張や歪曲をも否定しない人も目立ちますから。

 そんなあやしい放射能対策の中には、発酵させた米のとぎ汁をスプレーするなんてのもあるそうで、腐敗した米のとぎ汁を子供に吹き付けては子供の目を腫らしているケースもあるようです。児童虐待ですね。政府や医師の説明に背を向け、独自の民間療法に走って健康被害を新たに作り出すケースが出てくるであろうと当ブログでは3月の段階から懸念を表明していました。私が思いつく程度のことは政府関係者だって早い段階から理解できていたはず、放射線による健康への影響もさることながら、パニックの中でエセ科学や代替医療に走って健康を害するケースもまた想定した対策が求められます。

 とはいえ、やっていることは児童虐待であっても実際に被災地に住む人々には情状酌量の余地もあるでしょう。むしろ問われるべきは、福島に住む人々を外から脅しつけている人たちです。専門家への不信を焚きつけ、あることないこと放射「能」の害を吹き込み、被災地の住人が冷静に行動することを妨げている連中こそ糾弾されてしかるべきではないかとも思います。


(石垣島に避難する場合)
顕在化する確率=1(100%)
顕在化した場合の影響度合い=15万円/月(大凡)
リスクの評価=15万円/月

(石垣島に避難しない場合)
顕在化する確率=0.00001(0.001%)※全くの推測
顕在化した場合の影響度合い=∞
リスクの評価=∞
※人の命はお金では変えられません。ましてや子供の命は尚更です。

 例えばこれ、当ブログに寄せられたコメントの抜粋です。いいお笑いですが、ある意味では世間の風潮を端的に表わしているのかも知れません。つまり放射「能」を避けるため福島から避難すべきか否かという話で、福島に住み続けるリスクだけではなく、少しは避難する人の負担も考えなさいよと言ったら、こんな代物が返ってきたわけですが、こんな認識の人も少なくないと思うと頭が痛くなってきます。

 例えば「※人の命はお金では変えられません。ましてや子供の命は尚更です」などと書いてあります。さぞかし本人は子供の命を慮っているつもりなのでしょうけれど、じゃぁ故郷から引きはがされて遠隔地へと避難させられる心理的な負担はお金に換えられるのでしょうか? 避難した場合のリスクの評価として「15万円/月」と金銭的な負担のみが挙げられているのは何とも象徴的です。避難生活によって被る負担を単に金銭的なものだけとしか想定できないのであれば、それはあまりにも他人の痛みに対して鈍感な、冷酷極まりない考え方だと言うほかありません。もっとも金銭的なリスクだけであっても想定しているだけマシな方、中には遠隔地への移住を高台に避難するのと同程度にしか考えていない人もいるのですから呆れるばかりです。

 性表現規制が取り沙汰された時もそうでしたが、とかく「子供を守れ」と叫ぶ人ほど子供の意思を尊重しない傾向が見られます。彼らは子供の自己決定権を認めない一方で、周り(親)の理想を子供に押しつけ、子供を無菌室で育てたがるものです。まぁ子供の意思より大人の判断の方が正しいことの方が多いのでしょう。ただ避難のために一家離散となったり、友人や地域から切り離されるとなれば、子供だって相応に傷つくであろうことは理解してほしいところです。避難のリスクと福島にとどまることのリスクを秤にかけるのであれば、お金には換えられない心理的な負担だって考慮されねばなりません。それすら出来ずに単に福島の子供を心配している「つもり」になっている人は、単に自分に酔いしれているだけです。

 上記コメントに見られるもう一つの典型的な誤りは、リスクを0か1かで捉えていることです。まぁ我々の社会は二元論的な考え方が好きなのでしょう。直ちに影響がないものを直ちに影響がないと言うことは許されない、あるのかないのか今すぐ結論を出さないと気が済まないようですから。ともあれ、放射線を浴びなければ/原発がなければ/福島から避難さえすれば人間は不老不死であり、しかし福島で放射線を浴びることによってのみ生命のリスクに晒されるというのなら、「リスクの評価=∞」と言っても間違いではないのかも知れません。しかるに地球上どこでも放射線は存在しますし、人間は必ず死ぬわけです。リスクが0から1に上昇すると考えるのは、何かがおかしいのではないでしょうか。

 年間100ミリシーベルトの放射線量で、癌による死亡リスクが最大限に見積もって0.5%上昇すると言われています。これが健康への影響を測定できる下限ですが、ではLNT仮説を拡大解釈して年間10ミリシーベルトの被曝量で癌のリスクが0.05%上昇するとしましょう。その場合、福島に住み続けることの健康リスクは「0」から「0.05」になるのでしょうか? 日本の場合、癌で死ぬ人は概ね3人に1人くらいの割合です。放射線量の高低に関わらず、平均すれば誰でも「0.33」程度の癌リスクは抱えているわけです。そして福島の放射線量が下がらないまま放置されるとすれば(それも流石に考えにくいですが)、癌のリスクは「0.33」から「0.3305」に上昇します。もちろん癌以外にも死因はいくらでもあることは言うまでもありません。リスクの上昇は決して好ましいことではないですけれど、果たしてそのリスクが故郷を捨ててでも避けねばならないほど深刻なものなのか、もっと他に気にすべきものがあるのか、立ち止まって考えてみる余地はあるはずです。個々の住民がどのような決断を下すにせよ、それは煽られた結果ではなく、冷静に勘案された結果であるべきと思いますし、行政側にもそれを支援していくことが求められます。

 

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Unknown (Bill McCreary)
2011-07-30 02:31:22
> 性表現規制が取り沙汰された時もそうでしたが、とかく「子供を守れ」と叫ぶ人ほど子供の意思を尊重しない傾向が見られます。彼らは子供の自己決定権を認めない一方で、周り(親)の理想を子供に押しつけ、子供を無菌室で育てたがるものです。まぁ子供の意思より大人の判断の方が正しいことの方が多いのでしょう。ただ避難のために一家離散となったり、友人や地域から切り離されるとなれば、子供だって相応に傷つくであろうことは理解してほしいところです。避難のリスクと福島にとどまることのリスクを秤にかけるのであれば、お金には換えられない心理的な負担だって考慮されねばなりません。それすら出来ずに単に福島の子供を心配している「つもり」になっている人は、単に自分に酔いしれているだけです。

と、私も思うんですけどね。そんな程度の理屈も通用しないんですから困ったものです。

>リスクの上昇は決して好ましいことではないですけれど、果たしてそのリスクが故郷を捨ててでも避けねばならないほど深刻なものなのか、もっと他に気にすべきものがあるのか、立ち止まって考えてみる余地はあるはずです。

以下同文。ほかに心配することがたくさんあると思うんですけどね…。
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Unknown (非国民通信管理人)
2011-07-30 15:55:46
>Bill McCrearyさん

 結局、北朝鮮外交なんかでもそうだと思うのですが、「敵」として認定された何かを戦うことばっかりに意識が集中してしまって、他のものが見えなくなっていたり、蔑ろにされてしまったりと言うことが繰り返されている気がしますね。もうちょっと全体を見ながら行動してほしい、とりわけ行政や被災地の外にいる人にはそれを望みたいのですけれど……
返信する
Unknown (24)
2011-07-30 22:11:24
福島の原発騒ぎで地元(福島県)の人たちがこうむっているのは、放射性物質の恐怖だけではないですものね。

健康への影響を考えるのならば、生まれ育った土地を捨てて移住するのが良いのかもしれない。しかし仕事などの経済的側面・友人・土地への愛着、その他のしがらみがたくさん折り重なっている。なんだかんだ言いながら今でも、多くの人は福島に住み続けているのです。そのような人間らしい感情面を無視して「子供達を守れ!」と叫んでも問題はすぐに解決しないように思えます。

福島以外の地域の復興についても、地元からの雇用を優先させるべきと言われています。やはり住み慣れた土地への愛着は強いのかな、と。

地方で育った人にとって、故郷は故郷なんですよ。

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Unknown (非国民通信管理人)
2011-07-30 23:31:30
>24さん

 そうなんです、原発事故そのものの影響もさることながら、むしろ原発をネタとする煽り報道の類からもたらされた恐怖や混乱の影響は計り知れないものがあると思いますね。どのみち、住み慣れた地域から離れるのは極めて負担が重いわけで、「外」から避難しろ、避難させろと叫んでいる人は、福島の住民を慮っているようでいて、その実は自分の理想を押しつけているだけとも感じるところです。
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はじめまして (locust0138)
2011-07-31 14:51:01
似たような趣旨でブログを運営しております。
批判を含めてご意見を頂ければ幸いです。
返信する
Unknown (ノエルザブレイヴ)
2011-07-31 23:16:22
そういう不安をあおる人々は別に福島の人を困らせようとしていっているわけではなく、自分が感じている不安を正直に言っているだけなのでしょう。しかしそれがかえって問題をこじらせているのだろうなということを自省を含めて言っておきたいです。

ところで、管理人さんは「サウスパーク」お好きですか?最近私も少し観ているのですが個人的には「マジョリーン」とか「バターズ☆ベリー・マッチ」とかが好きですね。
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Unknown (非国民通信管理人)
2011-07-31 23:29:55
>locust0138さん

 locust0138のブログ、拝見させていただきました。科学不信の悪化は、私も深刻だと思います。もはや理系離れとか科学嫌いの域を超えて、科学への不信から反動的にオカルト的なものへ傾倒する人も急増しているように思えますし。科学への批判的検討と、単なる否定は異なるはずなのですが、そうした区別もされなくなりつつありますし……

>ノエルザブレイヴさん

 本人は正直に、そして正しいと思って言っているだけ、という点では結局のところ在特会だってそうだとも思うんですよね。信じているものが違うだけで、我こそは正しいという思いを振りかざしているわけです。風評被害や優生思想を広めておきながら、その一方で在特会を批判していたりするのを見ると、ちょっと首を傾げるところもあります。

 ちなみにサウスパークですが、ケニーが活躍する回は何でも好きですよ。
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