ウクライナを舞台にしたロシアとNATOの戦争は膠着した状況が続いています。ウクライナ側の輝かしい戦果を伝える報道もあれば、ウクライナ側の危機と軍事支援の必要性を訴える記事も同時期に並ぶなど、はっきりしているのは日本がどちらの陣営に属しているかだけと言った状況ですが、この先の展開はどうなるのでしょうか。
結局のところ主導権を握っているのはNATOであって、現状は西側からの支援の多寡が戦局を左右している、と見るのが最も客観的な評価ではないかと思います。NATOが強力な兵器と「義勇兵」を送り込めばウクライナ側が前進し、軍事支援が緩められればロシアが前進する、これまで起こったのはその繰り返しです。
では主導権を握っているNATOの思惑はどこにあるのか、ウクライナ側に送られた兵器は必ずしも最新鋭ではなかったり射程距離に制限があったり等々、ウクライナ側を勝たせるために全力で軍事支援が続けられている様子はありません。しかしウクライナが負けない程度、持ちこたえられる程度には武器が送り込まれているわけです。勝ちすぎず、負けすぎない、そうなるバランスを見計らっての支援が行われていると言えますが、これはいつまで続くのでしょうか。
残念ながら今のロシアにNATOの支配を打ち破る力はなく、「舞台」となるウクライナにどれほどの被害が及ぼうとNATOが敗れることはないでしょう。そしてアメリカの傀儡となったゼレンスキーが自ら命運を決めることもまた困難と言えます。結局はアメリカがいつまで戦争を続けるつもりか次第で結末は変わる──ロシアを十分に弱体化させることが出来たとNATOが判断するまで、この戦争は続く可能性が高いです。
ウクライナ支援は「国益」か 米大統領選の有力候補、異を唱え波紋(朝日新聞)
2024年の次期米大統領選への出馬が有力視されるフロリダ州のデサンティス知事(共和)が、ウクライナ支援を続けるバイデン米政権に異を唱えたことが議論を呼んでいる。ウクライナでの戦争は米国の「重要な国益」ではない――。そんな意見には、共和党内でも賛否が分かれている。
話題を呼んだのは、デサンティス氏が今月、FOXニュースの取材に答えた内容だ。米国には、確実な国境警備や、中国共産党への対応といった重要な国益があるとしたうえで、「ウクライナとロシアの領土紛争に一層巻き込まれることはその(重要な国益の)一つではない」と明言した。
民主党のバイデン大統領は、国際秩序や民主主義を守る戦いだとして、米国内外でウクライナ支援を主導してきた。戦争を「領土紛争」だとして距離をとるデサンティス氏の姿勢は、バイデン政権の姿勢とは大きく異なるものだ。
現時点ではこのデサンティス氏やトランプ元大統領など、アメリカの共和党候補が「結果的な」平和をもたらす可能性が高いと考えられます。どちらも決して平和志向とは言えませんが、その外交姿勢は現代における戦争の原因を希薄化させるものであり、平和を大義名分にして国際社会の分断を深めているバイデン政権とは真逆の結果をもたらすことでしょう。
アメリカ人と、その価値観を共有する日本人はアメリカによる世界の支配を平和と同一視してきました。アメリカによる軍事侵攻は常に支持してきましたし、それで平和が破られたとは考えてこなかった、アメリカ陣営に属さない国で領土紛争が繰り返されても世界の危機など感じたことがなかった、しかしアメリカに服属する意思を見せていた国──ウクライナに戦火が及ぶと、日本人は初めて平和が脅かされたと感じたわけです。
大半の日本人にとって、「アメリカ陣営を守る」ことと「国際秩序や民主主義を守る」ことは同一です。これは与党だけではなく主要野党の見解も同じですし、右派メディアだけではなく左派扱いされているメディアも同じ、ワイドショーのコメンテーターだけではなく大学教員の多くも同様の立場を取っています。しかし、世界中の国がアメリカに服属していることが本当に「平和」なのでしょうか?
バイデン大統領は、アメリカを再び偉大な国とすべく奮闘を続けています。そのために日本やヨーロッパの衛星国を糾合し、アメリカの意向に従わない国への圧力をエスカレートさせているわけです。しかしこの「西側の信じる平和」のための試みは国家間の対立を深めるばかりで、アメリカによる覇権を信奉する人々を喜ばせることはあっても、国際協調の妨げとなっていることは言うまでもありません。
逆にトランプがそうであり次期有力候補と見なされるデサンティスが片鱗を見せているような新時代の自国中心主義は何をもたらすでしょうか。彼らはいずれもアメリカ以外の国への支出を自国の重荷と見なしています。現実的にはアメリカに服属する陣営を守るためには必要なコストであり、アメリカの覇権を維持するためには費やさねばならないものではあるのですが、彼らはそれを理解できていません。
しかしアメリカが、その傘下にある国々への軍事支援を切り捨てた場合は何がもたらされるのでしょう。ロシアから見れば、NATOの東進が止まれば戦う理由がなくなります。台湾が中国に向けてけしかけられることもなくなり、朝鮮半島においても少なくとも一つは争う必要性が消え去るわけです。アメリカ陣営に属しているか否かという陣営によって対立し合う構造は終焉へと向かうことが期待されます。
アメリカに限らず、イタリアなどヨーロッパの国々でも同種の自国中心主義は勢力を強めており、こうした人々が政権に影響を及ぼすようになると、NATOというアメリカを盟主とした軍事同盟の維持は困難になることでしょう。そうなったときこそ、世界には陣営による対立から解放される希望が生まれると言えます。
日本は今なお右も左もアメリカ第一主義が主流派を構成しており、アメリカ陣営の勝利を平和と信じ続けています。しかし新興国の成長で欧米諸国の先行していた地位は相対的に低下し、アメリカを頂点とした世界支配はもはや現実的に望めるものではなくなっているわけです。そうなった以上はアメリカに服属しない国々との共存以外に道はありません。既にアジアにおける日本の経済的凋落と外交的孤立は顕著であり、その方向性は180°転換すべき時に来ているのではないでしょうか。