九州電力の真部利応(まなべ・としお)社長は18日の記者会見で、7月から最大15%の節電を企業や家庭に求める方針を明らかにした。定期検査中の玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)2、3号機の運転再開が、佐賀県などとの調整の遅れで7月以降にずれ込むほか、火力発電に使う燃料の調達が難航。冷房需要が増える夏の電力の供給不足を防ぐねらいだ。
真部社長は「原発の再開や燃料調達に全力を尽くしているが、電力不足で大停電を起こすことは絶対に避けたい」と述べ、本格的な節電に理解を求めた。すでに、JR九州や西日本鉄道は運行本数の削減などを検討。「夏休みを長くしたり、休日を入れ替えたりするなど工夫をお願いしたい」(真部社長)としており、くらしや企業活動に大きな影響を与えそうだ。
広瀬隆の脳天気な予測とは裏腹に今年の夏も相当に暑くなるとの見込みを昨日の天気予報で聞いて暗澹たる気分になったりもするこの頃ですが、西日本もまた風向きはよろしくないようです。とばっちりを食らうのが浜岡原発「だけ」で済めばまだしも、やはり影響は全国に拡大していかざるを得ないのでしょう。東京電力のように、原子力だけではなく火力や水力、その他諸々でバランスのとれた発電手段を備えた電力会社もあれば、相当に原発依存度の高い地域もあるわけで、こうなると東京電力管内に原発融通どころの話ではない、自身の管轄区の住民に我慢を求めざるを得ないわけです。火力発電所をフルパワーでフル稼働させれば理論上は間に合うかに見えるエリアだって、想定外の事態に備えるべく余力は持たせねばなりませんし(ある種の脱原発論者にとっては不要のことらしいですが、彼らの想定の甘さには呆れるばかりです)、急に燃料の調達を増やすのも簡単ではない(燃料輸送に必要なタンカーまで不足する可能性すらあるとか)、かくして西日本でも節電が必要になる可能性が濃厚となりました。引用したのは九州地方の話ですが、関西や中部エリアもまた例外ではありません、その結果として――
自動車業界、7~9月の土日操業決定 夏の電力不足対策(朝日新聞)
国内の自動車メーカー14社でつくる日本自動車工業会は19日、夏の電力不足対策として、7~9月は川崎重工業を除く加盟社の全工場を、電力需要の少ない土、日曜日に稼働させ、代替として木、金曜日は休業すると発表した。
部品メーカー約450社でつくる日本自動車部品工業会も歩調を合わせる。国内で自動車の製造にかかわる人口は約80万人と言われており、多くの働き手の生活が変わる。東海地方や九州北部など工場集中地域では、小売業や交通機関、保育施設なども対応を迫られる可能性がある。
自工会では管理部門などの対応は各社に任せるが、トヨタ自動車では、工場だけでなく、本社も含むほぼ全社で「土日稼働、木金休業」とする方向で近く労働組合と調整に入る。労組も受け入れる見通し。デンソーなどグループ主要各社も追随する模様だ。
節電と「電気代の節約」を混同し、電力が余っている深夜の電力使用をムダと呼んでいるノータリンも散見されるところですが、必要なのはピーク時の最大使用量を抑えることです。そのために必要なのはピークシフト、つまり働く時間を「ずらす」必要が出てきます。全員が一斉に平日の昼間に働くという実は「贅沢な」電気の使い方は今後は難しくなる、その代わりに全員が電気を「分かち合う」ことを余儀なくされるわけです。皆で一斉に電気を使う代わりに、交代で電気を使うことにする、昼ではなく夜に働くこと、平日だけではなく休日に工場を稼働させることでピーク時の電力使用は抑えられます。ただ電力の余っている時間帯(夜間、土日祝日)に働くことを強いられる労働者側としては、安易に賛同したくないことでもあるはずです。夜間労働が健康に与える影響の大きいことは言うまでもありませんし(それに比べれば放射線の影響の方が……)、ここで決められたという休日のシフトだってどうでしょうか。
周りの人間と休日がずれるというのは、まぁ我慢できる範囲かも知れません。今だって普通に、例えば小売や飲食関係など土日祝日には休めない人も少なくないですし。ただ知人や家族と休日が異なってしまうことを負担に感じる人もいるでしょう。その辺は民主党の休日分散化案でも大いに批判されたところですが、父親だけ、あるいは母親だけ休みの日が出来ても、代わりに家族全体で休めない日が出てしまうのでは困るという人もいたわけです。ましてやシフト勤務は休日の減少に繋がりがち、往々にして土日が休みの職場は祝日も休みですけれど、曜日シフトで週休2日の職場は祝日とは無関係に週休2日に限定されていたりするものです。カレンダー通りに休めば年間休日120日+だけど、カレンダーとは無関係に木、金のみ休業になったら年間休日は105日相当に減少します。この自動車業界各種が祝日の扱いをどうするかは知りませんけれど、節電に協力すると見せてさりげなく労働強化に走る会社も出てくることでしょう。
地下鉄間引き試算 10~20%節電ケース 大阪市交通局(産経関西)
東京電力福島第1原発の事故や中部電力浜岡原発の停止で夏場の電力不足が予想される中、大阪市交通局では、政府などからの節電要請を受けた場合に備え、「間引き運転」のシミュレーションを始めた。市営地下鉄など9路線について、10~20%の節電に必要なダイヤを試算。市交通局は「万一、計画停電などが決まった場合などに対応するための準備」としており、実際に実施するかは現時点では未定という。
試算は1日約120万人が利用する御堂筋線のみと、御堂筋線やニュートラムを含めた全9路線を対象にした2通りで実施。消費電力がピークとなる朝のラッシュ時(午前7~9時)に、電力を10~20%カットするため必要なダイヤを試算した。
この結果、御堂筋線では朝ラッシュ時のダイヤを、より本数の少ない夕方ラッシュ時のダイヤに変更することで10%削減、休日ダイヤに変更すれば20%削減が達成できるとしている。
通常ダイヤでは定員の140%程度の混雑率が、夕方ダイヤの場合は170%、休日ダイヤでは200%になる見込み。
いうまでもなく電力需要のピークから外れる朝のラッシュ時間帯に節電しても意味がないのですが、大阪市交通局は何を意図しているのでしょうか。まぁ、ピーク時以外でも節電に励めば、電気代は節約できます。電車の本数を減らせば、車両のメンテナンス費用など運行に掛かる諸々のコストも節約できることでしょう。乗車率200%のサウナに詰め込まれる通勤客にとっては悪夢ですが、かといって通勤に利用する交通機関を選べるような人は少ない、ほとんどの人はどれほど不快であろうとも決まった電車を使わなければならないだけに、乗客が減って収入が落ちる心配もいらないわけです。普段は乗客に不便を強いれば色々と評判を落としそうなものですが、昨今の節電意識が高まる中では「率先して節電に協力する優良な組織」として逆に社会的な賞賛を浴びることもあるのでしょう。大阪市交通局にとっては良いことずくめなのかも知れません。利用者にとってはいい迷惑ですが、ここで不便さを訴えるのは原発推進派の非国民なのです。
中部電、企業の余剰電力買い取りへ 新日鉄などから(朝日新聞)
中部電力は16日、自家発電設備をもつ管内の民間企業から新たに余剰電力を買い取る方針を決めた。浜岡原子力発電所の全炉停止による夏の電力不足を補うには社内だけでは限界があるため、中部電の約6分の1にあたる発電力をもつ企業に幅広く協力を求める。
経済産業省によると、中部電管内の東海3県と長野、静岡両県では、民間企業約100社が自家発電施設を持ち、発電能力は443万キロワットにのぼる。中部電のピーク時の電力供給力の約6分の1の規模がある。
中部電はこのうち、発電規模の大きい鉄鋼メーカーや製紙メーカーなど「安定して送電してもらえる企業」(中部電幹部)を中心に、余剰電力の買い取りの打診をすでに始めている。
地域最大規模の60万キロワットの発電施設を持つ新日鉄名古屋製鉄所(愛知県東海市)には現在、数万キロワットの買い取り電力量を増やせないか打診中だ。新日鉄側は「中部電への販売量を積み増す方法を検討している」(広報)と前向きで、追加分で一定の電力量は確保できそうだ。
トラック用ホイール製造で国内首位のトピー工業がもつ火力発電所(愛知県豊橋市)からは、買い取り電力量を1%増やすことが決まった。トピー工業は「発電余力はほぼない発電所だが、夜間や祝日もフル稼働して中部電の要請にこたえる」(担当者)という。
さて裕福な企業の工場には自家発電設備を備えているところもあるわけですが、そういった企業の発電設備から余剰電力を買い取ろうという方針が決まったそうです。電力会社の頑張りにも限界がありますから、これも一つの解決策ではあるのですが、どうにも「飢餓輸出」という言葉が脳裏をよぎります。飢餓輸出って、ご存じでしょうか。外貨獲得のために、国内で必要な物資をも輸出に回してしまう状態を指します。何かと社会主義「国」的(≠社会主義)な考え方が強まるばかりの日本ですが、社会主義国の得意技がついに日本でも見られるのかも知れません。つまり自社で必要な電力をも、電力会社への販売に回してしまう可能性はないでしょうか。工場の生産設備を止めてまで電力を売りに走るところは少なくとも、工場の空調など労働環境に関わる部分を抑えて、それで浮いた分の電力を売るくらいは普通にありそうです。工場で働く人は猛暑のなか熱中症寸前で喘ぐばかり、でも外貨獲得のために電力は売られてゆく…… あるいは勤務時間のシフトを駆使し、電力需要の高い時間帯(=平日の昼間)は電力を売る時間として、電力需要の低い時間帯(=夜間、休日)に従業員を働かせる等々、一部の社会主義国で見られたものにも決して引けを取らぬ、多大な犠牲の上に立った「輸出」が見られる日は遠くなさそうです。
恐ろしいのは、こうした飢餓輸出が現実のものとなったとしても、それは社会的な非難の対象となるどころか、反対に美談として扱われ賞賛を集めるであろうということです。どれほど従業員に負担を強いても、元より労働者側の立場を慮ることのない世論に加えて昨今の節制ムードや脱原発気運のなかでは、「節電(電力不足)に協力する企業」としての好感度の増加が批判を遙かに上回ることでしょう。むしろ従業員や利用者に多少の不便な思いをさせるぐらいの方が、身を削って世の中に貢献しているかのような印象を与えることすら考えられます。脱原発のため節電に務め、電力売却にも務めます云々と宣言すれば、左派でも考えの足りない人が喝采を送るであろうこと請け合いです。一方その影で働く人は追い詰められるばかり、ふざけた時代になったものだと思います。