Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

アップルの美が表紙に降臨した

2010-05-10 13:34:26 | Weblog
今日は iPad の予約が開始される日。朝から Twitter 上で「予約だん」の報告が続々と届く(ちょっと誇張)。それにつられて,iPad with Wi-Fi 32GB を予約した。秋により小型軽量の iPad が出るのでそちらがおススメ,という意見もあったが,この何に使えるかわからないが,異様な魅力を発するガジェットを早急に体験することなく,クリエイティブだとかイノベーティブだとか語ることは許されない,と思ったからだ。

ちょうどその日に合わせたように,「アップル丸かじり」というコピーが美しく表紙に映える週刊ダイヤモンドが発売された。中身はというと iPad や iPhone をいかに使いこなすべきかを,有名人のロールモデルを登場させて語る記事がほとんどだ。それはそれでいいんだが,アップルという企業の製品開発戦略やら組織論についてはほとんど語られていない。そこがビジネス雑誌としてはちょっと残念なところである。

週刊 ダイヤモンド 2010年 5/15号,

ダイヤモンド社


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実際,アップル・ウォッチャーによるルポ的な文献はいくつもあるが,経営学者やマーケティング学者による「学術的な」アップル研究はほとんどないと思う。それはアップルがあまりにクローズドだからか,それとも,あまりに特異で一般化できないからなのか・・・。若くて元気で清新な感覚を持つ研究者にぜひ挑戦してもらいたい。トヨタもサムスンもマイクロソフトもすでに研究され尽くされている(ほんとか?)。

そういうならお前がやればいい・・・といわれそうだが,ぼくはぼくなりに,消費者モデリングの立場から人はなぜ Mac を真っ白なパッケージから出すときわくわくし,電池の持ちが悪い iPhone を使い続け,どんな効用があるのかわからない iPad を予約したりするのか研究したいと思っている。それがどういう原理にしたがうか(記述と説明)が第一段階,なぜそんなことになってしまったか(進化の解明)が第二段階だ。

にしても,非情に美しい表紙である。立ち読みで表紙が汚れされてしまう前に,早めに購入することをお勧めしたい。お近くに大きな書店がない方は,すぐ下のリンクをクリックしてアマゾンで・・・(アフィリエイトフィーを期待w)。

JACS@駒澤大学 2日目

2010-05-10 01:33:00 | Weblog
今日も午前中だけ消費者行動研究コンファレンスに参加。大学に出て計算と論文執筆に取り組む必要があったので(しかも出足が遅れたので),聴講したのは3件のショートセッションだけであった。そのあとにも聴きたい発表がいくつもあり非常に残念。しかし,#jacs2010 というハッシュタグのおかげで,ある程度はフォローすることができる。さて,聴講した3件の報告とは・・・
安藤和代氏(千葉商科大学)「語り手本人に及ぶクチコミの影響」・・・ポジティブな体験を語るかネガティブな体験を語るかでクチコミの目的が変わり,語り手本人の対象への評価もまた変わってくるという仮説。面白い視点だ。関連する心理学的研究を丹念に調べ,さまざまな概念を精妙に組み合わせてモデル(パス図)を作るのは見事。扱おうとしている現象に比べてモデルが複雑すぎる気がするのは,ぼくが消費者行動研究の流儀を体得していないせいだろう。

中川宏道氏(流通経済研究所)「好きだから見るのか、見るから好きになるのか?~セールス・プロモーション研究における視覚マーケティングの視座~」・・・急に聴衆が増え,立ち見が続出した。「見るから好きになる」ことを示した下條信輔氏らの研究を踏まえて,デジタルサイネージが消費者選好に与える影響を,アイトラッキングを駆使しながら検証している。その結果,店頭SPは,本来売れるものをロスなく売るという従来語られていた目的を超えるものになる。

石井裕明氏,阿部周造氏他(早稲田大学)「消費者の評価・選択軸の変化と解釈レベル理論」・・・さらに聴衆が増加。解釈レベル理論は,対象への心理的距離によって重視される属性が変わると主張する。これが,Feature Fatigue 研究の理論的基礎になった(購入前は高機能を求めるが,購入後はユーザビリティを重視する)。早大全体の重点プロジェクトとして研究が始まり,さらに科研費も取得したとのこと。今回は,予備的研究としてのグルインの結果が報告された。
というわけで,聴講したのはいずれも選好の形成や変化,あるいはその誘導に関する研究であった。消費者行動研究の本流の1つである社会心理学において,態度変容というテーマが長く研究されてきたことを考えると,そのこと自体はさして不思議ではない。そしてこの問題が,実務家にとっても大いに関心があることはいうまでもないだろう。ただ,研究によって語られることの多くは,実務家がすでにわかっていると感じる話ではないだろうか。つまり,そんなことは当たり前だと。

それに対して,研究とはそういうものだというのが1つの模範解答だ。当たり前に思えることの背後に,どういうメカニズムがあるかを科学的に究明し,体系化するのが研究である。そして,過去の研究と整合的に結びつけることで,大仰にいえば人類の知的遺産になると。それはそうなのだが,重要なのはそこにサプライズがあるかどうかだ。「好きだから見るのではなく,見るから好きになる」というのは間違いなくサプライズ。しかもそれには,大きな実務的インパクトがある。

解釈レベル理論にしても,過剰装備がなぜ生じるかという問題に結びつけたことで成功した。当たり前だと思っていることが,実は当たり前でないことを見出す問題の発見。昨日片平先生の講演でも語られた「ブ・ジャデ」ともつながる。その意味で,仲良しクラブの「コラボレーション」からそうした発見が生まれるのか ・・・なんてことを考えながら,明日の朝,無事に計算が終わっており,その結果に何がしかのサプライズが含まれていることを願って,そろそろ寝ることにしよう。