goo blog サービス終了のお知らせ 

Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

リパッケージとリコメンデーション

2010-05-20 11:20:08 | Weblog
佐々木俊尚氏の『電子書籍の衝撃』が発売されて約1ヶ月。この間あちこちで話題になったため,いま頃読後感を書いているのはあまりに遅すぎる感じがしないでもない。しかしながら,この本は単なる Kindle と iPad の解説本ではない。したがって,それほど慌てる必要はない。 本書では iTunes が起こした米国の音楽市場の激変が報告される一方で,日本の出版流通システムが戦前にまで遡って議論される。これからのコンテンツ流通に関して,グローバル企業の戦略と市場の歴史的経路依存性という両面がおさえられている。こういったビジネスに少しでも関心がある人は一読する価値がある。

電子書籍の衝撃 (ディスカヴァー携書),
佐々木 俊尚,

ディスカヴァー・トゥエンティワン


このアイテムの詳細を見る


ビジネスに携わる人は,過去や現在がどうであるかということ以上に,これからどうなるか(どうすべきか)が気になるだろう。佐々木氏はこれを技術トレンドの外挿的予測ではなく,むしろサービスのコンセプトの側から考える。それは一言でいえば「リパッケージ」というコンセプトに集約される。一定の影響力がある人が,アイテムを括り直して消費者に提示する。書店におけるリパッケージの成功例は,千駄木の往来堂書店や,松岡正剛氏がプロデュースした丸の内オアゾの丸善内に作られた松丸本舗である。いずれも独自の視点でリパッケージされた書籍群が店頭に並べられている(という)。

佐々木氏は有名人や有識者をインフルエンサーと呼び,無名だがソーシャルメディア上の一定範囲で影響力を持つ人々をマイクロインフルエンサーと呼んで区別する。今後,マイクロインフルエンサーが行うリパッケージが,より重要な役割を果たすようになると佐々木氏は見る。インフルエンサーといってもいろいろで,その区別は重要だ。Twitter の世界では「メガ」インフルエンサーも無視できない力を発揮しているように思える。こうした異質性を,連続性も考慮しながらいかに視野に入れるか。そこを問わないインフルエンサー論は使えないかもしれない(ここは自分自身が自戒すべき点である)。

リパッケージは,リコメンデーションとは違うのだろうか?広義には同じと考えていいと思う。しかし,ぼく自身がリコメンデーションということばから感じるニュアンスは,外国などでメニューがチンプンカンプンなレストランに行ったとき,シェフのリコメンを聞く,といった感じに近い。つまり,自分に知識や判断能力がない対象について,専門家の助言を求めるのがリコメン,というわけだ。それに対して,自分が尊敬したり興味を持ったりしている人の本棚を覗いて,そうか今度あれを買おうと思うのがリパッケージ。知識も判断力もあるが,きっかけがない。この解釈が正しいという自信はない。

著者は,ソーシャルメディアを通じたリパッケージが,電子書籍の市場が今後多様性を保っていくための重要な要素だと見ている。そのためにはクリス・アンダーソンのロングテール論で語られた,市場の「民主化」はどこまで本当に起きているのか,そこでリコメンはどのような役割を果たしているのかを確認する必要がある。すでにいくつか実証研究があるし,今後も研究が進むだろう。その隊列の末尾に自分も加わっているつもり。いつ落伍するかわからない弱々しい足取りだが・・・。ユーザとしても経験を深めねばならないが,この本を電子版ではなく,紙で読んでいる時点でまだまだかもなあ・・・。