Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

商業学会@東洋大学

2010-05-30 21:48:31 | Weblog
東洋大学で開かれた日本商業学会に行く。最近テンパっているので初日はパスし,2日目は日頃お世話になっている「後輩」の発表もあるので出かけることにした。会場となった校舎は内部が吹き抜けになっていて廊下まで明るい。さらに,そこかしこに自習用の机が置かれていて図書館のようだ。

この学会,5つの併行セッションがあって,マーケティング系学会としては最大規模を誇る。今回ぼくが聴講したのは,以下の発表だ。結果的に,いつも JIMS や JACS でもお目にかかっている方々の発表を多く聴くことになってしまった。
田中 洋,中央大学:マーケティングコミュニケーションの変革-クロスメディアとコミュニケーションデザイン
清水 聰,慶應義塾大学:クロスメディア環境におけるメディアの役割と消費者
澁谷 覚,東北大学:ネット上の商品選択におけるクチコミのレコメンデーション効果-リゾートホテルの選択に関する実験
桑島 由芙,東洋大学:映画視聴行動に関する社会ネットワーク分析-SNSを用いた実験
廣田 章光,近畿大学:「開発スコープ」のダイナミクスとイノベーション創発
今村 一真,広島大学・院:製品差別化の再検討-「レガシィ」にみる顧客間関係の視点から
新倉 貴士,法政大学:第二世代の消費者情報処理研究
石田 大典,早稲田大学:新製品パフォーマンスの先行要因に関するメタアナリシス
しかし,上述の学会では聞けないような発表もある。たとえば廣田章光先生の青芳製作所の事例研究。この企業は大学病院と共同で高齢者向けスプーンを開発した。そのために,高齢の患者の食事動作を徹底的に観察した。ユーザの能力と現実の製品の間にギャップがあるとき,イノベーションが誘発されるという視点は面白い。

自分の関心に合致したものの1つが,田中洋先生の報告だ。冒頭,AIDMA や AISAS のような直線的モデルを批判。消費者をプロアクティブな存在とみなし,行動(behavior)より行為(action)をモデル化すべく,消費者をエージェントとして見ることが必要だと。そこで一瞬,「エージェントベース・モデリング」(ABM)のことが頭をよぎる。

現実の ABM でエージェントが十分にプロクティブな主体として設計されているのか大いに疑問である。ただ「消費者の行動がますます事前に予測できなくなるので,それに相応しい動的モデルが必要だ」という趣旨の江原淳先生(専修大学)のコメントを聞き,やり方次第でエージェントベース・モデリングがうまく使えるかもと思い直す。

ただし,エージェントの目的合理性やプラン立案-遂行能力を強調しすぎると,潜在意識を重要視する最近の認知神経科学的研究と乖離する。一見対立するパラダイムをいかに調和させるのか。このことが,新倉貴士先生のいう「第二世代の消費者情報処理研究」とどうつながるか・・・。よくわからなくなってきたのでこのへんで・・・。