Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

なぜ大学生は新聞を購読しないのか?

2010-05-07 23:17:54 | Weblog
ある偶然から,今日は「新聞について考える」一日になった。きっかけは,Twitter で見た,kamematsu さんの
某新聞社の人の話。「大学生が新聞を買わない理由はいろいろあるが、電車で読むのが恥ずかしいというのもあるそうだ。どの新聞のどの面を読んでいるのか、他人に知られるのは恥ずかしいというのだ」
というつぶやきに「 今日のゼミで聴いてみよう」とRTしたところ,「結果をお知らせいただけるとうれしいです」とお返事いただいたこと。そこで実際,2年生のゼミで聴いた結果を再度つぶやいて みた:
2年生17人中この1週間新聞を読んだ者1人,同居する親が新聞をとっていても同じ,という結果でした。・・・

ニュースはテレビかネットで得ている。同居する親が購読していても読まないのだから,新聞を読まないのは金銭的要因だけではないと思われます。・・・

ですから,そもそも電車で新聞を読む可能性がない。ちなみに,大人が混んだ電車で読んで迷惑という学生が数人。他は特に迷惑していない・・・というより電車で新聞を読んでいる社会人もいない。(→少なくなった,が正確)

電車でケータイを見ているとき覗かれたらいやか,という質問には大半が嫌だと。iPadの普及に阻害要因になるかどうか・・・。なお電車で本を読む学生が4,5人にいて,カバーをかけるかどうかは半々に分かれる。(→このへん脱線気味だが,実際にはもっと断線した質問も行なったw)
こうしたつぶやきに対して,直接,間接いくつかのコメントをいただいた。ある大学のあるゼミの N=17 という過小なサンプルの結果なので統計的信頼性は低い。そこで帰宅後,大学生である娘に聞いたところ,やはり新聞は読まないという。家に日経新聞が積み重なっているにもかかわらず,だ。ニュースはテレビ,電車のなかのモニタ,インターネット(新聞社のサイトではなく SNS のトップ画面など)で得ると。N=1 なのでますます信頼性はないが,大規模な標本調査をしても,大まかな傾向は変わらないと予想する。

実は kamematsu さんは,以下のようなつぶやきもされていた:
某新聞社の人の話。「いまの大学生でも『新聞は読んだほうがいい』と思っている子は多い。だが、読もうとしても理解できずに挫折してしまうケースが多い」
これはうっかり見過ごして,ゼミ生に質問しなかった。彼らはどう答えただろうか?新聞のフォーマットに慣れていない,ということだが,それは新聞を必要としないことの結果でもあり,原因でもあり得る。そこを見分けることは難しい。では,学生たちに新聞を読むことを奨めたほうがいいかどうか。一応奨めるにしても,どこまで強く?

はるか昔,ぼくが新卒で採用されたとき,研修担当者から入社前から日経新聞を購読するように強く推奨された(他の新聞社にもお世話になっている会社であるにもかかわらず・・・)。いまでも,新入社員に日経を読めと指導している会社は少なくないと思うが,若者たちはそれにしたがっているのだろうか?ビジネスパーソンが日経を読むのは,取引先の人事異動を知るためだという説がある。だが,それだけのことなら,各事業所で日経電子版を1口契約して情報を回覧すればすむと思う。個々人が自宅で購読する必要はない。

だいぶ前のことだが,多くの会社の重役の社用車には,日経とスポーツ新聞が用意されている,と聞いたことがある。そのスポーツ新聞だが,電車のなかで読んでいる人が減っているのではないかと,スポーツライターの阿部珠樹氏が指摘している:
電車に乗ってもひとつの車両の中で、スポーツ紙を読んでいる人はめっきり少なくなった。7人がけのいすがあるとすれば、4人はメール、2人はアイポッド、残りは居眠りで、スポーツ紙はめったにいない。読んでいるほうが照れくさくなるくらいだ。
駅のスタンドには山ほどスポーツ紙や夕刊紙が積まれているように見えるが,実は売上が低下しているのだろうか・・・。ぼく自身,電車のなかではほとんど iPhone を眺めている。満員電車でも読める。プロ野球の試合経過など,スポーツ新聞より鮮度の高い情報がそこにある。一部有料でも,トータルでは安く,効率的である。

かつて新聞を購読することはデフォルトで,理由はあとからついて来た。購読者はそれを特に意識することなく,結果としてメリットを享受していた。だが今後,若者に続いて多くの人々が新聞をとらなくてもほとんど困らないことに気づき始めるだろう。古新聞紙の効用すらなくなってきている。そうなると,新聞を購読するのは,それなりの強い理由をもった人々だけになる。そうした人々はそう多くいないが,確実に存在する。少なくとも自分はその一人だ。だから購読する理由がもっと鮮明になるような,「新聞」の進化を期待している。