データからイノベーションを生み出すことができるだろうか。標準的な統計手法を使ってデータを解析し,消費者の特定の行動が他のどんな要因と相関するかを調べることで,新しい画期的な製品やサービスのアイデアを創出できるだろうか。消費者があげる満足要因を充足し,不満足要因を除去することで,魅力的なデザインを生み出すことができるだろうか。常識的にいえば,それは非常に難しい。イノベーションとはこれまで存在しなかったものを創り出すことだから,消費者の過去の行動をいくら分析しても,イノベーションのネタを見つけることは難しいと。
しかしながら,膨大なデータを読み込んで,素晴らしいアイデアを生み出す現場の達人がいる。そうした逸話でよく聞くのが,読み込みとひらめきの間に「寝かせる」プロセスがある,ということだ。この場合,データ処理を担うのは脳の無意識の部分である。最近,脳神経科学や認知科学の研究によって,無意識の力が次々と明らかになっている。しかし,無意識に頼れば,誰でもいつでもいいアイデアを思いつくかというと,そんなわけにはいかない。したがって,このプロセスを人工的に再構成し,イノベーションを加速させようとする試みが行われることになる。
ここで重要になる手続きの一つが,データを適切に「切り分ける」ことだろう。データ分析に長けた実務家は,どこに分析を絞るか(裏返せば何を捨てるか)が見事である。それをコンピュータの力を借りて行おうとするのが,データマイニングだろう。アソシエーション・ルールや決定木の分析は,データの一部にうまく光を当てて,強く関連しあう変数群を発見する。顧客の一部に向けたプロモーションやリコメンデーションに成功する方程式を見出そうとする。普遍性はなくても,あるところで役に立てばよいと割り切るところに,マイニングの極意がある。
データマイニングとは文字通り,データのなかに埋もれている「金」となる情報を見つけ出すことである。だが,イノベーションのためには,すでに存在する「金」を掘り起こすだけでなく,いまは存在しない「金」を生成することが期待される。そのためには「切り分ける」だけではだめで,「混ぜる」「熱する」プロセスが必要となる。そこでうまく化学変化が起きれば,イノベーションの芽が生じる。成功したかどうかの判断は人間が行うしかない。つまり,一種のチューリングテストだ。だからこの考え方は,統計学よりは人工知能に親近性が高い。
では,「混ぜる」手法が人工知能や機械学習にどれだけあるだろうか。思いつくのが,遺伝アルゴリズムだ。それは複数の情報を「交叉」させることで,新しい情報を生み出そうとする。さらには突然変異で「熱する」のに近い操作を加える。しかしながら,現実に起きているイノベーションと比べると,そのプロセスはあまりに迂遠に見える。「混ぜる」と「熱する」は同時に進行すべきであるとするなら,もっと高速なアルゴリズムを考えられるはずだ。そこではデータの内的論理に「任せた」生成(=シミュレーション)が鍵になると勝手に推測している。
単に「切り分ける」だけから「混ぜる」「熱する」まで行うことは,採掘から錬金術への移行を意味する。データマイニングからデータ錬金術(data alchemy)へ・・・ 常識的には,それは非科学的で「妖しい」世界へ足を踏み入れることを意味する。だが,そこへ進むしかないと自分を後押しする流れがある。その一つが,マーケティング・サイエンスはどこまで役に立つのかという長年の疑問である。それが具体的にどんな手法になるのか,ぼくの頭の無意識下にある「ニューラル・コンピュータ」が,いま超高速で計算していると信じることにしよう。
しかしながら,膨大なデータを読み込んで,素晴らしいアイデアを生み出す現場の達人がいる。そうした逸話でよく聞くのが,読み込みとひらめきの間に「寝かせる」プロセスがある,ということだ。この場合,データ処理を担うのは脳の無意識の部分である。最近,脳神経科学や認知科学の研究によって,無意識の力が次々と明らかになっている。しかし,無意識に頼れば,誰でもいつでもいいアイデアを思いつくかというと,そんなわけにはいかない。したがって,このプロセスを人工的に再構成し,イノベーションを加速させようとする試みが行われることになる。
ここで重要になる手続きの一つが,データを適切に「切り分ける」ことだろう。データ分析に長けた実務家は,どこに分析を絞るか(裏返せば何を捨てるか)が見事である。それをコンピュータの力を借りて行おうとするのが,データマイニングだろう。アソシエーション・ルールや決定木の分析は,データの一部にうまく光を当てて,強く関連しあう変数群を発見する。顧客の一部に向けたプロモーションやリコメンデーションに成功する方程式を見出そうとする。普遍性はなくても,あるところで役に立てばよいと割り切るところに,マイニングの極意がある。
データマイニングとは文字通り,データのなかに埋もれている「金」となる情報を見つけ出すことである。だが,イノベーションのためには,すでに存在する「金」を掘り起こすだけでなく,いまは存在しない「金」を生成することが期待される。そのためには「切り分ける」だけではだめで,「混ぜる」「熱する」プロセスが必要となる。そこでうまく化学変化が起きれば,イノベーションの芽が生じる。成功したかどうかの判断は人間が行うしかない。つまり,一種のチューリングテストだ。だからこの考え方は,統計学よりは人工知能に親近性が高い。
では,「混ぜる」手法が人工知能や機械学習にどれだけあるだろうか。思いつくのが,遺伝アルゴリズムだ。それは複数の情報を「交叉」させることで,新しい情報を生み出そうとする。さらには突然変異で「熱する」のに近い操作を加える。しかしながら,現実に起きているイノベーションと比べると,そのプロセスはあまりに迂遠に見える。「混ぜる」と「熱する」は同時に進行すべきであるとするなら,もっと高速なアルゴリズムを考えられるはずだ。そこではデータの内的論理に「任せた」生成(=シミュレーション)が鍵になると勝手に推測している。
単に「切り分ける」だけから「混ぜる」「熱する」まで行うことは,採掘から錬金術への移行を意味する。データマイニングからデータ錬金術(data alchemy)へ・・・ 常識的には,それは非科学的で「妖しい」世界へ足を踏み入れることを意味する。だが,そこへ進むしかないと自分を後押しする流れがある。その一つが,マーケティング・サイエンスはどこまで役に立つのかという長年の疑問である。それが具体的にどんな手法になるのか,ぼくの頭の無意識下にある「ニューラル・コンピュータ」が,いま超高速で計算していると信じることにしよう。