Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

脳にノーといえない(笑)

2009-01-06 17:45:19 | Weblog
今年いただいた年賀状のなかに,脳科学のマーケティングへの応用について語っておられる方がいた。その方の現在の研究から見て意外に感じたが,元々の専門が心理学であることを考えると,不思議でも何でもない。消費者の心理という側面からマーケティングにアプローチしようという研究者にとって,「脳」はもはや避けて通れない話題になってきたということだ。

そんなとき目にとまったのが以下の記事だ:

   Our Unconscious Brain Makes The Best Decisions Possible

ロチェスター大学で脳-認知科学を研究する Alex Pouget 准教授は,人間が無意識に意思決定するとき,合理性を仮定したモデルのような最適な選択を行うことを実験で示し,神経科学的な裏づけも行っている。Kahneman や Tversky は,問題が被験者に十分意識された状況で実験を行っており,そもそもの設定が非現実的だと Pouget は批判している。

(なお,元になった論文は Neuron に昨年末掲載された。まだオンラインで pdf を入手できないが,ドラフトをご本人のサイトで入手できる。)

では,日常の消費者行動はどの程度「意識的」なのだろうか。ここ数日,ある本を3,000円のパーパーバックで注文するか,6,000円のハードカバーにするかで迷いに迷った経験からすると,意識された意思決定というものも,頻繁に(煩雑にではなく)起きていると思われる。もちろん,意識された意思決定のバックグランドにある無意識の働きは無視できないが。

意識と無意識をめぐる議論は,今後もっとホットになると同時に,それを調停・統合するような理論も出てくるだろう。また,いずれの立場からも,脳神経科学的に裏づけを得ようという研究が活発化する。その一方で,fMRI による実験環境が現実の意思決定の場面と大きく異なるという問題も無視できなくなる。多様な研究方法の複合が必要だ。

いずれにしても,それを避けて通れないという意味で,ぼく自身,脳神経科学に関する基礎的なお勉強を始めなくてはならない。手持ちの本のなかで,まず読んでみようと思っているのが以下の本だ。なぜそう思うのか,明確に自覚された根拠はない。まさに無意識のうちに選好されていたわけだが,Pouget がいうように最適な意思決定かどうかはわからない。

脳科学と心の進化 (心理学入門コース)
渡辺 茂,小嶋 祥三
岩波書店

このアイテムの詳細を見る

豊富なイラストに惹かれて買ったのが以下の二冊。ニューロンの構造や化学物質の話から始まる。最初から最後まで読み通すのは大変そうであり,おそらく参考書として使うのに適している。個々の用語について,英訳がついているのも,その点で便利そうだ。

みる見るわかる脳・神経科学入門講座 (前編)
渡辺 雅彦
羊土社

このアイテムの詳細を見る

みる見るわかる脳・神経科学入門講座 後編 改訂版―はじめて学ぶ、情報伝達の制御と脳の機能システム (3)
渡辺 雅彦
羊土社

このアイテムの詳細を見る