Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

メディアの危機からメディアの再評価へ

2009-01-27 13:51:34 | Weblog
最近の『週刊東洋経済』から刺激的なタイトルを拾ってみる。

2008/10/25号 「家族崩壊」
2008/11/01号 「医療破壊」
2008/11/22号 「雇用大淘汰」
2008/12/20号 「自動車全滅! 」
2009/01/10号 「若者危機」
2009/01/24号 「百貨店・スーパー総崩れ!」

「崩壊」「破壊」「淘汰」「全滅」「危機」「総崩れ」…
そして2009年1月31日号では,

 テレビ・新聞 陥落!
 頼みのネットも稼げない

と「陥落」という表現が使われている。こうなると不謹慎ながら,次はどの業界に,どんな表現が使われるのか,楽しみになる。

週刊 東洋経済 2009年 1/31号 [雑誌]

東洋経済新報社

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それにしても,この大不況で,広告費に依存するTV,新聞等のメディア業界もまた業績が悪化するのは当然だろう。しかし,同誌のインタビューで日本テレビの氏家齊一郎議長は,広告費の減少は循環的というより構造的な変化だと述べる。つまり,流通の寡占化が広告からSPへのシフトを生み,製造業でも寡占化が競争を抑制したため,広告支出が減少しているという。

一方,同じ特集のなかで池田信夫氏は,インターネット広告市場の影響が大きいと指摘する。ネット広告費は数年後に新聞を追い抜きそうな勢いで増えているが,その背景には,激しい競争によるネット広告の低コスト化・低価格化がある。イノベーションが低コスト経営を可能にするネットに比べ,高コストのインフラを維持しているTVや新聞は困難に直面すると予測する。

現在の危機に対する診断は氏家氏と池田氏で異なるものの,メディア業界の再編成が避けられないという点では一致している(もちろん,そこで誰が勝ち残っていくかの展望は,「当然」異なっているわけだが…)。

広告主や広告会社がメディアの構造変化にどう対応すればいいのか,優等生的な答案はすでに書かれているといってよい。最近のマーケティングの教科書では,戦略目標は市場シェアではなく,顧客生涯価値(の総計としての顧客資産)だと書かれている。メディアプランについても,同じ原理に従えばいい。ただ,優等生の答案は,その通り実行することが容易ではない。

顧客資産といっても評価対象を広げすぎると,シェアと何も変わらなくなる。重要なのは,評価対象とする顧客をある範囲に限定することだ(実買層を,ということでなく)。さらにそれが,顧客資産に基づく ROI の評価を観測可能な範囲で完結させることになれば,シェアで考えるのと違った話になるだろう。顧客の焦点が正しく絞られていれば,それでうまくいくと。

そうなれば,シェアが重視された時代に視聴率や GRP が果たした役割は,広告主ごとに設定された顧客資産への貢献度が担うことになる。これは,購買への効果がわかりにくいTV・新聞に不利に働くように見える。しかし,もはや平均的消費者の効果は重視されないので,差別化された顧客ポートフォリオを提案できるなら,むしろ高い付加価値を享受できるのではないか…

…なんてことを考えさせる特集であったが,その前に目前の仕事を終わらせないとなぁ。