Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

口舌争半吉

2009-01-11 23:24:29 | Weblog
今日,笠間稲荷で引いたおみくじ曰く「口舌争半吉」だと。どういう意味なんだ? 口頭で議論すると,幸が薄くなるということか。わかりました。今年は学会その他の口頭発表は減らして,論文を書くことにしよう。
 

ラディカルな研究者たち

2009-01-11 08:59:37 | Weblog
昨日,年末に買ったカーナビを搭載して,つくばに向かう。吸盤でダッシュボードにつけるタイプだが,走り出して10分ほどするとポロリと落ちる。仕方なく音声ガイドをたよりに,首都高から常磐高速へ。あとは勝手知ったる道のりである。「研究学園」駅の近くに新たにマンションが建っている。オランダだったか欧州の新興都市で見た光景と重なる。とにもかくにも時間通りに到着。

午前中,秋山研で実験の打ち合わせの後,池上高志先生の集中講義を聴く。タイトルは「構成論的アプローチと複雑系」。休日なのに学生が大勢集まっている。そこに混じって講義を聴くが,休み時間に聞こえてくる雑談から,それなりの読書量,問題意識が伺える。最近学生といえば「あちら側」の存在としてしか見ていなかったが,今回「そちら側」に立ってみたことで,ふだん見えていなかったものがちらっと見えた。

さて,池上さんの話だが,今日は基礎編ということで,最近の物理学ないし複雑系の研究が達成した重要な成果であり,彼の研究を基礎づける10のテーマが語られた。それらを,講義に登場した順に列挙すると以下の通り。

Dissipative Structure(散逸構造)
Chaos
Class 4
SK Model (Spinglass)
Stripe
Shift Map
Open Dynamics
Dynamic Recognizer
Demon (Maxwell's)
Shape Grammar

冒頭,池上さんは自分の立ち位置として,意味のレイヤーと原子・分子からなるレイヤーの「中間層」を研究対象とすること,それらを他方に還元しないことを宣言する。十分理解したわけではないが, それが従来にない独自の学問領域を作ることであり,非常にラディカルなアジェンダだということはわかる。この話は講義のあとの食事会でも続く。

池上さんに,もっとラディカルになるべきだとけしかけるのが,金子守先生だ。金子先生にご自身の専門分野(ゲーム理論)でこれまでラディカルであった研究者は?と問うと,筆頭がフォン・ノイマンで,かなり差が開いて(!)ナッシュである,という答えが返ってきた。そのあとは,おそらくもっと差が広がるのだろう,特に名前が挙がらなかった。

いうまでもなく,ここでいうラディカルとは,単に既成の権威に反抗しているという意味ではなく,学問を本質的に飛躍させるという意味である。それを追求する二大巨頭を前に,少し酔っぱらいながらも緊張した時間を過ごした。この二人を悠然と見守る秋山さんもすごい。そして,物怖じせず発言する院生,学生たちに希望を感じる。

ぼくの専門であるマーケティングや消費者行動は,いわばべったり意味のレイヤーの側にいて,経済学や心理学から借りてきた「科学的」手法を切り貼り的に使いながら,何らかの物語を紡いでいる。ぼくとしては,そういう世界をそれなりに居心地がいいと感じながらがも,より普遍的なレイヤーでの研究への関心も断ち切れない。

そちら側でたいした研究ができないとしても,フィールドワークする生物学者が理論家に数理モデル化すべき現象を提供するように,何か面白い現象を発見したり,理論家たちに通訳したりするぐらいのことはできるかもしれない。消費者行動研究には,そのためのいいネタがあると思う(これが昨夜のぼくの発言で,最もましなことかな・・・)。

ホテルに帰り,おにぎりでも買おうと近所のコンビニを探すが,あるはずのところにない。寒風吹きすさぶなか,深夜営業のスーパーまで歩く。ほとんど人影がない広大な空間に,イルミネーションで彩られたたくさんの木々が明るく光っている。つくばとはつくづく妙な場所だが,見えないところで多くの知性がうごめいている。
 
次回の集中講義は月曜日。