Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

「ゼミ」という日本的仕組み

2009-01-17 17:58:50 | Weblog
昨日は「統計学」最後の授業。出席を取らない授業で,最前列に座りながらずっと突っ伏して寝ている学生もいれば,演習問題の「正解」に誤りがあることを指摘に来た学生もいる。そうした両極の間にいる学生が,どれだけ講義を理解してくれたか。それは,来週の今頃はっきりするだろう。

ゼミでは,来年度何をするか話し合う。多くの学生が R を勉強する覚悟を決めている模様。言い出しっぺのぼくが日和ってはいけない。教科書に選んだのは『Rによるやさしい統計学』だ。R のインストールから主な統計手法の解説まで,なかなか親切な作りだし,事例も現代的だ。

Rによるやさしい統計学
山田 剛史,杉澤 武俊,村井 潤一郎
オーム社

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ぼくが教える学部では,教養の選択科目に「統計学」があるものの,実際のデータ解析を学ぶ場は,個別のゼミか,あとは本人の自習しかない。ゼミの役割がきわめて重要だが,そこで何を学ぶかは教員次第,運次第である。つまり,日本の大学とは,よくも悪くも「私塾」の集合体なのだ。

今日,ニューヨークの高田さんと久しぶりにお会いする。ランチョン→ラドリオという神保町の歴史を訪ね,やや長めのランチをとる。日本の大学のゼミはいわば教員付サークル活動だが,米国の大学にはそのような仕組みはない。小クラスでの「補習」を,院生のTAが行うぐらいだとのこと。

日本の大学では試験監督からイベントの見回りまで,何から何まで教員に降りかかる(実際,今後1ヶ月,4日に1日はそうした「業務」が待っている)。米国の大学の教員から見れば,信じられない慣習が多すぎるにちがいない。日米の大学システムはあまりにも違うのだ。

では米国型システムを導入すべきかというと,日本の教員の多くは反対だろう。米国流の激しい競争はいやだということもあるが,学生とのウェットな関係が決して嫌いじゃないからだ。多くの学部ゼミOBに囲まれての記念写真。多くの大学教員がうれしそうに写真に収まっている。

ぼく自身はどうか? そういう機会があれば,間違いなくうれしいはずだ。入試の監督など,どう理屈をつけても幸福には感じられないが,ゼミという制度には希望がある。一部の学生には不運だったとしても,小さな私塾を好き放題のカリキュラムで運営するのは「教師冥利」に尽きる。
 
そうそう,高田さんから新著をいただいた。

マーケティングリサーチ入門 (PHP BUSINESS HARDCOVER)
高田 博和,奥瀬 喜之,上田 隆穂,内田 学
PHP研究所

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簡潔にまとめられた,マーケティング・リサーチの教科書である。標準的に習得すべき事項がきちんと網羅されている点で,全国の商・経営学部やBスクールで採用されるべき教科書だといえる。こうした流儀が,米国流大学教育の優れた点であり,大いに学ぶべき面だと思う。

一方,ゼミという私塾では,標準にとらわれず,ユニークな勉強をしたい。しかし,学部レベルでいきなり標準を外れることは難しい。そこで優れた標準をいくつか用意し,その組み合わせにユニークさを発揮するのがよいのではないか。もちろん,いうは易く,行うは難し。やってみなけりゃ。