お客様の斜め４５度に立つクアトロの父。
膝を折り、目線を下げるクアトロの父。
「本日は、特上ウニが売り切れでございます」とクアトロの父。
お客様に、残念な報告をする時は、正面から目を見つめて話したり、上手から見下ろして話したりすることは避ける。
丁寧に話しても、ここを間違えると喧嘩を売っているように思われるものだ。
「えー、特上ウニを食べに来たのにどうしてくれるの」
と、興奮してクレームを発するお客様には、逆に冷静にゆっくりと説明するのは、逆効果だ。
ひとの話を聞いていないと思われるものだ。
ここは、テンションを合わせ呼吸を合わせて、本当に申し訳ないと力説しよう。
ちょっと胸を張って、お客様の正面から切り出すクアトロの父。
「本日は、美味しいスルメイカのパスタあります」
クアトロの今日のおすすめは、スルメイカだ。
スルメイカの鮮度は色で解るが、釣りたては透き通るように白い。
そして、光るような黒になる。
やがて濁った白になり、また汚れた黒になっていく。
刺身で食べるのには、光るような黒が良い。
クアトロで今日はその光るような黒いスルメイカを食べよう。
と、いったクアトロの父の誘いに乗り、家族には内緒でひとりで美味しいものをクアトロで食べたとする。
翌日、家族に尋ねられる。
「夏休みの最後にみんなでクアトロへ行きたいわ、あなたは昨日どこで何を食べたの」
「え、クアトロって何だっけ」
こういうとっさの嘘をつくと、右上に視線が動く。
「夏休みの最後にクアトロへ行きたいわ、あなたは昨日どこで何を食べたの」
「えーと、普通の居酒屋で普通のイカなどを食べたような記憶が・・・」
こういう準備をした嘘をつくと、左上に視線が動く。
やはり右に視線が動くのは経験していないことだからであり、左に視線が動くのは準備したことだからだ。
どちらにしても、上に視線が動いたり視線がさまよったりするのは怪しまれる。
家族を出し抜いてひとりでクアトロで美食をするときは、目の動きに注意しよう。
昔のことを思い出そうとすると左に視線が向かう。
まだ知らないことを想像しようとすると右に視線が向かう。
「このワインはどうでしたか」と、お客様に訊ねるクアトロの父。
お客様が、左に視線を動かして「うーん、美味しかったよ」と云えば、これまでの同じタイプのワインと味を比較している可能性が高い。
お客様が、右に視線を動かして「うーん、美味しかったよ」と云えば、いままでに経験していないワインの味の可能性が高い。
すると、次におすすめするワインに応用しなくてはならない。
左に視線を動かしたお客様には、「次は、このワインは飲んだことがありますか」とか。
右に視線を動かしたお客様には、「次は、さらに変わったタイプのワインがありますよ」とか。
しかし、ほほが少し引きつって「うーん、美味しかったよ」と云うお客様には注意しよう。
あまり気に入っていない可能性がある。
ほほが引きつったお客様は、少し遠くから見守ろう。
左右に視線が動きそうなオーストリアの古くて新しいワイン“ローレンツ”も再入荷。
お諏訪さまのお祭りは、今日が本番。
例年、今日は祭事だけで、出店などは出なかったが、今年から今日も出店が出るとのこと。
豊四季界隈の子供達は、このお祭りが終わるといよいよ夏休みの宿題の追い上げだ。
豊四季界隈の大人達も、いよいよ夏の味覚の追い上げだ。
夏に美味しい魚を食べ忘れている大人も多いことだろう。
今日のクアトロのおすすめは神津島からクロムツとイサキ、鹿児島からハタなどだ。
夏は白身の魚や青魚のさっぱりとした味わいのものが旨い。
汗をかいて疲れた体に夏野菜も欠かせない。
毎日、そうめんやひやむぎ、冷やし中華では体がもたない。
夏ばて予防にも夏の味覚をクアトロで味わう。
おすわさまのお祭りの後の、豊四季界隈の習わしである。
今日はお諏訪さまのお祭りの夜宮。
今年は例年以上の人出だった気がする。
「わっしょい、わっしょい」元気なかけ声が境内でこだまする。
こども御神輿が神社に帰ってきた。
クアトロの孫たちも、元気に手を繋いで参拝。
神様のデパートお諏訪さまのご利益は疑おう事なかれ。
来年も再来年もずっと孫達が集まれるお祭りでありますようにと祈るクアトロの父である。
それと、クアトロの商売繁盛も付け加えたクアトロの父だ。
