どんよりとした曇り空の中、寒い国からクアトロを訪れた男がいる。いかにも悪相のその男は、八角と呼ばれている。北海道を代表する冬の味覚である。その刺身は、脂身が細かく白身に混じり、口の中でとろける。およそ、その人相いや魚相からは想像出来ない上品な味わいである。
やがて、外は雨に変わった。これから訪れる梅雨時のような雨に変わった。梅雨の時期になると、もてはやされるのが鱧である。この鱧も悪相にかけては、八角に負けない。よりによって、その鱧までも今日、長崎からクアトロに現れた。骨切りし湯通ししたお刺身を梅肉でいただくその鱧の味わいは、梅雨から夏を乗り越える英気を養う。
冬と夏が交わり、相争うかのような雨降りの今日、クアトロで八角と鱧は激突したのだ。春の珍事としか云いようのない両者の対決である。クアトロのお客様どちらを選ぶのだろうか。
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