Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(3月13日)

2021年03月13日 | 医学と医療
今回のキーワードは,変異株にもワクチン有効の可能性,ワクチン完了者の生活の変化,ワクチン接種下のギラン・バレー症候群の注意点,新たなウイルス感染経路の発見,無症状感染者におけるウイルス特異的な細胞免疫応答,後遺症として重要な神経症状です.

ファイザーワクチンの効果に関して,変異株であっても,ウイルス中和能は多少落ちるものの十分有効である可能性が示唆されました.これらの科学的根拠をもとに,世界ではワクチン2回接種完了者にどのような生活様式の変化を認めるかという議論が始まっています.これを明確にすることで,ワクチン接種率が向上し,さらに生活における制限が解除されていく可能性があります.一方,ワクチンの接種率向上の妨げになるのは,ワクチンに伴う有害事象とそれを拠り所としたネガティブキャンペーンです.歴史的にワクチン接種との関連が指摘されてきたギラン・バレー症候群は重要な問題ですが,ワクチンの接種に関わらず一定頻度で生じえます.つまり患者発生があった場合も,発生率の増加の有無を科学的に評価する必要があります.先手を打つ形で,すぐにワクチンとの関連を言及することを戒める声明がBrain誌に発表されています.とくに脳神経内科医は心に留めておく必要があります.

◆ファイザーワクチン2回接種は変異株に対しても有効の可能性.
イギリス(B.1.1.7系統),南アフリカ(B.1.351系統),ブラジル(P.1系統)で初めて報告された変異ウイルスが世界的に広がっている.ファイザーワクチン(BNT162b2)の効果を検討するため,2020年1月に分離された初期のウイルスUSA-WA1/2020と,上記3つの遺伝子変異を組み込んだウイルス,さらに4番目として,B.1.351系統で見つかったN末端ドメインの欠失と世界的に優勢なD614Gの置換(B.1.351-∆242-244+D614G),5番目としてB.1.351系統で見つかった受容体結合部位のアミノ酸に影響を与える3つの変異(K417N,E484K,N501Y)とD614Gの置換(B.1.351-RBD+D614G)を持つものを準備した(図1の5種類).ワクチンの2回接種を行った臨床試験参加者15名から採取した20種類の血清サンプル(●が2週後,▲が4週後)を用いて,中和試験(PRNT50)を行ったところ,すべての血清サンプルは,5種類すべてのウイルスを効率的に中和した(図1).ほとんど血清サンプルは,1:40よりも高い力価で中和した.また幾何平均中和力価は,順に532,663,437,194,485,331であった.USA-WA1/2020と比較して,B.1.1.7スパイクウイルスとP.1スパイクウイルスの中和はほぼ同等,B.1.351スパイクウイルスの中和も低いものの強固であった.以上より,ファイザーワクチンを2回接種すれば変異株に対しても防御できる可能性が高い.ただし本当の効果は,変異株感染地域でのワクチンの効果を検証することで明らかになる.
New Engl J Med. March 8, 2021(doi.org/10.1056/NEJMc2102017)



◆ワクチンを2回接種完了し,2週間経過した人ができること.
米国疾病対策予防センター(CDC)は,ワクチンを2回接種し,少なくとも2週間経過した人(ワクチン完了者;fully vaccinated people)に対する初めての暫定的な公衆衛生上の推奨を発表した.これは地域社会での感染拡大の程度,ワクチン完了者の頻度,ワクチンに関する科学的知見の発展に基づいて更新され,できることが増えていくものと考えられる.

A. ワクチン完了者は,以下のことができる.
1)マスクをしたり,物理的距離を置いたりせずに,屋内で他の完全にワクチンを接種した人と面会することができる(図2).
2)重症COVID-19のリスクが低い単一世帯の未接種者と,マスクや物理的な距離を置かずに屋内で面会する(図2).
3)症状がなければ,(感染者への)暴露後に,隔離や検査をしなくてよい.

B. ワクチン完了者も引き続き以下を遵守する.
1)公共の場では,マスクの着用や物理的な距離をとるなどの予防措置をとる.
2)重症COVID-19のリスクが高い未接種者と面会する場合や,重症COVID-19のリスクが高い未接種者を家族に持つ場合,マスクを着用し,物理的な距離を保ち,その他の予防策を遵守する.
3)複数の世帯にまたがる未接種者と面会する際には,マスクを着用し,物理的距離を保ち,その他の予防策を講じる.
4)中規模・大規模な人の集まりを避ける.
5)COVID-19の症状がある場合は検査を受ける.
6)各雇用主が発行する規則に従う.
7)CDCや保健所の旅行に関する要件や推奨事項に従う.
CDC. Mar. 8, 2021(https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/vaccines/fully-vaccinated-guidance.html)



◆CDCによる推奨の理論的背景.
ワクチン完了者に対する上記の推奨の根拠となったデータが,JAMA誌において6つまとめられている.
1)現在,米国で認可されているCOVID-19ワクチンは,重症例を含むCOVID-19に対して有効である.
2)予備的なエビデンスだが,COVID-19ワクチンが,B.1.1.1.7(英国株)を含む様々な変異株に対し,ある程度の防御効果を示す可能性が示唆されている.しかし,B.1.351株(南アフリカ株)については,中和能と有効性の低下が認められる.
3)ワクチン完了者は無症状感染の可能性が低く,他の人に感染させる可能性が低いことを示唆する証拠が増えてきている.
4)モデル研究では,マスクの使用や物理的距離などの予防策が,ワクチン接種中も引き続き重要であることが示唆されている.しかし,ワクチンを接種した人が感染リスクの低い活動を再開できるようにすることで,バランスのとれたアプローチをとる方法もある.
5)ワクチン完了者に対する特定の措置の緩和は,COVID-19ワクチンの接種率向上に有用かもしれない.
6)ワクチン完了者における感染のリスクは,市中感染が持続している限り,完全に排除することはできない.またワクチン完了者が感染し,他の人に感染を広げる可能性もある.しかし,検疫要件のような措置を緩和し,物理的隔離を減らすことの利点は,ワクチン完了者が感染したり,他人にうつすリスクを上回る可能性がある.
JAMA. March 10, 2021. (doi.org/10.1001/jama.2021.4367)

◆ワクチンとギラン・バレー症候群の関連は慌てて結論を出すべき問題ではない.
複数の国の研究者の連名による標題の声明が,Brain誌のコメント欄に発表された.ワクチン接種が開始されたあとも,ワクチンと関係なく,希少疾患が偶発的に生じる可能性がある.これを理解していないと,有害事象をワクチン接種に伴うものと誤認し,ワクチン接種率の低下と,不要な罹患や死亡につながってしまう可能性がある.例えばギラン・バレー症候群(GBS)の年間発症率は人口10万人あたり約1.7人である.10億人では,年間約1万7000人のGBSが発生する.よって40億人規模の予防接種計画を1年間に実施したとすると,この期間内には,6万8,000人のGBS患者が自然発生する.このうち,1万3076例は,4週間間隔で2回接種した後の10週の間に発生するが,これだけワクチンとは無関係なGBSの発症が生じうるわけである.以上より,ワクチン接種率に影響を及ぼしうるGBSのような希少疾患は,発生率の増加の有無を,透明性を持って詳細に精査し,監視する必要がある.そのためには厳格に設計されたGBSサーベイランスプログラムが必要で,かつ科学者,編集者,マスメディアを含むすべての人は,誤った判断につながる統計や疫学の誤用をチェックしなければならない.そして患者数増加の明確な証拠がない限り,意思決定者はワクチン接種を中止してはならない.
Brain. 144, 357–360. 2021(doi.org/10.1093/brain/awaa444)

◆新たなウイルス感染経路の発見(可溶性ACE2への結合と,受容体を介したエンドサイトーシス)
SARS-CoV-2ウイルスは,感染する際,細胞に存在するアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体やニューロピリン1を使用することが知られている.香港から新たな感染経路が報告された.まずウイルス感受性の高いヒト尿細管由来細胞株HK-2を見出し,この細胞を用いてゲノムワイドなRNAiスクリーニングを行い,ウイルス感染に関わる生物学的経路を検討して,バソプレッシンシグナルに関わる分子がウイルス感染に関わることを確認した.そして,切断プロテアーゼADAM17により切断された可溶型ACE2(soluble ACE2;sACE2)がウイルス感染に関与していることを初めて明らかにした(図3).さらに①SARS-CoV-2ウイルスは,そのスパイクとsACE2との相互作用により,AT1受容体を介したエンドサイトーシスを利用して感染すること,②スパイクとsACE2-バソプレシンとの相互作用により,AVPR1B受容体を介したエンドサイトーシスを利用して感染することも明らかになった.以上より,SARS-CoV-2ウイルスは,アンジオテンシン受容体やバソプレシン受容体を有するさまざまな細胞にも感染できることが分かった.
Cell. March 2, 2021(doi.org/10.1016/j.cell.2021.02.053)



◆無症状感染者ではウイルス特異的な細胞免疫応答を獲得している.
COVID-19では,無症状感染者がしばしば認められるが,そのメカニズムの解明は,免疫によるウイルス防御機構の理解につながる.シンガポールからの研究で,抗体陽性後でも無症状であった 85名と発症をした75名において,SARS-CoV-2特異的T細胞を比較した.結果としては,まずSARS-CoV-2特異的T細胞の頻度は,両群で同程度であったが,無症状感染者のウイルス標的T細胞では,IFN-γとIL-2の産生増加が認められた.さらに無症候性感染者では,IFN-γとIL-2の産生増加に見合ったIL-10および炎症性サイトカイン(IL-6,TNF-α,およびIL-1β)産生増加が認められた.一方,症候性感染者ではSARS-CoV-2特異的T細胞の活性化に見合わない,不均衡な炎症性サイトカインな分泌が誘発されていた.このように,無症状のSARS-CoV-2感染者は,抗ウイルス免疫が抑制気味ではなく,むしろ積極的にウイルス特異的な細胞免疫応答を獲得していると考えられた.
J Exp Med (2021) 218 (5): e20202617(doi.org/10.1084/jem.20202617)

◆診断3ヶ月後の後遺症は神経症状が多く,QOL低下も認める.
オーストリアから診断の3ヵ月後の神経学的症状とQoL(Quality of Life)を評価した研究が報告された.前向き多施設観察コホート研究として行った.連続した135名の患者のうち,31名(23%)はICUケアを要した重症例,72例(53%)は一般病棟に入院した中等症例,32例(24%)は外来ケアを受けた軽症例であった.3ヵ月後の追跡調査では,20例(15%)がCOVID-19以前には認めなかった1つ以上の神経症状を呈していた.その内訳は,ポリニューロパチー/ミオパチー(n=16,12%),軽症脳症(n=2,2%),パーキンソニズム(n=1,1%),起立性低血圧(n=1,1%),GBS(n=1,1%),虚血性脳卒中(n=1,1%)などであった(図4).また嗅覚障害に関しては,自己申告では17%と低かったものの,客観的検査では57/127例(45%)に認められた.ICU患者では,脳症は時間の経過とともに減少した(29%→3%,P=0.008).追跡調査時には23%に認知障害,31%にQoL低下が見られた.うつ,不安,心的外傷後ストレス障害の症状がそれぞれ11%,25%,11%に認められた.急性感染症から回復したにもかかわらず,3ヵ月後の追跡調査では神経症状が優勢であった.特に,多くの患者で嗅覚障害が持続していた.
Eur J Neurol. March 07, 2021(doi.org/10.1111/ene.14803)





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