珍しく神経内科以外の論文を読みました.レジデントの先生方との抄読会でチーフレジデントが抄読会に選んだ論文.最近,ベッドサイドで気管内挿管を行うことが幾度かあり,読んでみたとのこと.クリニカルクエスチョン(臨床的問題点)は「片肺挿管(気管内チューブが奥に進み過ぎで,いずれかの気管支にまで進めてしまうこと)」に気づくために最も有用なベッドサイドでのチェック方法は何か?というものである.
少し知識を整理しておきたい.気管支は左右の角度が異なるため(およそ右45度,左60度),右主気管支への片肺挿管になりやすい(誤嚥性肺炎も同じ理由で右に多い).よって聴診で左肺の音が聞こえないとき,片肺挿管を疑う.また視診・触診でも左胸郭の動きが悪くなる.なぜ片肺挿管が問題かというと,左肺が換気されず低酸素血症になることと,右肺が過度に膨らみ,圧外傷,気胸を来すことがあるためだ.
本題に戻る.論文はオーストリアからのもので,大学病院の麻酔科の先生による研究である.対象は19~75歳の婦人科ないし泌尿器科の待機手術患者160名.方法としては,気管支鏡を用いて,80名に気管へのチューブの留置,残り80名に右主気管支内へのチューブの留置を行なった.1年目のレジデント22名と2年以上の経験を積んだ麻酔医32名によって,挿管チューブの留置部位を,以下の4つの方法により診断させ,その感度・特異度を調べるというものである.
①聴診,②胸郭の動きの観察,③チューブの深さ,④①~③すべて
結果としては,レジデントは聴診法では55%で片肺挿管を見逃す結果となり,経験のある麻酔科と比較し,有意に頻度が高かった(オッズ比10.0,95%CI 1.4~434).片肺挿管の検出感度は,④(すべての組み合わせ)では100%検出可能,③チューブの深さでは88%となり,いずれも①聴診(65%)や②胸郭の観察(43%)より有意に検出感度が高かった.特異度については4つの方法で差はなかった.③に関して,チューブの深さは,平均で女性21cm,男性23cmであった.しかし,それぞれの20%,18%の患者で,チューブ先端の位置が,気管分岐部の直上2.5cm以内にあった.2.5cmというのは,頭の位置が動くことによって気管チューブが主気管支に届きうる距離と言われている.よって,1cmほど余裕を見て,女性20cm,男性22cmぐらいが良いという結論だ.ただし,人種差(体格差)があり,日本人におけるチューブの深さは若干短めでも良い可能性はある.
聴診のみでは案外,片肺挿管に気がつかないということに留意し,胸郭の動きの観察やチューブの深さも利用して挿管チューブの位置確認を行うことが大切ということである.もちろん最終的には胸部X線が確実である.
日常的に行われる診療手技にも疑問を持ち,答えをきちんと出していく姿勢はとても大切であることを改めて感じた論文でした.
Endobronchial intubation detected by insertion depth of endotracheal tube, bilateral auscultation, or observation of chest movements: randomised trial
BMJ. 2010 Nov 9;341:c5943.
少し知識を整理しておきたい.気管支は左右の角度が異なるため(およそ右45度,左60度),右主気管支への片肺挿管になりやすい(誤嚥性肺炎も同じ理由で右に多い).よって聴診で左肺の音が聞こえないとき,片肺挿管を疑う.また視診・触診でも左胸郭の動きが悪くなる.なぜ片肺挿管が問題かというと,左肺が換気されず低酸素血症になることと,右肺が過度に膨らみ,圧外傷,気胸を来すことがあるためだ.
本題に戻る.論文はオーストリアからのもので,大学病院の麻酔科の先生による研究である.対象は19~75歳の婦人科ないし泌尿器科の待機手術患者160名.方法としては,気管支鏡を用いて,80名に気管へのチューブの留置,残り80名に右主気管支内へのチューブの留置を行なった.1年目のレジデント22名と2年以上の経験を積んだ麻酔医32名によって,挿管チューブの留置部位を,以下の4つの方法により診断させ,その感度・特異度を調べるというものである.
①聴診,②胸郭の動きの観察,③チューブの深さ,④①~③すべて
結果としては,レジデントは聴診法では55%で片肺挿管を見逃す結果となり,経験のある麻酔科と比較し,有意に頻度が高かった(オッズ比10.0,95%CI 1.4~434).片肺挿管の検出感度は,④(すべての組み合わせ)では100%検出可能,③チューブの深さでは88%となり,いずれも①聴診(65%)や②胸郭の観察(43%)より有意に検出感度が高かった.特異度については4つの方法で差はなかった.③に関して,チューブの深さは,平均で女性21cm,男性23cmであった.しかし,それぞれの20%,18%の患者で,チューブ先端の位置が,気管分岐部の直上2.5cm以内にあった.2.5cmというのは,頭の位置が動くことによって気管チューブが主気管支に届きうる距離と言われている.よって,1cmほど余裕を見て,女性20cm,男性22cmぐらいが良いという結論だ.ただし,人種差(体格差)があり,日本人におけるチューブの深さは若干短めでも良い可能性はある.
聴診のみでは案外,片肺挿管に気がつかないということに留意し,胸郭の動きの観察やチューブの深さも利用して挿管チューブの位置確認を行うことが大切ということである.もちろん最終的には胸部X線が確実である.
日常的に行われる診療手技にも疑問を持ち,答えをきちんと出していく姿勢はとても大切であることを改めて感じた論文でした.
Endobronchial intubation detected by insertion depth of endotracheal tube, bilateral auscultation, or observation of chest movements: randomised trial
BMJ. 2010 Nov 9;341:c5943.